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「モータル・コンバット」はコロナ禍のアジア人ヘイトをブチ殺す究極神拳である!!!

橋口幸生 橋口幸生


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「アジア人や有色人種のチームが出てくるハリウッド映画はあまりないので、出演を光栄に思います。「クレイジー・リッチ!」はアジア人キャストのラブコメ映画でしたが、こちらは 暴力的なアクション映画。「クレイジー・バイオレンス!」ですね(笑)」

これは主役ヒーローのひとりを演じるドイツ系中国人マックス・ファンのコメントだ(出典:公式プログラム)。「モータル・コンバット」という映画の本質をうまくとらえている。



出典:IMDb

ハリウッドのアクション超大作に、日本人を含むアジア人を主要キャラにキャスティングし、大ヒットさせた(公開週の全米週末興行ランキング1位を記録)。これが「モータル・コンバット」の映画としての最大の功績だ。

上述の「クレイジー・リッチ!」(2018)も、アジア人の映画は当たらないというハリウッドの偏見をくつがえし、大ヒットした作品だ。コメディとアクションという違いはありながら、同じことを成し遂げた映画として、マックス・ファンは名前を挙げたのだ。

映画本編を掘り下げる前に、まずは本作にいたるまでの歴史をおさらいしておこう。

原作は世界的大ヒットゲーム



1991年発売の第一作 出典:Wikipedia

「モータル・コンバット」は、格闘ゲームの代名詞として世界的には「ストリート・ファイター」や「鉄拳」と並ぶほどの人気を誇る、同名のゲームの実写映画化だ。30年近い歴史があり、スピンオフも含めて現在までに全16作がつくられている。

しかし、「ストリート・ファイター」や「鉄拳」を知っていても、「モータル・コンバット」を知っている日本人はほとんどいないのではないだろうか。かくいう筆者も存在は知っていたものの、プレイしたことは一度もない。

それもそのはずで、過激な暴力描写が原因で、1996年のシリーズ4作目を最後に国内発売が実現していないのだ。

初代ゲームの発売は1992年。その1年前には「ストリート・ファイター2」が発売され、世界的大ヒットを記録していた。当然、「モータル・コンバット」もスト2の強い影響下にある。忍者や少林寺拳法の使い手など、主要キャラの多くが東洋モチーフなのは、そのあらわれだ。しかし、日本人にとっての東洋ではなく、アメリカ人が想像するファンタジーとしての東洋になっているのがおもしろい。これが「モータル・コンバット」最大の特徴であり、大ヒットした理由のひとつだろう。

映画版「モータル・コンバット」の歴史

「モータル・コンバット」最初の実写映画化は1995年に実現している。監督は同じくゲームの映画化作品「バイオハザード」で知られるポール・W・S・アンダーソンだ。この時も全米1位にランクインする、なかなかのヒット作になっている。しかし、映画好きな人はご存知と思うが、この監督にはポール「ダメなほうの」W・S・アンダーソンという呼び名があり、あまり評価が高い人ではない。1995年版「モータル・コンバット」もアクション映画の名作として語られることは少ない。

しかし、そんな1995年版について、次のような思い出を持つ者もいる。

「1995年版ではロビン・ショウに憧れ、続編は学校をサボって観に行ったな。(笑)当時、アジア人の主役は珍しかったから話題になっていたし、僕も大ファンになりました」(出典:公式プログラム)

これは2021年版に出演しているルディ・リンの言葉だ。95年版でロビン・ショウが演じたキャラクター、リュウ・カンを2021年版で演じている。

当時8歳の少年が、同じアジア人(ロビン・ショウは香港出身)が大スクリーンで活躍する姿にどれだけ勇気づけられたか想像に難くない。シュワちゃんやスタローンとは桁違いの感情移入ができたはずだ。



1995年版のリュウ・カン 出典:IMDb



こちらは2021年版  出典:IMDb

しかし、他の主要キャラクターには、白人の俳優がキャステイングされている。人間界の守護神ライデンを演じたのはクリストファー・ランバート。スコーピオンとサブ・ゼロという大人気の忍者キャラクターは、それぞれ白人俳優がキャスティングされた



1995年版のライデン、2021年版では浅野忠信が演じた 出典:IMDb



1995年版スコーピオン 出典:IMDb

「え、忍者を白人が演じるなんておかしくない?」

日本人であれば、誰もがそう思うだろう。

しかし、1995年版だけを責めるわけにはいかない。

アジア人キャラクターを白人が演じることは、ハリウッドでは当たり前に行われているからだ。

ホワイトウォッシュ問題について

1995年版「モータル・コンバット」より1年前に、「ストリート・ファイター2」の実写映画化作品「ストリート・ファイター」が公開されている。



出典:IMDb

ご存じの通り、ゲームの主人公はリュウという名前の日本人武道家だ。しかし、映画版では、アメリカ軍人のガイルに主人公が変更されている。演じたのは、おなじみジャン・クロード・ヴァンダムだ。白人のスターを主人公にしないと世界的なヒット作にはならないと判断されたのだろう。(ちなみにリュウは日本人ではなく、中国系の俳優が演じている)

しかし、ゲーム内の白人キャラを主人公にする程度の改変は、まだ良心的と言える。アジア人キャラそのものを白人キャラに変更してしまった映画が、山ほどあるからだ。

近年でもっとも悪名高いのは「ゴースト・イン・ザ・シェル」(2017)だろう。

日本を代表するコンテンツと、ハリウッドの潤沢な予算と最先端映像技術。成功が約束された組み合わせに思えるが、そうはうまく行かなかった。主人公の草薙素子役に、スカーレットヨハンソンが起用されたからだ。



これが… 出典:IMDb



こうなってしまった 出典:IMDb

「主人公がアジア人ではお客が入らないよなぁ」

「アクション映画で実績のある白人女優を起用しよう」

「ブラック・ウィドウで人気のスカーレット・ヨハンソンがいいんじゃない?」

そんな議論が、映画会社のえらい人たちの間でなされたのだろう。。現場ではどうしてもビジネス上の実利・運営に話題が集中し、芸術作品としてのテーマ性には軽んじられがちだ。

結果、映画は批評的にも興行的にも散々な結果に終わる。

批判を受け、スカーレット・ヨハンソンは「もう人種の異なる役は受けない」という、冷静に考えれば当たり前なコメントを出した。

多様性を重視することで知られるマーベルも、同様のミスをしたことがある。「ドクター・ストレンジ」(2017)で、主人公の師となる重要なキャラクター、エンシェント・ワンに、白人女性のティルダ・スウィンドンを起用したのだ。



出典:IMDb



こちらが原作版 出典:marvel.com

原作でのエンシェント・ワンは、500歳を越えるチベットに住む老人という設定だ。ミステリアスな高僧のようなキャラクターを、アジア系の老人として描くのは、それはそれでステレオタイプだとマーベルは考えたらしい。かといってアジア人女性にすると、「ドラゴン・レディ」と呼ばれる、パワフルなアジア人女性のステレオタイプになってしまう。悩んだ挙句、ティルダ・スウィンドンを起用した。マーベル・スタジオ社長のケビン・ファイギは、今ではこのキャスティングを「後悔している」と語っている。

このように白人がアジア人キャラクターを演じることを、「ホワイト・ウォッシュ」と呼ぶ。

そもそもハリウッドは白人中心で、アジア人の活躍の場は少ない。それなのに、アジア人キャラクターまで白人に演じられてしまったら、アジア人俳優は一切仕事が無くなってしまう。当事者にとっては死活問題なのだ。

しかし、「ゴースト・イン・ザ・シェル」から4年が、「クレイジー・リッチ!」から3年が経ち、「モータル・コンバット」が大成功を収めた。

もう「アジア人の映画はヒットしない」と誰も言えないだろう。今ごろ映画会社の会議室では、2匹目のドジョウを狙った企画が提案されているに違いない。

最強の還暦! 真田広之の超絶アクション!

そんな、アジア人にとって記念碑的な映画で、事実上の主演をつとめているのが真田広之であることを、日本人はもっと誇りに思うべきだろう。



出典:IMDb

一応、映画には若くてイケメンの主人公っぽいキャラクターが登場するが、驚くほど影が薄い。その代わりに、冒頭とラストのいちばんおいしいアクション・シーンを、すべて真田広之が持っていってしまうのだ。

バネのように跳ねながら悪の軍団を殺りまくる姿は、とても60歳とは思えない。

真田広之の海外でのキャリアは長く、1982年に香港で「龍の忍者」に主演。海外映画としては初の主演作だ。



出典:IMDb

1999年から2000年にかけては、イギリスのロイヤル・シェイクスピア・カンパニー公演「リア王」に唯一の日本人キャストとして出演。女王エリザベス2世より名誉大英帝国勲章第5位を授与されるほど高く評価されている。

その後は「ラスト・サムライ」(2003)、「ウルヴァリン: SAMURAI」(2013)などに出演。着実にハリウッドでのキャリアを積み上げてきた。

「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019)では、あきらかに自分より弱いヒーロー相手にやられ役をやっていたりもする。筆者同様、釈然としない思いで見ていた人も多いだろう。だからこそ、モーコンで最強忍者スコーピオンを演じる姿には溜飲が下がる。

もともと英語ネイティブではない真田広之にとって、ここまで来るには、並々ならぬ苦難があっただろう。なにしろロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに出演したのは38歳、ロスに拠点を移したのは45歳の時のことなのだ。

「まさに“四十の手習い”で英語を始めました。そうあるべきだと思ったことに従ったわけで、描いていたわけではない。何かを決める時はリスクもありますが、“やりたいことに飛び込んだ自分”と、“飛び込むのを諦めた自分”の10年後を比較してみてどっちがいいか考えました。一度きりの人生、自分を信じるのか信じないのか。環境次第ではありますが、環境作りも自分の仕事です。大変なことも含めて楽しんで欲しいと思います」
出典:オリコン

「レッスンを続けてはいるんですが、役によってアクセントも違うので……。英語って本当に難しくて、出身地や、階級によってアクセントがまったく違うから、向こうの俳優さんでも役柄によってコーチが付くこともあるんです。日本で言う方言指導みたいな感じかな。これがずっと続いていくわけですからぞっとしますよね。それでもなんとか、自分の理想に近づけるように、「日本人だから、しょうがない」っていうところには絶対逃げ込まない覚悟でやっています
出典:シネマトゥデイ

これだけの努力の結果として、スコーピオンの勇姿があるのかと思うと、胸が熱くなるのは筆者だけではないはずだ。



出典:IMDb

年齢にとらわれず、新しいこと、異なる環境にチャレンジする。同じレベルで実践するのは難しくても、見習いたいものだ。

自分に似ていないヒーローに共感できたら、変化が起きる。


黒人に「ブラック・パンサー」があるように、アジア人には「モータル・コンバット」がある。
もちろん映画としては、「ブラック・パンサー」に比べてしまうと、かなりおおらかなつくりだ(笑)。

小学生が書いたような脚本、中学生が描いたようなキャラクター。ツッコミどころを挙げるだけでも、数千字の原稿が書けるだろう。

だからこそ「モータル・コンバット」は世界中の小中学生と、小中学生の心のまま体だけ大人になってしまった者共を夢中にしているのだ。

コロナ禍で、アジア人への差別が深刻化している。毎日、学校でイジメられ、泣いている子もいるだろう。しかし、その子達にはスコーピオンがついている。ナメたマネをしようものなら「フェイタリティ」が炸裂! 地獄の業火で焼き尽くしてくれるのだ。

両腕サイボーグのガチムチ黒人ジャックスを演じたメカッド・ブルックスのコメントを公式プログラムから引用して、本稿の締めくくりとしたい。



出典:IMDb

「この映画では、世界中からあらゆる人種の人々が集まり、多様性を語り、世界を救うために団結します。僕にはアジア系アメリカ人としての経験はないけれど、アジア系のヒーローには共感できる。ジャックスに共感できるという方もいるだろうし、大切なのは多様性なんです。今から5年後のヒーローがもっと多様なものになっていれば、10年後の子どもたちは「自分たちの命は大切」なんて言わなくて済むはず。自分に似ていないヒーローに共感できたら、そこで変化が起きるかもしれません。この映画は新しい環境への転換点となると思います


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[イラスト]清澤春香

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