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「TENET テネット」のカーチェイスがワケ分かんなかった人、集まれ〜!

橋口幸生 橋口幸生


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「TENET テネット」公開からしばらく経ち、解説記事が出揃ってきた。公式プログラムの内容も充実している。ひと通り目を通せば、難解と言われている作品ながら、ストーリーの大体の流れはつかむことは出来ると思う。

しかし、シーンの1つひとつを完全に理解している人は、今でもほとんどいないのではないだろうか。研究所での逆光弾描写や「未来の遺跡」、プリヤとセイターの関係、「ニールは誰なのか?」など、スッキリしない部分は多い。

「初見では絶対に分からない」と言われるスタルスク12での最終決戦以上に、個人的にもっともワケが分からなかったのが、タリンでのカーチェイスだ。キャラクターの順行・逆行が入り乱れ、空間やクルマの位置関係も複雑を極める。難解なカーチェイスなんてもの自体が前代未聞であり、置いてきぼりにされた観客も多いと思う(というか、僕がそうだった)。公式プログラムですら「理解の及ばないシーンがある」と書いているくらいだ。

この記事では、「タリンのカーチェイス」にしぼって、何が起きていたのかを明らかにしてゆきたい。あくまで僕の分析結果であり、クリストファー・ノーランなど関係者の見解ではない。また、公式プログラムの解釈と異なる部分もある。でも、劇中で起きたことは、すべて矛盾なく説明できていると思う。

解説にあたって、下のような図を用意した。
左側を過去、右側を未来として、横線でタイムラインを描いていく。

Sはセイター。



出典:IMDb

Kはキャット。



出典:IMDb

Pは主人公(protagonist)を意味する。



出典:IMDb

順番に説明していこう。

まずセイターとキャットが、「倉庫兼回転ドア」に入っていくシーンを思い出してほしい(これも分かりにくいのだが、セイターがキャットに銃を見せびらかすと倉庫と回転ドアは同じ場所にある)。キャットがAudiを目撃するシーンが一瞬だけ挿入される(下図①)。ドライバーが酸素マスクをしていることから、未来からやって来た逆行Audiであることが分かる。(クルマは逆行できないので厳密には「逆行ドライバーが運転するAudi」だが、分かりやすく「逆行Audi」と書くことにする)

逆行Audiはカーチェイス終了後の未来からやって来た。だから順行している主人公から見ると、後ろ向きに逆走して未来へと戻っていくのだ。※図では順行タイムラインを赤で、逆行タイムラインを青で描いている。

その後、セイターとキャットは倉庫でかなり激しい夫婦ゲンカをする。(下図②)

この頃、主人公はニールと一緒にアルゴリズム強奪作戦を行い、入手に成功する。(下図③)。このタイミングでの3者の行動の前後関係は不明だが、大体合っているはずだ)

話がややこしくなるのはここからだ。映画では省略されているのだが、夫婦ゲンカの後、ぐったりとしたキャットは、順行のまま逆行Audiに乗せられる。(下図④)(逆行Audi視点からは、降りていることになる) このことが分かるのは、逆行Audiで逆行セイターがキャットに銃をつきつけ「3、2、1……」と脅迫するシーンで、キャットが酸素マスクをしていないからだ。一方、逆行セイターとドライバーは酸素マスクをしている。つまり逆行セイターは逆行Audi内で、順行キャットを人質に取っているのだ。 注意が必要なのは、「3、2、1……」は未来から逆行してきたセイターの行動であることだ。この時点で順行セイターは何もしていない。待機中なのだ。

いよいよ主人公とニールが運転する順行BMWと逆行Audiのカーチェイスがはじまる。逆行Saabが横転で復活するのがここだ。 (下図⑤)

そして、あの逆行セイターの「3、2、1……」だ。主人公はアルゴリズムのケースを逆行Audiに、本体を逆行Saabに投げ込む。(下図⑥)

主人公はキャットを助けるために順行BMWからAudiに移動する。(下図⑦)一方、逆行セイターと逆行ドライバーは順行ベンツに移動するが、この場面は順行主人公の視点から描かれていることに注意しよう。逆行セイター&ドライバーが彼らのタイムラインでやったことは、順行ベンツからAudiへの移動なのだ(下図⑦)。逆行セイターの動きは非ッ常にややこしいので、現時点では理解できなくてもOKだ。

Audiに移動した主人公は手でブレーキを押し、停車に成功する(下図⑧)。待機していた順行セイターが活動をはじめるのは、ここからだ。主人公とキャットを拉致し(下図⑧)、主人公を回転ドアの赤部屋(順行)に、キャットを青部屋(逆行)に連れてゆく。

回転ドア赤部屋で主人公を尋問し、「アルゴリズムはBMWのグローブボックスにある」という証言を引き出す(下図⑨)。

そして回転ドアを使い、順行から逆行タイムラインに移り……

回転ドア青部屋にいたキャットを撃つ。(下図⑨。順行主人公からは逆行弾で撃たれたように見える)

セイターにとっては
(1)順行タイムラインで主人公を尋問する
(2)回転ドアで逆行タイムラインに移る
(3)逆行タイムラインでキャットを撃つ

という経験になるのだが、回転ドアで時間を逆行しているため、(1)(2)の後は、(3)ではなく、(1)に戻るのだ! だから主人公やキャットの視点からは

(1)順行タイムラインで主人公を尋問する
(2)回転ドアで逆行タイムラインに移る
(1)逆行タイムラインでキャットを撃つ

……と、主人公の尋問とキャットの被弾が同時に起きていることになる。

ここでセイターが順行から逆行に移動したことは、この後、順行主人公達の前からセイターが消滅することからも明らかだ。(公式プログラムの言葉を借りれば「対消滅的用法」

傷ついたキャットは回転ドアで逆行してオスロを目指すことになり、カーチェイスからは離脱する。カーチェイスの間、キャットはずっと順行なのがおもしろい。これまでもセイターはキャットを一切仕事に関与させていないので、その姿勢を貫いたのだろう。一方、逆行セイターから順行キャットを守るために、主人公は回転ドアで逆行タイムラインに移る。そして、逆行Saabに乗る(下図⑩)。一方、逆行セイターは順行Benzに乗る。(下図⑪)

逆行主人公は、道路脇に捨てられたアルゴリズムのケースに発信機をつける(下図⑫)。ケースは順行ベンツに「戻っていく」ので、信号を辿ることでセイターを追うことが出来るのだ。

順行Benzからケースを捨てたのは、逆行セイターではなく、ドライバーだろう。逆行セイターは逆行主人公と同じく、空のケースが車内に戻ってくるのを目撃しているはずだ(下図⑬)。つまり、ケースは空で本体は別の場所にあることに、逆行セイターはこの時点で認識している。

逆行セイターは順行Benzから逆行Audiに移動し(下図⑦)・・・

順行主人公とニールが乗るBMWに、ケースを「投げ戻す」(下図⑥)。順行主人公視点からは、ケースを逆行Audiに投げ込んでいるので、逆になるわけだ。もちろん逆行Saabにある本体も、順行BMWに戻ってゆく。(下図⑥)

逆行Audiは逆行Saabに衝突し、横転させる。(下図⑤)

……お分かりいただけただろうか。逆行タイムラインで見ると、Audiからはアルゴリズムのケースが、Saabからは本体が、それぞれ順行BMW車内に移動している。順行タイムラインで見ると、順行主人公がアルゴリズム本体を逆行Saabに投げ込んだ後、逆行Saabは順行BMWの進行方向に逆走してゆく。(書いていて頭がおかしくなりそうだ)つまりアルゴリズム本体は、AudiとBMWとSaabのカーチェイスとはまったく無関係に、未来のSaabの中にあったのだ!!!!

逆行主人公が回転ドアから出てすぐSaabが駐車されていることから、順行カーチェイスは倉庫兼回転ドアを目的地としていたことも分かる。未来のSaab車内のアルゴリズムは、順行ボルコフあたりが回収したのだろう。

ここ数日、打合せもプレゼンもうわの空でこの図を作り続けていた。たぶんこれで合っているが、間違っていたらごめんなさい。もし理解できなくても、全く問題ない。それで「TENET テネット」の楽しさが損なわれることは無いからだ。

それに・・・



出典:DigitalSpy



出典:IMDb



出典:IMDb



出典:IMDb

メイキング写真を見る限り、たぶんノーラン以外、本当には分かっていなから大丈夫だ。


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[イラスト]清澤春香

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