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『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』瞳に焼きつく、燃える男の姿と想い

金子ゆうき 金子ゆうき


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よもや よもやだ
 
公開から3日間で興行収入46億円、10日間で100億円を突破。

公開から3日間で約46億円という興行収入は、同期間の日本を除く全世界の映画興行収入を超えているそうです。世界よ、これが鬼滅だ

ブレーキが壊れた列車のように爆走する、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(以下、「無限列車編」)


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出典:映画.com

大人も子ども鬼滅鬼滅。僕自身はもちろん、2歳の娘から70代の義母までどっぷりハマっています。全集中の鬼滅列島。普段、1組・2組がザラな地元の映画館に、見たことない数の人が集まっています。
 
TVもネットも、ヒットの要因をあれやこれや伝えています。コロナ禍による洋画大作の公開延期、ステイホームと配信サービスの親和性によるアニメ視聴の拡大、などなど。頼りがいのある主人公が「隠れ専業主婦願望」をもった女性たちに支持されているんだ、なんてものも。なんじゃそりゃ。
 
公開初日に見て、社会現象になる様子を追いながら「何を書けばいいか?」考えてきました。
 
いろいろ考えましたが、結局出てくるのは「無限列車編」おもしろかったなあという気持ちです。

記録づくめの大ヒットになったのは、2020年の今、この状況だからももちろん大きいでしょう。でも、それもこれも『鬼滅の刃』という漫画が、「鬼滅の刃」というアニメが、「無限列車編」という映画がすばらしいからでしょう。

原作漫画、TVアニメ版の紹介もまじえながら、「無限列車編」のどこがどう良くて、僕らに何を伝えてくれるのか書きます。いつも通り、褒めます。

ネタバレはしますが、後半です。興味はあるけど、「鬼滅の刃」が今ひとつ分からないという方は、ぜひ前半を読んでから劇場へ足を運んでください。

猪突猛進でまいります!

それではどうぞ
 
 

初連載が大ヒット。しかしそこには、苦難の道あり

原作漫画『鬼滅の刃』は、『週刊少年ジャンプ』(以下、『ジャンプ』)にて2016年から2020年まで連載されていました。原作は、完結済みです。

コミックスは2020年10月の時点で22巻まで出ていて、12月に最終23巻が発売予定。累計発行部数は1億部超え。連載開始から4年での1億部突破は異例です。


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出典:Amazon.co.jp

作者・吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)さんは福岡出身の31歳。『鬼滅の刃』が初めての連載作品です。24歳のとき、『ジャンプ』の新人募集企画・JUMPトレジャー新人漫画賞に応募した『過狩り狩り(かがりがり)』が2013年7月期の佳作に輝きます。

 

『過狩り狩り』は、『ジャンプ』公式サイトで読めるので、読んでみてほしいのですが『鬼滅の刃』の原型です。人間を襲う鬼と、「惡鬼滅殺」と刻まれた刀で鬼を狩る人間珠世(たまよ)愈史郎(ゆしろう)という『鬼滅の刃』にも出てくる鬼が登場しますし、鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)のようなビジュアルの鬼も出てきます。

 

『過狩り狩り』のあと、『文殊史郎兄弟(もんじゅしろうきょうだい)』『肋骨(ろっこつ)さん』『蠅庭(はえにわ)のジグザグ』が読み切りで掲載されますが、連載にはいたりません。


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出典:Amazon.co.jp 『過狩り狩り』含む読み切り掲載作が収録された『吾峠呼世晴短編集』。

『バクマン。』でも描かれていましたが、『ジャンプ』で連載となるには編集部内での連載会議を突破しなくてはならない。吾峠さんは、これをなかなか超えられなかった。

『蠅庭のジグザグ』のあとも『鈍痛風車(どんつうふうしゃ)』という作品で連載会議に臨みますが、落選。原点回帰で『過狩り狩り』がベースの『鬼殺の流(きさつのながれ)』を提出するも、落選してしまいます。

 

『鬼殺の流』の世界観はそのままに、主人公を「鬼になった妹を人間にもどすために鬼殺隊にはいる炭売りの少年」に変更して、『鬼滅の刃』が誕生。ようやく連載が決定します。

 

初連載『鬼滅の刃』で大ヒット。コミックスは1億部を突破し、映画は社会現象に。トントン拍子のように見えますが、連載が決まるまでには、『過狩り狩り』から3年の苦労があったんです。

苦労の末にうまれた『鬼滅の刃』ですが、設定・内容ともに過去の『ジャンプ』作品の影響が見受けられます。

 

特に『ジョジョの奇妙な冒険』からは「太陽の光が弱点な吸血鬼」「呼吸による強化」など設定面で引用がみられます。コミックス3巻では、「考えるのをやめた」というセリフのパロディもしています。

設定以外でも「世代を超えて受け継がれる精神」「キャラクターの壮絶な散り様(シーザー!!!)」など、テーマや物語の盛り上げ方も影響されていると思います。

あと、ラスボス・鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)の徹底的に利己的な思想は、4部の吉良吉影(きらよしかげ)に通じるところがあります。日常生活に紛れている恐怖という感じも、吉良っぽい。


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出典:Amazon.co.jp 髪の毛の縮れ具合も似ている、無惨様と吉良吉影。

『鬼滅の刃』の魅力。ひとつ挙げるならば「キャラクター」です。

 

とにかくキャラがいい! 読めば読むほど、みんなのことを好きになる。

 

国民的お兄ちゃん、国民的息子、国民的孫となった竈門炭治郎(かまどたんじろう)は、聖なる狂人。彼のやさしさと正義を貫く姿勢からは、狂気すら感じます。


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出典:IMDb

鬼にも共感と慈しみをもたらす姿は、『うしおととら』の主人公・蒼月潮(あおつきうしお)を彷彿とさせます。

 

「無限列車編」にも登場する我妻善逸(あがつまぜんいつ)。女好きで臆病。汚い高音で不満をまきちらす姿は滑稽ですが、読者がじぶんの弱さを投影させやすいんですよね。決めるところは決める、ギャップ萌えもある。


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出典:IMDb

人間的といば、敵側の鬼には、人間くさいキャラクターが多い。強欲、臆病、兄妹想い。鬼は元々人間です。鬼になり、弱い部分、醜い欲望が強調されるようです。炭治郎の目をとおして、最後には読者も共感してしまう。それがまた、多面的な味わいにつながっています。

 

仲間のキャラクターに話をもどすと、同期の嘴平伊之助(はしびらいのすけ)。刀の前に、猪頭を気にしなさいよ。


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出典:IMDb

最初から完成された人間性の炭治郎と比べて、序盤はかなり未成熟。それが、仲間とかかわりながら成長していきます。「無限列車編」ラストの説教には、涙腺決壊。伊之助の変化に注目しながら読んでみても『鬼滅の刃』は、たのしいです。

 

そして、「無限列車編」の実質的な主人公・煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)上司にしたいキャラクターNo.1。前しか見ない姿勢、的確ですばやい判断と、指示。圧倒的な強さ。人の話を聞いていないようで、しっかり聞いていている思慮深さもある。一生ついていくぜ煉獄のアニキぃ!


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出典:映画.com

 

一家惨殺からはじまり、人体欠損ふくめた暴力描写もあるダークな世界観ですが、キャラクター同士のギャグ展開が多いのも少年誌らしいバランスです。残酷性がクローズアップされることが多いですが、それだけじゃないんですよ。ギャグにノれるかどうかが、作品の好き嫌いに繋がるので、苦手な人もいるとは思います。


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出典:IMDb

 

魅力的なキャラクターにあふれ、漫画だけでも充分に人気作だった『鬼滅の刃』。その人気を爆発的に加速させたのが、2019年4月-9月に放送されたTVアニメ版です。
 
 

原作の、魅力も人気も倍増させた、TVアニメ版

TVアニメ版の制作を手がけたのは、アニメーション制作スタジオ「ufotable」

ufotableの特徴は、作画・3D制作・撮影・脚本ふくめ作品全体をほぼ社内で制作していること。美麗な作画、3Dと作画の融合による流麗な動きとダイナミックでカメラワークは、見る人をくぎ付けにします。「TVでありながら、劇場アニメのようなクオリティ」と評されることが多く、「Fate」シリーズを見ると、まったくその通りだと納得できます。

「鬼滅の刃」では、TV放送を前に、1-5話を編集した「鬼滅の刃 兄妹の絆」が劇場で先行公開され、ワールドプレミアも行われました。

出典:YouTube

文字通り「劇場公開できるクオリティ」のものを、TVアニメとして放映したということなんですよね。

 

ufotableには原作ファーストのこだわりがあるようで、「鬼滅の刃」でも徹底しています。『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』に、吾峠さん自らが書いたキャラクターの設定指示が載っていますが、「眉間のシワの本数」まで細かく指定されているのに驚きました。

舞台となる雪山に近い場所を探してロケハンに行き、吾峠さんが使用した参考資料も使用。ギャグパートの顔は、吾峠さんにしか描けないと判断し、キャラクター設定を作らず原作をもとに書いたそうです。着物の模様に番号をふり、激しい動きの中でもズレがないか細かくチェックするという作業も行っているとのこと。

 

原作を尊重しつつ、アニメならではの表現で、魅力を倍増させる。

 

TVアニメ版でそれが爆発したのが、神回として名高い19話「ヒノカミ」です。

鬼側の実力上位グループ・十二鬼月(じゅうにきづき)メンバーとの闘いが描かれます。必殺技「ヒノカミ神楽」の作画と動きはもちろんですが、特に注目したいのが「音」による演出


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出典:IMDb

19話の闘い、原作だとモノローグで状況説明が細かく入っています。しかし、TVアニメ版は説明なし。キャラクターのセリフ以外での状況説明がないのは、TVアニメ版全体の特徴でもあります。

その代わりに流れるのが『竈門炭治郎のうた』


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出典:Amazon.co.jp

失っても 失っても 生きていくしかない
どんなにうちのめされても 守るべきものがある

 

炭治郎に理不尽にふりかかった絶望と、それでも進む運命そのものを歌っているようです。中川奈美さんの少女のような、母のような歌声も相まって、全涙腺を刺激してきます。

 

実写だろうと、アニメだろうと、映像の半分は「音」です。マンガでは表現できない部分。アニメならではの表現を上乗せするufotableの真髄がここにあります。しかも、『竈門炭治郎のうた』の作詞クレジットは、ufotable。原作をふかく理解し、とことん寄りそっていなければ書けない歌詞だと思います。まったく見事としか言いようがありません。

 

ここまで、「無限列車編」本編の話を一切していませんが、線路は終点まで繋がっています。

 

  • キャラクターが魅力的な原作
  • 原作の良さを理解し、それを倍増させるアニメ
  •  

    この要素を最大まで高めたのが、「無限列車編」です。
    無駄に各駅停車していたわけではありません。

    ここの見せ方がすごい! 原作からの拡張が見事!

    そんな話を中心に、最後まで突っ走ります。

    ※以下、結末含めた内容に触れますのでネタバレにご注意ください※
     
     

    「列車」「夢」という舞台だてを活かした見せ場の連続

    映画は、「お館様」とよばれる鬼殺隊の最高責任者・産屋敷耀哉 (うぶやしきかがや)が、墓参りをしているところから始まります。原作にはないシーンなんですが、全体のテーマにもつながる重要な役割を担っています。くわしくは、後で書きましょう。

     

    そのあと、無限列車に乗り込む炭治郎たちに繋がり、ここからは完全にTVアニメ26話の続きです。中途半端に回想やあらすじを入れないのは、さすがです。

     

    乗り込むまでのところで、唸ったカットがありました。車輪がアップになる短いカットなんですが、熱で空気が陽炎のようになり、車輪がゆらめいて見えるんですよ。そんな手間かけなくても、と思うんですが、やっちゃうのがufotableなんでしょうね。

     

    煉獄と合流すると、車内を不穏な空気が包みはじめます。突如あらわれた鬼と対峙する煉獄。赫(あか)き炎刃から放たれる「炎の呼吸 壱ノ型・不知火」

     

    不知火、カッコよかったですよね!!

     

    不知火は、前方に踏み込みながらの斬撃です。足に力をためる構えを、ほぼ真後ろの足にカメラを置いた見上げる構図で表現していて、これがまたカッコいい。序盤で煉獄が動くシーンでは、床より少し上にカメラが置かれたような構図が多かったです。柱という存在の測れない大きさや、底の見えない強さを表現するためだと感じました。原作だとほぼ斜め上からの構図なので、アニメならではの表現といえます。


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    出典:映画.com

    低い姿勢から放たれた刹那、かがり火が横一列に連なり、それを切り裂くように斬撃が走ります(カッコいい!)。一気に距離を詰め、炎を帯びた刃で鬼の首を落としてしまいます(カッコいい!!)。首を斬られた鬼は隣の車両まで吹っ飛びました(カッコいぃ!!!)

     

    この一連、原作だと4コマ。その4コマが、大胆な構図とエフェクトによる最高の見せ場になっているですよ。さらに、原作だと車両の移動はしていないんです。舞台を立体的に使った、ダイナミックさを強調する見事な演出です。

    「炎の呼吸」の迫力あるエフェクトは、「鳥羽伏見の闘い」の錦絵に描かれた大砲の炎を参考にしたようです。

     

    アニメならではの舞台の拡張だと、「夢」の場面も長くとられていました。特に、善逸と伊之助。キャラクター性を伝わりやすくする意図があったと思うんですが、単純に「列車以外のシーンを増やす」という効果もあったと思うんです。

    「無限列車編」の舞台は、ほぼ「列車」です。猗窩座(あかざ)戦も、列車から降りた脇のところですから。


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    出典:映画.com

    車内の見た目はほぼおなじ。新幹線みたいに、喫煙所やらグリーン車やらがあるわけじゃないですから。同じ場所ばかりで画が変わらないと、飽きもでます。見た目のマンネリを防ぎ、バリエーションを増やすためにも夢のシーンを長くしたんじゃないでしょうか。
     
     

    瞳に焼きつき、繋がりながら、物語は続く

    ギャグパートも多く、ゆるいやり取りも交えた魘夢(えんむ)戦から空気は一転、猗窩座が登場してからは緊迫がつづきます。


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    出典:映画.com

    ザクザクとしたエレキギターが印象的な、メタル調の劇伴音楽も全体のテンションを高めます。TVアニメ版から継続して音楽を担当した椎名豪さん、梶浦由記さんの手腕が光りました。

     

    猗窩座の登場は映画公開まで、明かさていなかったんですよ。原作を知っていたので「無限列車編なんだから、出るよね? でも、予告には出ていないし、もしかして?」という気持ちがありました。

    だから、猗窩座の登場は、それ自体でテンションが上がりました。公開まで明かしていなかったことについて、監督の外崎さんは舞台挨拶で「猗窩座の登場は、本誌連載中でも大きなインパクトだった。その感覚を映画でも味わってほしかった」という旨の発言をしていたそうです。原作ファーストの姿勢が、ここでも貫かれています。

     

    劇伴音楽とリンクするようなハイスピードな戦闘シーンは、作画総監督の松島晃さんが原画を自ら書き、6秒間で使われた原画が300枚以上というから驚きです。

     

    煉獄と猗窩座の戦いは「信念」のぶつかり合いでもあります。「個」としての強さをひたすら求める猗窩座。母の言葉を胸に、弱きものを守り、次世代に命を繋ごうとする煉獄。

    命に限りのある人間は、想いをつなぎながら鬼と戦いつづけています。受け継がれ、繋がる想い。これは『肋骨さん』でも描かれているテーマです。

     

    「無限列車編」の冒頭、原作にはないシーンとして描かれた墓参り。お館様は、ひとりひとりの名前を呼びながら歩いていました。彼は、これまで死んだ鬼殺隊員の名前をすべて覚えているんです。

    彼は、言います。

    人の想いは、不滅だ。


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    出典:IMDb TVアニメ版のお館様登場シーン。

    命には、肉体には限りがあっても、「これ以上、鬼に大切な人が殺させることがないように」という想いは繋がり、新たな世代へと受け継がれるんです。

     

    悲しみの河の流れに逆らい、じぶんの世代で止めようと戦い、ついぞ果たせなった者たちの連なりが鬼殺隊なんです。

     

    冒頭のお墓参りは、『竈門炭治郎のうた』の歌詞がそうであったように、原作を深く理解しているからこそ生みだせたシーンなんだと思います。もちろん、お館様が隊士の名前を憶えているというのは、原作でも描かれます。

     

    想いが繋がる瞬間。死を前にした煉獄が、炭治郎に「心を燃やせ」と告げるシーン。


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    出典:IMDb

    ここでも、吾峠さんが生んだ原作のセリフの強さと、ufotableが生んだビジュアルの強さが相乗効果を生みます。このシーン、原作では、煉獄の顔を正面から捉えた構図です。「心を燃やせ」のセリフのコマは、伊之助がひとりで描かれています。

     

    「無限列車編」では、炭治郎の瞳が、超クロースアップにされ、そこに煉獄が映っている。「心を燃やせ」という言葉と想いが、炭治郎の瞳に、心に焼きついたんです。

     

    個人的には「ブレードランナー」(1982)「オール・ザット・ジャズ」(1979)にも匹敵する、瞳のクロースアップで心に残るシーンになりました。


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    出典:IMDb「ブレードランナー」での瞳の超クロースアップ。

    「心を燃やせ」という大切なセリフのシーンで、なぜ瞳が使われたのか。死生観と同じように、鬼のそれと対比させたときに、人間らしさの象徴だと考えたからではないでしょうか。


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    出典:映画.com

    十二鬼月の、鬼の瞳に刻まれているものは、無惨に与えられた階級を示す文字です。絶対的な支配者に隷属している証なんです。永遠の命も、存続する目的も無惨に与えれたものでしかない。どんなに強い鬼でも、無惨がその気になればいつでも殺すことができるんです。

     

    第一話の冨岡義勇(とみおかぎゆう)の言葉を借りるならば「生殺与奪の権を他人に握られている」んですよ。


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    出典:IMDb

    人間の瞳は、そうじゃない。先人の姿を、想いを、気高い意志を焼きつけ、次の世代へと繋げるための原動力になるんです。

     

    死の間際、煉獄の前に現れたのは、母・瑠火(るか)でした。瑠火も、炭治郎と同じく赫い瞳を持っていました。炭治郎の瞳の色で、煉獄は母を思い出したのかもしれません。

     

    煉獄もまた、繋がりの途中にいるひとりなんです。

     

    煉獄杏寿郎という男の生き様と散り様は、観客の瞳に焼きついたはずです。苦しいとき、つらい時には彼の言葉が浮かんでくるでしょう。

     

    胸を張って生きろ。
    己の弱さや
    不甲斐なさに
    どれだけ打ちのめされようと
    心を燃やせ
    歯をくいしばって前を向け

     

    なんだか、いつも以上に熱苦しくなってしまいました。

     

    しかし、物事を斜めに見て冷笑するのを善しとしがちな現代において、まっすぐ「心を燃やせ」と伝えてくる「鬼滅の刃」が、たくさんの人の心を打っているのも事実です。たまには熱いことを言ってみるのもいいもんです。

     

    「鬼滅の刃」のアニメは、まだまだ続くはず。あの戦い、あのシーンがどのように描かれるか、たのしみで仕方がありませんが、今はただ、いつかくる物語の終わりに想いをはせたいと思います。

    瞳に焼きついた、煉獄の姿と想いと共に。


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    [イラスト]清澤春香

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