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「マリッジ・ストーリー」ふたりが別れる、ほんとうの理由

金子ゆうき 金子ゆうき


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作品賞、主演男優賞、主演女優賞、助演女優賞、脚本賞、作曲賞。

第92回アカデミー賞で「マリッジ・ストーリー」がノミネートされたのは、全6部門。
受賞はローラ・ダーンの助演女優賞のみでしたが、「アイリッシュマン」と共にNetflixオリジナル映画の強さを世界に示しました。

というわけで、今回ご紹介するのは「マリッジ・ストーリー」。

Netflixオリジナル映画について書くのは「ROMA/ローマ」以来、2回目ですね。「ROMA/ローマ」もよかったけど、こっちもかなりいい。

結婚してる人も、してない人も。
結婚したい人も、したくない人も。

すべての人に見てもらいたい。
「人」を描いているからです。

今回も完全ネタバレ仕様。「マリッジ・ストーリー」以外の作品もネタバレがあるので、ご了承ください。ありがたいことに僕の映画評で「もう1回見たくなった」と言ってくれる人がいます。言っているのは、僕です。今回もそうなったらうれしい。

というか、読んでから見ると、絶対おもしろくなります
そういう映画だと思います。

それでは、どうぞ。

離婚を通して、結婚を描く

物語は、夫婦が互いに相手の好きな部分を読みあげるところからはじまります。

妻は、相手の話しをよく聞き。子どもと本気で遊ぶ。
夫は、何をいわれても自分を曲げない。子どもの夜中の癇癪も大歓迎。

そして、妻は、夫は、負けず嫌い。

出会い、惹かれ、家族になったことがよくわかる微笑ましいオープニング。ですが、すぐに2人は離婚に向けての話しあい中だとわかります。好きなところリストは、調停人のすすめで書いたものだった。

「マリッジ・ストーリー」は離婚に向かう夫婦をとおして、結婚を、男女を、親子を、愛を描いています。


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出典:IMDb

夫のチャーリーはニューヨークで劇団を主催する劇作家で演出家。妻のニコールはハリウッド映画で人気を博した女優。結婚後はチャーリーと共にニューヨークに暮らし、夫の劇団で看板女優をつとめています。

チャーリーを演じたのはアダム・ドライバー。「スター・ウォーズ」シークエル・トリロジーのカイロ・レンで有名ですね。インディアナから出てきたという設定はアダム・ドライバー自身の出自からとられたようです。

ニコール演じたスカーレット・ヨハンソンは「アベンジャーズ」シリーズのブラック・ウィドウで知られていますね。


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出典:IMDb

スカーレット・ヨハンソンに「アベンジャーズ」のイメージをもっていたので「こんな繊細な演技もできるの!?」と驚いてしまいました。

彼女、ちいさい頃から女優として活躍していて「ロスト・イン・トランスレーション」(2004)など演技力はずっと評価されていたんですね。

お前が無知なだけや! と言われそうですが、まったくその通りです。

原稿を書いているのはアカデミー賞発表後なので、両者の演技はすでに褒めつくされた感があります。なので、見かけたことのない角度から褒めてみます。2人の「体格」です。

Google先生に聞くと、アダム・ドライバーは身長189㎝スカーレット・ヨハンソンは160㎝身長差は約30㎝! 


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出典:IMDb すごい身長差です。

アダム・ドライバーはシンプルに威圧感がある。で、身体が大きい分、どこにいても居心地の悪さが伝わってくるんです。それがチャーリーの性格、良くいうと自分を曲げないところ、悪くいうと自分勝手なところに見事にはまっています。

スカーレット・ヨハンソンが思ったより小柄でびっくりでしたんですが、もっとびっくりなのが物語の最初と最後で大きさがちがってみえること。

ニコールは序盤、チャーリーに浮気されたこと、自分の気持ちを分かってもらえないことに苦しみ泣いてばかり。しかし、カリフォルニアでの暮らし、あたらしい仕事や弁護士ノラとの出会いを経て、徐々に気持ちがふっきれ、晴れ晴れとしていきます。気持ちの変化が、身体の大きさに反映されているかのようなんです。俳優さんてすごいですね、ほんと。

「マリッジ・ストーリー」はセリフのないシーンでの細かい感情のうごきの伝え方がすごくうまい。「トイ・ストーリー」シリーズの音楽で知られるランディ・ニューマンが手がけた室内楽メインのシンプルな楽曲の多くもセリフのないシーンで流れ、感情のうごきに寄りそいます。

役者の身体をとおして「言葉にならない、言葉にできない心のうごき」が伝わってくるんですよね。

離婚を描いた名作として真っ先に挙がるのが「クレイマー、クレイマー」(1980)


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出典:IMDb

「マリッジ・ストーリー」には「クレイマー、クレイマー」の影響がそこかしこに見受けられます。ラストシーンでニコールがチャーリーの靴ひもを結びなおすシーンがありましたが、「クレイマー、クレイマー」にもありましたね。ダスティン・ホフマンが学校の前で息子の靴ひもを結びなおす。仕事に夢中だった男が妻に出ていかれ、苦労しながらも本当に子どものことを考えるようになった。それが伝わる素晴らしいシーンです。

スカーレット・ヨハンソンで靴ひもを結びなおすといえば「マリッジ・ストーリー」と同じくアカデミー作品賞にノミネートされた「ジョジョ・ラビット」にも登場しましたよね。靴ひもを結びなおすというのは、相手を気にかけ、よく見ていることの象徴として使われます。


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出典:IMDb 「ジョジョ・ラビット」のスカーレット・ヨハンソン。こちらも名演でした。

「マリッジ・ストーリー」の主演2人の名演は今後、「クレイマー、クレイマー」のダスティン・ホフマンメリル・ストリープと同列で語られていくんじゃないですかね。それくらい、すばらしかったです。

地味なテーマにこそ、画づくりに注目

「マリッジ・ストーリー」は夫婦が離婚するまでを描く、会話劇が中心の地味ともいえるテーマ。なのに、ものすごく見ごたえがある。俳優たちの演技はもろんですが、注目したいのは撮影監督。ロビー・ライアンです。

ケン・ローチ作品を多くてがけていて、ヨルゴス・ランティモス監督「女王陛下のお気に入り」(2018)でアカデミー撮影賞にノミネートされています。「女王陛下のお気に入り」は「バリー・リンドン」を彷彿とさせる自然光の多用、魚眼レンズによる歪んだ画面と凝った画作りが印象的です。


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出典:IMDb 「女王陛下のお気に入り」のワンシーン。画面の歪みが宮廷や貴族の心の歪みを示すかのよう。

「マリッジ・ストーリー」でも広角レンズをつかった地下鉄のショット。スカーレット・ヨハンソンのクロースアップ。ニューヨークとロサンゼルスでの色分け。細かい画作りが光ります。


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出典:IMDb ニューヨークは寒色、カリフォルニアは暖色のイメージ。

イングマール・ベルイマン監督の「仮面/ペルソナ」(1966)における、2人の顔がオーバーラップする技法も取り入れられています。夫婦がたがいを映す鏡であることや、離婚に向かいつつも心のなかに相手がいることが伝わってきました。


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出典:映画.com

個人的に好きなのは、弁護士ノラの事務所での協議シーン。奥行き、中央の消失点を強調したような構図。そして、そこは壁。2人の行く末が行き止まりであることが伝わります。チャーリーと彼の弁護士が2人きりになる部屋は狭く、より鋭角的で、チャーリーの望むようにならないことを暗示しているようでした。


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出典:IMDb この部屋でのシーン。ロサンゼルスの「広さ」を強調するのも笑えました。

撮影と演技のピークは、裁判後の口論シーン。約10分間の長回し。冷静に話しあおうとはじめたはずなのにエスカレートし、最後は「死ねばいい」という言葉がチャーリーからこぼれます。2日間で約50回も撮りなおしたそうです。あの壮絶な罵りあいを50回とは、いやはや。

脚本・監督を手がけたノア・バームバックは仕上がりに徹底的にこだわる人なんでしょうね。そういえば冒頭の好きなところリストで、ニコールがチャーリーを徹底主義者と書いていました。

チャーリーというキャラクターは、バームバック監督自身を反映していて「マリッジ・ストーリー」全体が彼の離婚経験がもとになっているともいわれています。


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出典:IMDb

バームバック監督は2005年に女優のジェニファー・ジェイソン・リーと結婚し一児をもうけますが、2013年に離婚。「マリッジ・ストーリー」においてニコールが学園モノの映画に出た設定になっていますが、これはジェニファー・ジェイソン・リーが出演した「初体験/リッジモント・ハイ」(1982)からとられているようです。

バームバック監督の作品の多くは、個人的な体験が反映されているといわれています。「個人的な体験」というと、アカデミー授賞式が思いだされませんか?

アカデミー授賞式におけるポン・ジュノ監督のスピーチは、僕をふくめて多くのモノをつくる人間に希望と感動をあたえました。街クリ映画ライターのmameさんがスピーチを和訳されていたので、引用します。

「一番個人的なことが一番クリエイティブなことだ」という言葉を本で読みました。これは、偉大なるマーティン・スコセッシ監督の言葉です。
わたしは学校でスコセッシ監督の映画を観ながら学びましたが、同じ候補になるだけでも光栄なのに賞までいただけるなんて驚きました。
mame3(@yymame33)のツイートより引用

スコセッシ監督のことばを長年つづけているのが、バームバック監督といえるかもしれません。

一番個人的なことが一番クリエイティブなこと

ノア・バームバックは1995年に監督デビュー。ほとんどの作品で脚本も自ら書いています。「イカとクジラ」(2006)は、アカデミー脚本賞にノミネートされています。「イカとクジラ」は、自身の両親が離婚した幼少期の体験をもとにつくられています。ニューヨークを舞台に、落ち目の作家で身勝手な父と、物書きとしての成功をつかみつつある母。そして、2人の兄弟。一匹の猫。家族をめぐる物語です。


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出典:映画.com

「マリッジ・ストーリー」の口論シーン。チャーリーは「父親とおなじね」と罵られるとスイッチが入ったように激高しますが「イカとクジラ」を見るとバームバック監督が自身の父親に複雑な感情をもっていたことがわかります。

「グリーンバーグ」(2010)は、バームバック監督がジェニファー・ジェイソン・リーと離婚協議をしている時期につくられました。


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出典:IMDb

離婚がテーマではありませんが、ベン・スティラーが演じた主人公グリーンバーグにはバームバック監督自身が投影されています。

ニューヨークから、カリフォルニアにやってきたグリーンバーグ。弟は成功したビジネスマンで、弟一家の家族旅行中に犬小屋をつくる約束で家に住まわせてもらいます。グリーンバーグは犬小屋づくりもほどほどに、航空会社やスターバックスにクレームの手紙を何通も書いている。とにかく悪口ばかりで、なにがあろうと自分は悪くないと思っている。まあ、あれです。嫌な奴です。


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出典:IMDb 左がベン・スティラーで、右がバームバック監督。体格は似ていますね。


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出典:IMDb 監督とアダム・ドライバーは、けっこう体格差があります。

グリーンバーグの元彼女役として、ジェニファー・ジェイソン・リーが出演。自分が離婚しようとしている相手を、自分を反映したキャラクターの元彼女役にする。どんな心境なんだ、それ

弟の家のお手伝いさんと良い感じの関係になるんですが、グリーンバーグはなにしろ自分勝手だから、彼女を振りまわします。それでも、グリーンバーグは少しずつ自分の悪いところに気づいて前に進もうとする。何が大切なのかに向きあうようになります。


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出典:IMDb グリーンバーグも前進します。ほんのちょっとだけど。

自分勝手で、母親を大切にせず離婚した父親。バームバック監督自身も同じようなことになってしまったといえるわけで、皮肉なものです。しかも、それを映画にしてきたんですよね。

とまあ、「イカとクジラ」「グリーンバーグ」と「マリッジ・ストーリー」には似た要素が多いわけです。しかし、決定的に違う部分があります。女性側ニコールの視点や感情が表現されていることです。チャーリーに損なわれたこと、浮気をされたことに傷つき、それでもポジティブに人生を切り開こうとする描写に多くの時間が割かれています。

「グリーンバーグ」から、とても大きな変化です。

なぜそうなったか? 2つ理由をあげます。

ひとつは、「マリッジ・ストーリー」が監督自身だけではなく、たくさんの離婚経験者の話を聞いて作ったから。スカーレット・ヨハンソンも「マリッジ・ストーリー」のオファーを受け取ったときは自らの離婚騒動の真っ最中でした。

弁護士ノラのモデルといわれるローラ・ワッサーはその時の夫側の弁護士でした。ちなみにローラ・ワッサーはバームバック監督の離婚調停のとき、ジェニファー・ジェイソン・リーを担当しました。ほんと「マリッジ・ストーリー」について調べると「どんな心境なんだ、それ」がゴロゴロできてくるんです。おもしろいけど、気持ちのやり場に困る。

監督だけでなく、様々な人の結婚、離婚のストーリーが反映されたからこそ女性の目線もたくさん入ったんですね。

もうひとつは、バームバック監督の今のパートナーの存在。女優、脚本家、映画監督のグレタ・ガーウィグ。「グリーンバーグ」のヒロイン、お手伝いさん役だった人です。結果的に「グリーンバーグ」は、監督の今の彼女と元彼女が、今の彼女役と元彼女役で出たということになります。どんな心境なんだ、それ

バームバック監督とグレタ・ガーウィグ、結婚はしていないようですが2019年3月に一児をもうけています。

彼女との関係を深めるなかで、自分の欠点やジェニファー・ジェイソン・リーとの結婚・離婚経験を客観的に見ることができたんじゃないかと思うんです。推測ですけどね。

グレタ・ガーウィグというすばらしいパートナーを得て「マリッジ・ストーリー」という傑作をつくることができた。アカデミー作品賞にもノミネートされるほどの。しかも、グレタ・ガーウィグは監督した「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」が同じアカデミー作品賞にノミネートされたんですよ! どんな心境なんだ、それ


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出典:IMDb 2020年のアカデミー受賞式での2人。恋人同士でオスカーを争うってすごい。

「監督の過去作を知ると映画はもっとおもしろくなる」は、僕の信条であり、過去の映画評でも散々書いてきたんですが、今回ほどそれを実感したことはないです。監督の過去から心の変化がより深く理解することができました。

しかも見たのは「イカとクジラ」「グリーンバーグ」だけ。バームバック監督の作品はまだまだありますから、もっと見ていきたいです。

「ラ・ラ・ランド」から考える、ふたりが別れる、ほんとうの理由

チャーリーとニコールの話にもどします。

「マリッジ・ストーリー」の2人を考えていったら「ラ・ラ・ランド」(2017)を思い出したんです。

※※以下、「ラ・ラ・ランド」のネタバレに触れるので注意※※


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出典:映画.com 日本版ポスターのダサさはなんとかなりませんか……。 

「マリッジ・ストーリー」のチャーリーとニコールと、「ラ・ラ・ランド」のセブとミアには共通点があるんじゃないかと。


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出典:IMDb

最後は、別れる
それはもちろんですが、重要なのはその理由。

創作への価値観の違い。

「ラ・ラ・ランド」でのセブは古く伝統的なジャズと、それを演奏できるお店づくりに固執しました。大衆にウケることを否定しないまでも、良くは思っていない。一方のミアはハリウッド女優として大成功を収めます。詳しくは描かれませんが、ミアが成功に至る過程で2人の道は別々になりました。


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出典:IMDb

別れるまでに何があったのか。少なからず価値観のすれ違いがあったんだと思います。

「マリッジ・ストーリー」はどうか。チャーリーは演劇の芸術性を重視し、ハリウッド映画やテレビドラマはくだらないと下に見ます。ニコールは映画・ドラマ業界の人に囲まれて育ち、ハリウッド映画に出演して女優としての道を開きました。ハリウッドで仕事したいと願い、監督も志望します。彼女には「夫のためではなく、自分で考え行動する」という目的もありますが、ひとりの「創作する者」になりたいという気持ちがあったんだと思うんです。

「マリッジ・ストーリー」と「ラ・ラ・ランド」、どちらも「創作する者」としての根っこのすれ違いが大きかったと思えてなりません。

だから、チャーリーとニコールは、たとえチャーリーがもっと思いやりを持って接していたとしても、遅かれ早かれ別れたのではないでしょうか。チャーリーの浮気はきっかけのひとつに過ぎない。ほんとうの理由は創作に対する価値観のちがい

ふたりは創作する者として惹かれあい、創作する者ゆえに別れる。

夫婦として気持ちが離れても、実力は認めあい尊敬している。だからこそ、どれだけいがみ合ってもそこには「敬意」が滲んでいたんだと思うんです。

そもそも、チャーリーはその人間性ゆえに、独創的ですぐれたものを生みだせているともいえませんか。

「創作者の業」みたいなものを感じます。

振り付け師で映画監督のボブ・フォッシーが監督した「オール・ザット・ジャズ」(1980)。主人公は監督自身を反映したキャラクターなんですが、それにも「創作者の業」が色濃く映し出されています。彼らはふつうの人間である僕たちに優れたエンタテインメントを提供する代償として、常識や社会性を捧げているんですよね。


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出典:IMDb

ニコールの家に泊まれると思いこんでいるチャーリー。調停人の前で良い父親ぶりを見せようと空回りしてナイフで腕を切るチャーリー。滑稽で笑いを誘う彼の姿は、優れた創作家であるがゆえの悲劇であるとも思います。

終盤、チャーリーが歌うのは結婚をめぐるミュージカル「カンパニー」の曲『Being Alive』。

歌の上手さにびっくりですが、アダム・ドライバーはジュリアード音楽院を出ているんですね。超名門の音楽学校ですよ、ジュリアードは。ほんとうに多彩です。

出典:YouTube

傷つけられても、煩わしくても、孤独では生きているといえない。
誰かを求め、誰かに求められることが、生きること。

自分のせいで大切なものを失い、それでも前に進もうと歌うチャーリーの姿は滑稽でもあります。
でも、バカにして笑うことはできません。彼の姿は、僕たちそのものだとも思えるから。

「マリッジ・ストーリー」は、今、側にいる人。そして、これから側にきてくれる人を大切にしたいと思わせてくれます。

内容が内容だけに、大切な人と一緒に見てとは言いづらいですが、
ぜひ、大切な人のためには見ていただきたい傑作です。


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[イラスト]ダニエル

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