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「mellow」なリアリティと、花が運ぶ人々の想い。

はるちゃり! はるちゃり!


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「あぁ、今、新宿を歩いているカップルの全てがいとおしく感じるよ……(号泣)」

「そ……そうだよね!」

私は映画を観終わったあと、歩きながら再び泣き出した友人にかける言葉が上手く見つからなかったけれど、ニュアンスは分かった。深くは知らないが、彼はここ数か月間で色々なことがあったようで、心が荒み、連日にわたって芸能人のゴシップを調べ尽くしていたらしい。(やめとけよ……)

その日観た映画「mellow」は、昨年驚異の大ヒットを記録した「愛がなんだ」や、伊坂幸太郎さん原作の「アイネクライネナハトムジーク」といった数々の恋愛映画を手掛けてきた今泉力哉監督が、「正解のない恋のカタチ」を描いたオリジナルラブストーリーだ。街で一番オシャレな花屋と廃業寸前のラーメン屋を舞台に、不器用な人々の片想いをユーモアを交えながら描いている。



引用:映画.com

リアリティの追究の、先にあるもの

今泉監督の作品は、リアルで“生っぽい”。
「mellow」では特別に大きな出来事は起こらないのだが、ところどころに散りばめられたユーモアと、“当たり前の日常”のひと言ひと言への親近感、どこか懐かしかったり共感してしまうようなシーンによって、最初から最後まで惹き込まれてしまう。

「笑い」も「カッコ良さ」も押し付けない

上映中、思わず笑ってしまった場面がいくつかあった。
その「笑い」は爆笑ではない。じわじわと映画館全体が温かい「笑い」に包まれ、不思議な一体感すら感じるものだった。

今泉監督は次のように語っている。

私は中の人たち(話の渦中にある本人たち)は何も面白いと思っていなくて、本人たちは真剣だけど空回っていたり、言ってはいけないことを言ったりといったズレや気まずさで生まれる笑いの方が本当に面白くなると思っています。
引用:今泉力哉監督「芝居を見てから作っています」映画『mellow』【インタビュー】

また、登場人物の台詞が心にすっと入り込んでくる感じも、今泉監督のこだわりによるものだった。

日常劇なので、台詞を書くときにも、普段言わない言葉はあまり書かないとかは意識しています。映画はフィクションだから、かっこいい台詞とか、いい言葉を書いてもいいんですけど、そうするとどんどん作り物になっていくから。あと、逆に決め台詞っぽい言葉は、なるべくかっこいい画で撮らないように意識してます。決め台詞って、ほかの台詞よりも「決め」なだけで1個乗るんです。それを「寄り」で撮るとふたつ乗っちゃう。オンオンだと、押しつけになっちゃうと思うから。観終わったときに、やっぱり「本当に隣にいそう」とか「近くに住んでそう」みたいになったほうが、自分たちの話になる気がしています。
引用:【インタビュー】今泉力哉監督 “生っぽい”感覚を追求「ドラマにならないようなことが、ドラマにできる」

リアリティを追及した描き方により、日常の中のドラマにならないようなことがドラマとなっている。登場人物たちはどこかに弱さがある不器用な人々で、観る人はその「日常」や「人物像」に惹き込まれ、自分自身の経験を重ねてしまう。



引用:映画.com

世の中の「当たり前」を疑う

中学生の女の子同士や、年齢差のある恋、旦那がいる女性の告白や、自分のことを好きな人の前で“別の人へ”する告白。
作品中には様々な恋愛のカタチが存在するが、どれが「正しい」という話や、誰かが「悪者」になることはない。

オリジナルをやる時に、リアリティーの出し方として自分が大事にしてることは、明確な悪人を作らずにいかに衝突を作るか。例えば、悪い人を出してその人と主人公が対峙するのは作り易いじゃないですか。今回って別に敵はいないけど、何かしら伝える・伝えないの葛藤だったり、年齢差や旦那がいること、そういう衝突はある。
引用:今泉力哉監督「芝居を見てから作っています」映画『mellow』【インタビュー】

叶わない恋でも、不思議とそこに辛さはなく爽やかだ。
「人を想う気持ちは美しい」
そんな純粋な感覚を再確認できる作品である。

僕には、世の中の「これがいい」、「これが成功」みたいなことを、疑いたかったりする意識があるんです。劇中、中学生の女の子同士の恋愛もあったり、不登校の小学生の女の子がいたり、結婚しているけど告白する人がいたりして、世の中的には「よくない」とされていることが出ています。この作品では、そういう人たちをとがめるわけではなく、当たり前に受け入れて生活する。「ダメ」と言われていることを「ダメって言わない」みたいなことは、書いているときに意識していた部分ではありました。
引用:【インタビュー】今泉力哉監督 “生っぽい”感覚を追求「ドラマにならないようなことが、ドラマにできる」

さらに、今泉監督は「主人公が何かを乗り越えたり、成長するというよりは、ちょっとした変化くらいの日常を描くことを意識しています」とコメントしている。(2020年1月12日イオンシネマシアタス調布にて行われた、今泉力哉監督特集上映会にて)



引用:映画.com

素直に生きること。誰かを想うことの美しさ。
恋や人生の正解は、一人一人違うこと。
そのままの自分で十分素敵だということ。

そんな“当たり前”のことを改めて実感でき、自分の本心と向き合うきっかけを与えてくれる作品だ。
観終わる頃には自分の「日常」に愛おしさを感じ、温かく前向きな気持ちになれるだろう。

会話が生まれる映画

今泉監督が2019年に映画化した、原作・角田光代さんの「愛がなんだ」では、公開早々からTwitter上に感想をアップする人が続出した。そしてテアトル新宿では前代未聞のトークイベント「あえて映画館で映画上映なしで愛を考える90分!! 『愛がなんだ』をひたすら語る夜」が開催。映画館なのに映画を上映しないこのイベントでは、監督やゲストのトーク、観客とのQ&Aのみが行われた。開催のきっかけは、舞台挨拶などのイベントで盛り込まれていたQ&Aが毎回盛況で時間が足りないと監督が感じていたことによる。

そして今回、「mellow」でヒロインの木帆を演じた岡崎紗絵さんは次のように語る。

「愛がなんだ」はいろいろな登場人物がいて、その人たちの恋愛の仕方の違いが面白かったと思うんですけど、今回は恋愛の仕方と言うよりも、さっきの自分の想いを伝えるのか? 伝えないのか? という話とも繋がりますけど、自分の恋愛を振り返って、このシチュエーションのときに自分だったらどうする? みたいなことをきっと考えると思います。
引用:「田中圭さんはイメージを裏切らない」岡崎紗絵インタビュー【映画『mellow 』】



引用:映画.com

また、“終わりのない”エンディングについて、今泉監督は次のように語る。

あのラストシーンを告白だと思う人もいるだろうし、ただ、頑張ってきてねという意味だと思う人もいるかもしれない。今後、二人の関係が、特に続いていかないと思う人もいるだろうし、手紙のやり取りくらいはするのかなとか、本当に恋人になると思う人もいると思いますし。それはやっぱり答えない方が想像が膨らんでいろんな話が生まれるかなと思うので、そういうところを意識しています。
引用:今泉力哉監督「芝居を見てから作っています」映画『mellow』【インタビュー】

映画には“終わり”がある。しかし、実際の人生はその後も続いていく。



引用:映画.com

ちなみに、最近心が擦れっぱなしだったという私の友人は、映画館を出て数分の沈黙の後

「これは……
心が荒んでいる人を回復させる映画だよ!!!

こちら側を傷つけてこないのに、自分の世界が変わるからすごい。
すごく自然に、綺麗ゴトが入ってくる。
みんなが信じたい世界を、違和感なく描いている。
自分もこうありたいと思える。
純粋ってほんといいな……俺も昔はそうだった。
俺にもこういう頃があったのに、自分で棄損してしまった……」

と、しばらく余韻に浸っていた。

(そっとしておいた)

本作において、私は「場」もキーワードだと考える。
それは昔から変わらない価格の町のラーメン屋だったり、悩み事も話せる町の美容院、近所の人たちが集まってくる町の花屋。普段はあまり気に留めることはないけれど、“当たり前”の場所だ。その大小や知名度は関係ない。

本作を通して、誰かが誰かの「場」になっていることの尊さを改めて実感した。
そして、私もいつかそんな「場」を作りたいと、自分の気持ちを再確認できた。

「花」と「手紙」が運ぶ想い

作品中に出てくる花屋「mellow」は、東京外苑前にある花屋「VOICE」をモチーフとしている。「VOICE」を運営するフローリスト香内斉さんが本作に花監修として参加し、花関連のシーンを全面的にバックアップしたという。いくつもの想いをのせた花々が、作品に温かみを加えている。

リアルを追究した作品の中で、リアルではなかったことがある。
皆、想いを伝える手段が「花」や「手紙」だったことだ。それは良い意味での“違和感”として心に留まった。

花を贈る人と、花を贈られた人の表情が丁寧に描かれているのが印象的だった。



引用:映画.com

誰かのことを想いながら花を選ぶときの照れくささや不安、一本一本を丁寧に選ぶ真剣な表情。

そして、花を貰ったときの驚きと喜びの表情。その花の香りを楽しんだり、家で丁寧に飾ったり、花をきっかけに大切な人との思い出に浸るひとときの表情。さらには、同じ一本の薔薇を貰っても一人一人違う笑顔。
そこで贈られる花はあまり派手なものではないけれど、たとえ一本でも花は嬉しいものだ。

花で想いを伝えるのは照れくさいし、手紙なんて書かなくてもスマホで簡単に伝えられる。
しかし、花を贈られた人の驚きや笑顔、手紙を貰った人がそれを読むまでのソワソワした感じや、文字から伝わってくる「その人らしさ」や温かみは何物にも代え難い。

本作を観た後は、自分もそんなふうに大切に想いを届けたいと、大切な人の顔を思い浮かべるだろう。


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[イラスト]清澤春香

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