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「ガンズ・アキンボ」ゲームは1日24時間。元気よくゲラゲラしましょう

ハマダヒデユキ ハマダヒデユキ


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おバカ映画は、時々見ると健康にいい。

 

映画を見る際に僕らが求めているものは何でしょう。
涙なしでは見れない感動のストーリーでしょうか。その監督しか出せない巧みな演出でしょうか。目の保養になる俳優でしょうか。

否、強烈なストレス発散と大量のカロリー摂取である。

そこに真剣な考察など一切必要ないのである。そんなもんポップコーンと一緒に、映画館を出たら捨てればいいのである。

今まで散々映画評を書いてきて「お前は何を言ってるんだ?」と突っ込みたくなる人もいることでしょう。でも僕はこの映画を見て、その真実に気づいたのです。


出典:映画.com

ダニエル・ラドクリフ主演のガンアクション映画「ガンズ・アキンボ」。
このポスターからよくわかる通り、B級映画です。はっきり言いましょう、サイコーに頭が悪い作品です。だが、それがいい。

さあ何も考えず、ひたすら高カロリーでクレイジーな世界へHere we go!

96分間ハイテンション、ハイテンポ、ハイカロリー。

ダニエル・ラドクリフ演じるマイルズは、絵に描いたような冴えないオタク会社員。

会社でパワハラされるわ、ガールフレンドにフラれるわ、散々な毎日を過ごしており、そのストレスの解消法はいわゆるネットで「クソリプ」。しかしその「クソリプ」の結果、闇サイト「スキズム」の管理人の怒りを買い、両手を銃で固定される手術を受ける羽目に。さらには全世界配信の殺人ゲームに巻き込まれ、そのクリア条件は迫り来る最強の殺人鬼・ニックスを倒すことであった……。


出典:映画.com

とまあ、ここまで書くと最近流行りのデスゲームものの1つに見えることでしょう。極限状態の人間の苦悩、ネットの闇、冴えなかった主人公がヒーローに目覚める……そんな熱いドラマが鑑賞前は頭に浮かんでいました。

ですが、この至高の「ハイカロリー・おバカ映画」が終わった瞬間、そんなイメージは綺麗に蒸発しました。

全体を通し、ひたすらハイテンションかつハイテンポに進み、頭で考えさせる余地はありません。シリアスシーンに少しでも突入するなら、すぐ垂れ込むお下劣・おバカ展開。そもそも主人公のマイルズが、手が銃になったことでズボンを履けずパンツ丸出し状態で戦う時点でどうかしています。


出典:映画.com

手が武器になってしまう男の苦悩といえば、ジョニー・デップ主演の「シザー・ハンズ」を思い出す人も多いことでしょう。


出典:Amazon.co.jp

凶器になってしまった手で、愛する人を抱きしめられず苦悩する主人公……といった切ない描写も一応ありつつ「ガンズ・アキンボ」の場合は、「ホットドッグを2丁の銃口に挟んで食べようとして、地面に落としまた拾うダニエル・ラドクリフ」というコミカルさの方が爆発しています。

……ちなみにこのアイデアが自宅で浮かんだとき、監督も実際に2つの水鉄砲でやってみたそう。テープで手に固定し、家をウロチョロしながらコーヒーを淹れようとしたり、ドアを開けようとしたり。その奇行を奥さんにがっつり見られたそうです。


出典:映画.com

そんなダニエル・ラドクリフを追い詰めるニックスを演じるのが、サマラ・ウィービング。

Netflix独占映画として配信されている「ザ・ベビーシッター」でも悪魔崇拝集団に所属する殺人鬼ヒロインとして出演している若手女優です。本作でも「ターミネーター」のT-800のようにダニエル・ラドクリフを徹底的追跡。「血飛沫が似合う、セクシーで可愛いサイコパス」としての地位を順調に築いています(褒めてる)。


出典:filmarks.com

さらに2人の生き残りをかけた殺戮ショー「スキズム」の主宰者・リクターを演じるのはネット・デネヒー。

「ハリー・ポッター」シリーズの例のあの人を彷彿とさせる容姿でダニエル・ラドクリフを追い詰めゲラゲラ爆笑する、ニックスとはまた違う味のサイコパスとして作品を盛り上げてくれます。


出典:映画.com

そのサイコパスによってマイルズ自身だけでなく、上司がxxになったり、元カノがxxな目にあったり。そんな過激映像のオンパレードなのに、軽快かつポップに映像化しているのが本作の味。例えるならば「見てるだけでも胸焼けしそうな肉厚ハンバーグバーガーでも、コーラ飲みながら胃に押し込むと案外いける」感じでしょうか。

おかげで「このシーンにはこんな深い理由が・オマージュが……」などの考察が全く湧かないほど見ていてストレスフリー。観客たちの年度末の鬱憤もなくなるほどゲラゲラ笑え、「ああ、こんな頭使わなくてもいい映画ってあるんだな……」という心地よさすら感じさせます。

見よ。これがアラサーを迎え、サイコパスたちと戦うハリー・ポッターの勇姿だ!


出典:映画.com

突き動かすもの。それは20年経っても終わらない魔法

さて、そんなハイテンション・ハイテンポ・ハイカロリー映画の主役を務めたダニエル・ラドクリフ。

その軌跡は、ハリー・ポッターシリーズが終わった頃から順調に積み上がってきたように思えます。


出典:映画.com

これが世界中が惚れた12歳当時、「ハリー・ポッターと賢者の石」(`01)の大天使ダニエル・ラドクリフ君。先ほどの画像と同一人物です。

ここから「死の秘宝 PART2」(`11)までの10年間、シリーズの顔として世界中のファンから彼が注目されたのはご存知の通りです。


出典:Amazon.co.jp

この21歳時点で「BANG Media International」に発表された、イギリスの30歳未満の億万長者で第5位、俳優としてはトップにランクイン。その一方で、2012年の「ウーマン・イン・ブラック」主演中に「群発頭痛」に襲われるなど過酷な状況も経験しています。


出典:Amazon.co.jp

そんなハリー・ポッター終了後、「もしも君に恋したら。」(`13)などで爽やかな役柄を演じつつも、個性的な役が目立つようになっていきます。それが頭に角が生えた「ホーンズ 容疑者と告白の角」(`13)、スキンヘッドになった「アンダーカバー」(`16)、そしてマジックを否定する初の悪役「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」(`16)です。


出典:Amazon.co.jp


出典:filmarks.com


出典:映画.com

何より最大のインパクトとなったのが「スイス・アーミー・マン」(`16)。おならで海を疾走し、体内で飲み水を作る。奇天烈な便利機能搭載の死体役を演じ、大きな話題となりました。(見てください、下記の衝撃の画像!)


出典:映画.com

常軌を逸した脚本なので説得されたのだろうと思われがちなのですが、そうではありません。まともな脚本ではなかったのですが、同等に全くもって美しい脚本だということが手に取るように分かったのです。
読んでいるだけで目の前に映画が浮かんでくるようでした。

正気でない気持ち悪い部分と甘く美しい部分が絶妙なバランスを見せ、それが脚本に全て描かれていたのです。僕はすっかり感銘を受けました。このような役を演じることはもう無いだろうと思い、両手でチャンスを掴みに行きました。
出典:Youtube「ハリポタから20年、いまの心境を語る。ダニエル・ラドクリフ インタビュー」より

このように語る、個性的な役ばかりが目立つ現在のダニエル・ラドクリフに対し「正気なのか?」「ずっとまとわりつくハリーのイメージを壊すためか?」という穿った見方もできるでしょう。ですが、僕は以下の言葉こそ本心なのではないかと感じています。

役が挑戦的であればあるほど、益々楽しくなるもの。同じような役を何度もやりたいとは思わない。常に、今まで演じた事のない役をやりたいと思っている。素晴らしい物語ならどんな作品にも出演したい。

出典:「ガンス・アキンボ」公式パンフレット インタビューより


出典:映画.com

どんなに滑稽でも誰も演じた事のない、誰も見た事のない役に命を吹き込みたい。そんなひたむきな探究心こそ、個性的な役を演じ続ける理由であり、誰に何と言われようと解けない彼の魔法ではないでしょうか。

今こそその手に「バカバカしさ」を握りしめろ

そしてそんなダニエル・ラドクリフが今回惚れたのが、「デビルズ・メタル」(`16)のジェイソン・レイ・ハウデン監督。彼は自らのハイカロリー映画を以下のように語っています。

いかにもゲームっぽい映像を取り入れることで、バイオレンスのインパクトがやや緩くなる。自分が観ているのはビデオゲームなんだと感じるおかげでね。僕はそれを利用した。50人くらいが撃たれるのを観るんだから、リアルじゃないほうがいいんだよ。それは「デビルズ・メタル」を作っている時に気づいた事だ。あの映画にも残酷なシーンがたくさんある。リアルだったら誰も観続けないだろうが、漫画っぽいので、良い意味でバカバカしくなる。

バイオレンスはたしかにこの映画にたくさん出てくるが、あくまでバカバカしい形でだ。これは娯楽を目的にしたアクションコメディ。メッセージがあるとしたら、ネットのコメントからちょっと離れるべきということだ。ニュースだって、今はとても暗いものばかりだよね。僕も今、ニュースから離れている。
出典:「ガンス・アキンボ」公式パンフレット インタビューより


出典:Amazon.co.jp

真面目なことは考えず、バカバカしさを心から楽しんでほしい。そんなジェイソンを、ダニエル・ラドクリフも以下のように評しています。

「デビルズ・メタル」を観てみたらちょっと僕には血生臭すぎるなっていう印象だった。でもジェイソンは信じられない程優しくて、作品を作る事を愛している。彼は、物凄くスタイリッシュでクールなカメラの動きや、格好のいいアクションを思いつく。彼の頭の中はアイディアがいっぱいで、凄く賑やかな撮影現場になる。毎日撮影現場に参加する度に「今日はどんなにクールで奇妙な事をするのだろう」と思っていたが、それは全てジェイソンの発案だった。
出典:「ガンス・アキンボ」公式パンフレット インタビューより


出典:映画.com

緊急事態宣言も終わりが見え、少しずつ映画館へ行きやすくなり始めている今日この頃。

そんな貴重なタイミングに、数ある話題作より「ガンズ・アキンボ」を観る優先順位は高くないかもしれません。あのハリー・ポッターがパンツ一丁で走り回る姿を観る理由はないかもしれません。

ですが真剣に考えなければいけない問題が山積みな今こそ、ゲラゲラ笑ってスッキリする。そんなおバカ映画も必要だと思うのです。(途中からちょっと真面目に考えちゃったな……「ガンズ・アキンボ」キメてこなきゃ……)


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[イラスト]清澤春香

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