• MV_1120x330

「Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song」英雄達は、桜の木の下で眠る

ハマダヒデユキ ハマダヒデユキ


LoadingMY CLIP

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

映像化不可能を、映像化できると伝説になる。


出典:「fate/stay night[Unlimited Blade Works」公式サイト

「問おう、貴方が私のマスターか。」

月夜をバックとしたそんなセリフが印象的な「Fate/stay night」は2004年に発売し、大流行したPCノベルゲーム。名前だけは聞いたことあるぞ……! このキャラ見たことあるー!? という方も多いのではないでしょうか。

TYPE-MOONより発売したこのゲームは、当時爆発的な売上を記録し、2020年現在もスマートフォンアプリゲームなどが展開するコンテンツとして成長を続けています。
その人気もあり数度にわたり映像化を果たし、この「Heaven`s Feel」は計3部作で映画化。その3部目が8月15日に公開となりました。


出典:映画.com

見に行った感想言いましょう。

制作スタッフのこだわり、半端なさすぎいいいい!!!

目まぐるしいストーリー展開、声優陣の凄まじい演技、見所の非常に多い映画で他の人気映画を差し置いて、公開初日第1位もうなずけます。

何より目を見張ったのは、10数年にもおよぶ制作スタッフの熱量! なぜなら本作の原作はかつて「映像化不可能」と言われた内容であり、それを見事にスクリーンに映していたからです。

この「Fate/stay night」を一切知らない方にも少しでも興味を持っていただけるよう、今回はその映画スタッフの記録を中心にご紹介したいと思います!

そもそも「Fate/stay night」とはどんな作品なのか?

さて、原作となったゲームの内容をあえて簡単に言うならば「バトルロワイヤル」です。


出典:IMbd

「これから君たちには殺し合いをしてもらいます」ビートたけしの号令で最後の1人になるまで殺しあう、2000年公開の映画から始まった「自分以外全員敵」というサバイバル・バトル。その流れを受けてか「バトルロワイヤル」形式の作品は次々とヒットし、この「Fate/stay night」も2004年にそのジャンルのPCノベルゲームとして世に登場します。

制作したのは、コミックマーケットでの販売をメインとしていたサークル「TYPE-MOON」。もともとは個人のクリエイター集団だったのが、多数のヒットゲームをリリースしたことで法人化し企業として初めて世の中に出したのが「Fate/stay night」で爆発的な売上を樹立します。他の「バトルロワイヤル」作品と大きく異なった要素の1つは、その登場人物。なんと彼らは伝記や歴史上の英雄たちなのです。


出典:IMbd

例えば、冒頭に登場した金髪のヒロイン、その正体はなんと「キングアーサー」(`17)などのアーサー王物語で知られるアーサー・ペンドラゴン。聖剣・エクスカリバーを抱えるこのおっさんが先ほどの美少女として現代にやってくるのです。どんな発想だ。


出典:Amazon.co.jp


出典:Amazon.co.jp

他にも「タイタンの戦い」(`01)の主人公・ペルセウスと対立する、目を見た者を石にする化け物メデューサや「ヘラクレス」(14`)のギリシャ神話の英雄・ヘラクレスといった、伝説上の人物が合計7人(途中から増え9人に……!)参戦。本来は同じ時代にいない人物たちが過去の未練を果たすため・己の願望を叶えるために戦う夢のようなバトルロワイヤル、その一部始終を描いたのが「Fate/stay night」なのです。

本作は全3章構成で、英雄たちの物語と同時に各々で異なる内容が展開していきます。その3章目「Heaven`s Feel」は中でも異質な作品。1章2章が比較的王道な展開であるのに対し

・グロテスク、ホラー要素のある暗いストーリー

・精神的に病んだヒロインが最終的に事件の元凶となり、主人公たちと敵対する

と賛否両論の物語となっており、重いヒロイン像が受け入れがたかったことも含め「この3章目を映像化するのは不可能」と発売当時から10年近く言われてきました。

アニメスタジオufotable、13年間の妥協なき挑戦


出典:Amazon.co.jp

そんな「Heaven`s Feel」を映像化し、今回メインに取り上げるアニメスタジオがufotableです。2000年に設立され、現在は東京・徳島を2拠点として活動。当初は音楽番組「うたばん」のOPなどを担当していたのですが、2007年にTYPE-MOONのメインライター・奈須きのこ氏の長編小説「空の境界」を全7部作で映画化し知名度を上げます。「7つの映画を3年間で公開する」という前代未聞のスケジュールがいかに苛酷であったか、当時のインタビューから窺うことができます。

公開当日まで修正作業をしていましたね。万が一のために劇場には前日に一旦納品して、完全版を当日あらたに納品するというパターンでした。だいたい公開前日の朝に映像が仕上がり、午前中に私が映倫に持ち込んで試写。午後から関係者用の初号試写。夜中から劇場で上映テスト。それと並行してufotableではリテイク作業を進行中で、公開当日の朝から編集して、完全版として納品されるという感じです。ですから、初日舞台挨拶の司会をする時はいつも寝不足でした(笑)
劇場版・空の境界「殺人考察(後)」パンフレット岩上敦宏インタビューより

リアルな作画のため、レインボーブリッジや神戸など日本各地のロケハンも濃密なスケジュール下で行っていたというufotableスタッフ。原作の難解な描写も含め見事な映像化に成功したその業績は、第12回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出されるなど多大な評価を獲得します。


出典:Amazon.co.jp

この頃すでに2006年に別の映像会社により「fate/stay night」は3章のうち第1章がアニメ化を果たしていましたが、ufotableの手によって2011年より前日譚「fate/zero」、2014年より第2章「fate/stay night[Unlimited Blade Works]」(分割2シーズン)をTVシリーズ化。長期戦の中でも凄まじいこだわりがあった記録が、当時のスタッフインタビューに残っていました。

#14、#15でギルガメッシュが使うゲート・オブ・バビロンは、設定上すべての武器が伝説の宝具ということになっています。だから全部同じ処理をしたら間違いなんです。それで撮影部としては、全部の武器にそれぞれ違うエフェクトを乗せています。「Zero」の第5話でも放つ宝具をそれぞれ変えたのですが、今回は1カットに32本違う宝具が放たれるというカットもありましたからね。
Newtype2015年06月号撮影監督・寺尾優一インタビューより

こうしてファン、原作者両者から「このスタッフなら原作を完全に再現できる」と絶大な信頼を受けたufotableは、最後の第3章「Heaven`s Feel」の映画三部作(計6時間超!)を2015年から制作開始。「空の境界」からTYPE-MOON作品のキャラクターデザインに10年参加し、また前述の通り評価の低かったこの章のヒロイン・間桐桜に思い入れが強かった須藤友徳氏が監督として名乗りを上げます。その第1作目公開に先立ち、改めてこのゲームを再研究したそうです。

最初にプロットをつくるにあたって、原作ゲーム「Fate/stay night」の各ルートの物語上のターニング・ポイントを整理していったんです。それを踏まえたうえで[HF]のドラマがより効果的になるように時系列やシーンを再構成していきました。たとえば原作ゲームでは(昼は高校で学園生活を送り)毎日夜になると外でサーヴァント同士の戦闘が行われるという大きな流れがあるんですが、これをアニメでやるとちょっとテンポが厳しいなと思ったので、この辺りも再構成をしていきました。
Newtype2017年11月号須藤友徳インタビューより


出典:Amazon.co.jp

第1章では比較的正統派なヒロインだった桜は2019年公開の第3章では、腹の底で抱える狂気が徐々に暴走するように。その様子を、須藤監督は丁寧に描写しています。

第2章のテーマの1つに、「雨が雪を解かす」というものがあるんです。雪は第1章の後半から降りはじめていて、第2章では雨が降っています。そして士郎と桜の雨のシーンが来る。そこまで深い意味を詰めているわけではないですが、雪が雨に解けて、見えてきたものがはたして希望かどうか。今まで見ないようにしてきたものが、見えてしまうかもしれない。そこが第2章のおもしろさにつながるといいなと思っています。
Newtype2019年02月号須藤友徳インタビューより


出典:Amazon.co.jp

3章のうち、ストーリーの暗さから最も映像化が困難と言われた「Heaven’s Feel」の制作裏側には、圧倒的な作画だけでなくこのような徹底したこだわりがあったのです。

世界の存亡をかけた決着の裏側にある「表現者たちの最終決戦」

さてそこから始まる第3章では、桜が完全に自身の狂気を表面化するようになり主人公・衛宮士郎たちに襲いかかります。


出典:映画.com

その複雑な人物像を心理学者・河合隼雄の「無意識の構造」(中公新書)を読み解くならば、

・カイン・コンプレックス(嫉妬や憎しみなど兄弟間で起きる敵対感情。無意識内にある他者を出し抜きたい願望)
・メサイア・コンプレックス(複雑な劣等感と優越感がからみ合い、自身が救って欲しいのにその願望を他に投影しやたらと他人を救いたがる願望)

が該当するかと推測できます。


出典:映画.com

彼女を中心にさまざまな登場人物が「他者との対決を通し、自身の中にある歪み・願望と決着をつける」物語を支えるのが、ufotableのハイクオリティな作画演出です。


出典:映画.com

例えばヘラクレス(作中での名前はバーサーカー)の戦闘シーン。圧倒的なパワーを持つキャラクター像を出すため、非常に細かいプロセスで制作されたそうです。

①須藤監督の絵コンテに、3DCGアニメーターである佐藤号宙氏が3Dのモーションを付与。これによりカメラとモデルの動きに緩急がつけられ、3Dらしいダイナミックな映像へ。
②さらにCGディレクターの西脇一樹氏により、エフェクトを処理。3DCGスタッフの井川雄翔氏のテクスチャーによって、顔の皺や体の模様などの凄みを演出。

また本作のヘラクレスのシーンでは、ギリシャ神話に登場する「レルネの水蛇ヒュドラ退治」「ゲリュオネスの牛退治」といった12の功績の描写が挿入されており、神話に知識のある観客の興味をそそる映像に仕上がっています。


出典:映画.com

出典:映画.com

そして観客を唸らせたアーサー王(=セイバーオルタ)とメデューサ(=ライダー)の大迫力の戦闘シーンでも、かなり細かい演出がされています。

数フレームごとに立ち位置が変わり、画面に映る表情は3〜5コマというカットが連続していきます。そうなるとどうしてもキャラクターの動きが把握しにくい。そこで、ライダーの攻撃は紫系の光、セイバーオルタの剣筋は赤、と色や明度に差をつけていくことで、観客にライダーとセイバーの動きが補足できるような撮影を狙っていきました。
Newtype2020年5月号・撮影監督 寺尾優一インタビュー


出典:映画.com
2007年の「空の境界 第1章 俯瞰風景」公開から13年。この「Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song」は、当時から参加しているクリエイター達の表現の集大成でもあるのです。

英雄達は、終着点にたどり着く

こうして長い年月をかけて完成した映画3部作「Heaven’s Feel」により、2004年のゲーム発売時よりも理解度が高まったヒロイン・桜。ネガティブなイメージの強かった人物像がそうではない「人間形成される過程・共感できる部分」がクローズアップされたことで、以前よりはるかに感情移入しやすい人気キャラクターになったのです。


出典:映画.com

感情移入をさらに深くしたのが、3作全てで楽曲を提供した梶浦由記です。彼女も2007年の「空の境界」7部作から参加しており、ドラマ「あなたの番です」で主題歌を担当した歌手のAimer氏の声に乗せ第1章で「花の唄」、第2章で「I beg you」を制作。浜辺美波主演のPVもあり、彼女の心理描写がより理解できるものになっています。

幼い恋心、コンプレックスから生まれる狂気。そんな心理描写を締めくくる第3章の主題歌が「春はゆく」となっています。作り手の2人はいろいろな葛藤を経て、この曲を完成させたようです。

「第3章」の主題歌をどんなものにするかは台本をいただくまで明確なイメージはありませんでした。もちろん全体の流れとして、「第1章」の主題歌「花の唄」は間桐桜という少女そのものを描くマイナーなロック、「第2章」の主題歌「I beg you」は桜のダークな側面を描く過激な曲、そして「第3章」は平和で静かなバラードになるじゃないかなと漠然と予想はしていました。でも、脚本をいただいて読んだら、平和な美しい曲を書くことに違和感が生まれてしまって。曲を書けなくなってしまったんです。さんざん悩んだあげく「春はゆく」を書きました。(梶浦由記)

仮歌を聴いて、あまりにもデリケートな歌に感じて。優しすぎてもダメだし、悲しすぎてもダメ。曲の解釈は聴いている人に感じてほしいと思ったので、私の声はどちらにもとらえられるようにしようと。(Aimer)
Newtype2020年5月号インタビュー

このように演出、作画、音楽に至るまで、徹底的にこだわり長い時間をかけて映像化したスタッフ達の壮絶な3部作を、原作者と担当声優は絶賛しています。

自分たちは作品を作るんだ、という良い意味で意固地なところがあります。TYPE-MOONも似たようなところがあるのですが、スタッフが100人以上いるアニメーション制作会社でそれを徹底できるのは驚くべきことです。最初はあくまで「すごいなー」という認識だったんですけど、『空の境界』、『Fate/Zero』、『Fate/stay night[UBW]』とご一緒してきて、それが10年以上続いているのは、本当に凄まじいなと。彼らは原作の『Fate/stay night』至上主義ではなくて、そこから生まれる劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel]』至上主義なんですよ。どの作品でも、その点は徹底されている。自分は「メディアが変わるなら、味も変わらないとつまらない」と考えているので、自分にとってもufotableさんにとっても幸せな関係になっているなと思います。
公式パンフレット・奈須きのこインタビュー

とても重い話なんですけど、桜や言峰、イリヤの隠された真実は[HF]を見ないとわからないので、こうやって劇場版3部作という素晴らしいかたちで映像化していただいたことが、本当に嬉しかったです。今は『Fate/Grand Order』をはじめ、『Fate』シリーズの作品が人気を集めていますが、皆が知っている「聖杯戦争」は、本当はこういうものなんだと。全ての原点となる『Fate/stay night』はこういう物語なんだと、その魅力を知っていただきたいです。
公式パンフレット・下屋則子インタビュー

「映像化不可能を映像化しきった」須藤監督をはじめとした制作スタッフの10年以上の挑戦は、まさに英雄譚。最終章が公開された日は、奇しくも終戦の日となりました。専門用語も多く視聴するには非常に時間がかかるためとっつきにくいイメージも先行するこのシリーズですが、完結した今こそ興味のある方は見始める絶好の機会と言えるでしょう。

出典:「fate/stay night[Unlimited Blade Works」公式サイト

さて……ここまで書いて自分も現在配信中のスマホゲーム「Fate/Grand Order」が気になってきたのですが……。課金する準備は……あ、はい、万全じゃないです……。


このコラムについてみんなで語り合えるオンラインコミュニティ「街クリ映画部」会員募集中です。また、コラムの新着情報をオリジナルの編集後記とともにLINE@で無料配信中です。こちらから「友だち追加」をお願い致します。

[イラスト]清澤春香

街角のクリエイティブ ロゴ


  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP