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「シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション」はフランス人がくれた愛のパズル

ハマダヒデユキ ハマダヒデユキ


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「俺を呼んだのは、君だろ?

……うっひぉーーー! もっこりちゃんんんんん゙ん゙!」

「何言ってんじゃ、ぼけぇ!!」

出典:animeanime.jp

このビジュアルを見たら、冴羽獠と槇村香のそんなどつき合いが聞こえてきそうです。30〜40代の男女なら多くの人が知っているはず、それが北条司の人気少年マンガ「シティーハンター」です。あまり詳しくない方のために解説すると

東京・新宿で殺し・ボディーガード・探偵等を請け負うスイーパー「シティーハンター」の活躍を描くハードボイルドコメディ。現代劇として描かれたため、連載時の1980年代後半が舞台で、「シティーハンターが美人の依頼人から仕事を受け、その依頼を数話をかけてこなす」というのが基本構成となっている 出典:wikipedia

という少年ジャンプ連載でありながら、大人の香りのする娯楽マンガ。その傑作がなんと30年近い時を経て、実写化したというのです!

出典:映画.com


フランス人の手によって。

ここで「なんだ、外国人のコスプレ映画か。ハズレだろうなー観ない方がいいなー」とブラウザバックするのはぜひ待っていただきたいもの。本作は当たり外れの激しいマンガ実写化とは思えない、稀有な優良映画なのです。

フランスで168万人を動員したこの作品。なぜ外国人による漫画の実写映画化というハードルを乗り越え、成功したのかを今回は考察したいと思います。

ヒットの理由1:原作ファンとしての想いが、圧倒的だった

実を言うと、シティハンターの実写版が制作されるのは今回が初ではありません。

出典:imdb

出典:日テレポシュレ

1993年にはジャッキー・チェン主演で、 2015年には上川隆也主演で、実写版が制作(後者は続編「エンジェル・ハート」が原作)されています。ビジュアルの近い両者と比べ、全く見た目が違うフランス人が演じるのはかなり無理があるのでは……と思うかもしれません。

出典:映画.com

そんなプレッシャーに一切気後れせずに監督を務めたのが、フィリップ・ラショー監督(39歳)。 なんと主役の冴羽獠も彼本人が演じています。この左の人物が、この右のビジュアルになります。

日本でも広く知られている事実ですが、フランスはヨーロッパでも随一のオタク王国。『水曜日のアニメが待ち遠しい』(トリスタン・ブルネ著/誠文堂新光社)によれば、かつてフランスのテレビ局は「国営第一放送」と「国営第二放送」しかなかったそうです。そんな限られた娯楽の中に、1978年に第二放送が日本のアニメ「UFOロボ グレンダイザー」が登場。学校が休みの毎週水曜でその人気は爆発し、視聴率100%になったこともあったそうです。

それをきっかけに「アルプスの少女ハイジ」「科学忍者隊ガッチャマン」といった日本の人気アニメが、フランスのお茶の間に登場。一時期は国の方針で日本アニメがテレビから消えた時期もありましたが、そこから「テレビが流さないなら、自分たちで手に入れる」とファン同士が独自にネットワークを構築します。 独自に輸入する専門店や出版社が登場し、1993年に「ドラゴンボール」が登場したことでそのブームは一気に燃え上がったようです。

こうして90年代に日本アニメ文化が完成されたフランスでは、1999年から毎年「ジャパンエキスポ」が開催し今日に至ります。

ラショーは、まさにそんな日本アニメ文化が形成される90年代に貪るようにアニメを視聴した生粋のサラブレッド。「聖闘士星矢」「キン肉マン」などの大ファンで子供のころ将来なりたい職業は、映画監督か漫画家の二択だったようです。

出典:映画.com

そんな夢もあってか、代表作となった「世界の果てまでヒャッハー!」(`15)をはじめとした「ヒャッハー!」シリーズでも監督兼主演を務め、そこでは漫画家役を熱演。子供の頃になりたかった存在に、映画の世界でなる。そんな夢を抱くようになったラショー監督は、本作の脚本を書くため18ヶ月の時間を投入。その執筆のためにフランスで放送されたアニメ144話、原作漫画の全35巻を読み直し、ありとあらゆる資料を読み込んだとのこと。

出典:amazon.co.jp

そして映画化の権利を得るため、原作者である北条司に会うべく来日。脚本をチェックしてもらった48時間後、彼から契約をもらえたそうです。「原作にこのストーリーを入れたかった」という最高の褒め言葉とともに。

出典:imdb

そんなラショーが演じた冴羽獠がこちら。8か月間の食事ダイエットとトレーニングを自らに課し、筋肉を8kg増量。それと並行し、アクション・シーンの所作を練習し、マグナムや機関銃など様々な銃の扱い方も習ったという熱の入りよう。

それから髪も黒く染めた。スタイリストが冴羽獠の衣装を僕に渡してくれた日のことを今でも覚えているよ。水色のジャケットに赤いTシャツ、黒いパンツというスタイルになった自分の姿を初めて見たときは、すごく感動したね。 出典:公式パンフレット

と真面目に公式パンフレットでは語っている一方で、他の場所では

似てないと言われる怖さはありましたけど、僕が監督ですからね。監督が僕を主演に選んだんだから仕方ないですよ(笑) 出典:DVD&動画配信でーた

と語っています。うーん、オチャメなキャラ。

ヒットの理由2:原作ファンを納得させる再現度だった

そんな原作への愛が強いラショー監督の声を演じたのは、「冴羽獠は役者にとって一度はやってみたい最高のキャラクター」と語る元祖担当の声優・神谷明氏、ではありません。彼は本作のオファーが来た時を以下のように話しています。

出典:映画.com

実は最初に実写版を観たときは、とってもおもしろい作品だったので、自分でやろうかなって思ったんですよ。でも、実写版というのは、やはりアニメーションとは違って、実際に俳優さんが演技をされていらっしゃるわけですよね。台本をいただいて、ラショーさんの演技を拝見して、これは今の僕では演じきれないと素直に感じたんです。

ラショーさんの「シティーハンター」への愛が深い作品だけに、無理してやってはいけないと思って、オファーは大変ありがたかったんですけど、ご辞退申し上げて。出典:公式パンフレット(神谷明インタビュー)

そこで神谷氏は、今年2月に公開されたアニメ「劇場版シティーハンター〈新宿プラベート・アイズ〉」でライバル役を演じた山寺宏一氏に、自身の大切な役を委ねます。

出典:映画.com

「エディ・マーフィ」や「ウィル・スミス」の吹き替え、ディズニーのドナルドダックなどを担当し、声優としてもトップクラスの実力を持つ山寺氏。そんな彼も、今回はかなりのプレッシャーだったようです。

神谷さんの獠は、僕にとっては本当に大きな存在で、今回はまさにその獠役ですから。観客のみなさんは、どうしても神谷さんと比べるでしょうし、神谷さんが今まで獠でやってきた表現に追いついていないんじゃないかって思われてしまうのが、やっぱり一番怖かったですね。

(中略)それが神谷さんの場合、デヘ~ッとやっても、スッと戻っても、見ている人はみんな、どちらもちゃんと冴羽獠だと思っている。だから、いまだに答えは出ていないんですけど、今回はラショーさんの演技になるべく寄り添うようにやったつもりです。出典:公式パンフレット(山寺宏一インタビュー)

そんな山寺氏の熱演は本当に素晴らしいもので、ぜひ劇場でご覧いただければと思います。

出典:映画.com

そんな原作再現のために、吹き替えだけでなく出演している俳優たちも気合十分。パートナーである槇村香役のエロディ・フォンタンは、本来の金髪ロングを真っ赤に染め、100トンハンマーを背負ってラショーと本格的なアクションを展開します。

出典:映画.com

さらに本作では兄である槇村秀幸が獠に香を託す、原作ファン感涙のシーンも完全再現。演じるラファエル・ペルソナのビジュアルはあまりに「秀幸すぎる」としか言いようがありませんでした。

出典:imdb

何より完全再現だったのは、海坊主。「どこから連れてきた!」と言わんばかりのソックリぶり。

もし本作が「外国人オタクが演じるただのコスプレ映画」なら、ここまでの人材に気合が入るわけがありません。「自分たちが大好きな世界を再現したい、それを同じファンたちに喜んでほしい」という熱意がなければ絶対にできない。だからこそ原点の声優も、その熱意をあえて自分が心から信頼する後輩に託したのだと思います。

出典:imdb

出典:imdb

……ちなみにこんなシーンもバッチリ表現。原作にあるシリアスとコメディのバランスをとことん再現し「国籍の違いを超え、本当にこの監督は原作を愛しているんだな」というのが伝わってきます。

ヒットの理由3:原作ファンの予想を超え、唸らせる展開だった

さて本作の鑑賞後、より深い考察のため今年2月公開の「劇場版シティーハンター〈新宿プラベート・アイズ〉」もチェックしてみました。

出典:映画.com

過去のアニメシリーズのスタッフ・キャストが勢ぞろいし更に往年の名曲が多数楽しめる「新宿プライベート・アイズ」。当たり前ですが、原作の再現度では「史上最香のミッション」を上回り、長年のファンにとってはご褒美のような映画でした……しかしそれでも個人的には「ラショーたちの方が面白いかもしれない」とも思ってしまいました。

理由としては「新宿プライベート・アイズ」が「ファンがかつて見た世界の完全再現」だったのに対し「史上最香のミッション」は「ファンがかつて見た世界の再現と、今まで見たことがなかった世界の表現」だったからです。

出典:imdb

その理由が、なんと「女好きの冴羽獠が、惚れ薬で男に惚れる」というトンデモ展開。一見、悪ふざけとも取れるストーリーですが、シティーハンターという原作の懐の広さからか、冴羽獠の新しいキャラクター性として受け入れることができました(北条司氏もキャッチコピーでこの展開を絶賛しています)。

出典:imdb

また上のような人物が登場したり、バーのお酒の名前が「ら○ま1/2」だったりと、日本の漫画のパロディやも多く登場。最後まで「これからどうなるのか」という予想ができない作品でした。おふざけな要素が多い一方で、フランスの友人やそして自分を育ててくれた日本への熱いラブレター。それが「史上最香のミッション」だったのです。

ヒットの結論:フランス人の純粋な想いが、日本のファンの夢を取り戻してくれた

「プライベート・アイズ」は「シティーハンターだからこういう展開になるかな。おお、やはりか」という満足感だったのに対し、「史上最香のミッション」は「こういう展開できたか。いや、でもシティーハンターなら違和感ないか!」という満足感。原作を知り尽くしたファンだからこそ、ファンの予想の更に上を描写できたのです。

無論「やはり本来のスタッフによる原作の完全再現の方がいい」という人も多いことでしょう。ただ「原作を大切に再現するだけでなく、展開をファンに予想させない」というラショーの愛は確かに強かった。そして、最後はお約束であるこの曲を流し「史上最香のミッション」は幕を閉じます。

本作を「子ども時代に戻してくれる、一番自慢できる作品」だと語るラショー監督。

①「原作ファンとしての想い
②「原作ファンを納得させる再現性
③「原作ファンの予想を超え、唸らせる展開

彼の3つの強い純粋な想いが、外国人による実写映画化という高いハードルを乗り越え、日本の私たちの胸を射抜いたのだと思います。

出典:cinemacafe.net

幼い頃になりたかったヒーローになる。

僕らが一度は夢見て、そして大人になる中で傷つき、忘れた夢。それを見せてくれたラショー監督へ、日本のファンとして最大の賛辞を送ろうと思います。ラショー、あんた最香、いや最高だよ!!Get wild and tough!

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