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「ターミネーター:ニュー・フェイト」は、28年の『I’ll be back』を溶解炉へ沈める鎮魂歌

ハマダヒデユキ ハマダヒデユキ


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ダダンダダン! ダダンダダン!

ダダ〜ダダ〜

ダダンダダン! ダダンダダン!

燃え盛る馬の遊具達、機械仕掛けの赤い眼光の髑髏、サングラスをした革ジャンのアーノルド・シュワルツェネッガー。ファンでなくても、これらの単語ですぐに連想する映画があるはずです。



出典:IMDb

ターミネーター」シリーズ。これまで製作された5作品の中でも第2作「ターミネーター2」(91、以下T2)はアカデミー賞やサターン賞、MTVムービーアワードなどを受賞した最高傑作と言われています。さてそんなシリーズ6作目「ターミネーター:ニュー・フェイト」が公開され記事を書く事になったわけですが、そのキャッチコピーは衝撃的なものでした。



出典:映画.com

なんと過去公開された「T3」〜「T5(正式タイトル:新起動/ジェニシス)」をなかった事にし、本作こそが「T2」の正統な続編としてシリーズを再スタートするというのです。「T2」以降、出演していなかったサラ・コナー役のリンダ・ハミルトンや本来の監督であるジェームズ・キャメロンの復帰もその理由でした。

しかし、それでもなぜこれまで28年間の続編を作ってきたのに、それをなかったことにしたいのか。正当な続編とは一体何を意味するのか。その謎を解きたいなと思う一方で、ある事実に頭を抱えました。なぜなら……僕はターミネーターシリーズを未だまともに見た事のない、いわば

ターミネーター処女だったからです……!

(なぜ書く事になったかはLINE編集後記を参照)

動画サイトで名シーンまとめを多少見て「I’ll be back」のセリフを知ってる程度のにわかが、長年多くの人に愛されてきた名作を語ってよいものか、ひじょ〜〜〜に悩みました。

というわけでまずは過去のT1~T2を鑑賞してから「ニュー・フェイト」を鑑賞。そこからT3~T5鑑賞後に再度「ニュー・フェイト」を鑑賞する作戦を決行。その上で出た結論、それは「このシリーズは本作で終着点にするべき」でした。(以下ネタバレ注意です!)

過去作を全否定するオープニング
新しい時代の、新しい主人公が意味するもの

本編の冒頭は、T-1000の脅威を退けた「T2」直後の出来事から。平和に暮らしていたサラとジョンの前に現れたのは、新たに未来から送り込まれたT-800でした。そして彼の手によってジョンが殺害されるという衝撃のシーンから幕を開けます。

それから22年後、未来から転送されたターミネーターREV-9とグレースという女性サイボーグが、メキシコで家族と暮らす若き女性のダニー・ラモスの前に姿を現します。ダニーの家族を抹殺したREV-9の魔の手からダニーを守る使命を果たそうとするグレースの前に、年老いたサラ・コナーが姿を現し、いきなりロケットランチャーをREV-9にぶっ放します。



出典:映画.com

グレースの話から、スカイネットに支配された未来が回避されたことを知るサラ。しかしそれでも「審判の日」は訪れてしまい、新人工知能「リージョン」によって支配された別の未来が待っていることも同時に判明してしまうのです。グレースとダニーの関係を、かつての自分たちに重ねるサラ。



出典:映画.com

そんな3人をかつてのT-1000のように執拗にREV-9は追跡してきます。状況打開のため「for John(ジョンのために)」とターミネーターの情報をサラに送り続ける謎の人物に、3人は接触を図ることに。そこに待っていたのは、なんと愛する息子を銃殺したT-800。彼はこの22年間、人間として生きてきたのでした……。



出典:映画.com

まず注目すべき点は「T2」ではその可愛らしい容姿で世界中を魅了したジョン・コナーが、冒頭で射殺されたこと。



出典:IMDb

この美少年です。11月16日の「T2」地上波放送でも、日本中の女性陣を見事メロメロにしていました。更に「T4」ではあのクリスチャン・ベールが演じることになる、約束された勝利のイケメンです。



出典:IMDb

男ならぜひ一度は生まれてみたかったこの美しいご尊顔を、本作は開始5分で抹殺します。マジで「T3」以降に親でも殺されたのかというレベルの容赦のなさに、思わずコーラを噴きそうになりました。

それとは対象的だったのが、本作から登場する2人の女性。

出典:IMDb

未来からの戦士・グレースを演じるのは32歳のマッケンジー・デイヴィス。「オデッセイ」や「ブレードランナー2049」にも出演し、今注目を集めている女優です。一方、ダニー・ラモスを演じるのはコロンビア女優ナタリア・レイエス。地元の人気ドラマシリーズ「lady, la vendedora de rosas」で話題を集めている人気の若手だとか。こちらも32歳。今32歳が世界の主役になる時代なのでしょうか? 二人と同じ1987年生まれの僕は勝手にとても鼻が高いです、勝手に。

興味深いのは今回の保護対象であるダニーの立場。当初サラは「T1」での自身の立場である「将来、救世主を生む女」としてダニーがREV-9に追跡されていると思い込んでいました。しかし実際は彼女自身が人工知能「リージョン」と戦う未来の救世主であることが途中から判明します。



出典:IMDb

8月の街クリ映画部講演でも話題になったのですが、今アメリカ映画のヒーローは女性中心に移行しつつあります。来月公開の「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」もルークやアナキンではなく、女性主人公・レイが長きにわたるシリーズの因縁に決着をつけるようです(街クリでの記事、ぜひお楽しみに……!!)男性救世主であったジョンが殺害され、女性であるダニーが新しい救世主になった描写は、まさに時代が変わったことの象徴といえるでしょう。



出典:IMDb

比較的好意的な評価が多い「ターミネーター:ニュー・フェイト」ですが、一方で「新しさが全くない」という低い評価もあります。実際、ジョンが死に女性が救世主になる設定は大きな差別化である一方で

・「T2」と同じT-800と保護対象者の逃走劇

・グレースとダニーの関係が、T-800とジョンの関係に近い

・追跡者REV-9が、無表情・液体金属などあくまで「T2」のT-1000強化版

・T-800の結末も「T2」を連想させるもの

でした。「T2」の正当な続編とはつまりオマージュなのか? と少し疑いそうにもなりましたがその後「T3」以降を鑑賞し「ああ、今回はこれで良かったのだ」と非常に納得しました。

なぜ「正統な続編」を作る必要があったのか? 
葬られし28年という時間

本作が作られた意味を考察するために、まずこのシリーズの原点から見てきたいと思います。



出典:IMDb

本作の生みの親であるジェームズ・キャメロン。彼の初監督した作品「殺人魚フライングキラー」(’81)は、スタッフもスケジュールともにギリギリという最悪の状況で製作された映画でした。しかも完成後「もう用はない」と映画会社から若きキャメロンは解雇を言い渡されてしまうのです。

その事件により無一文になってしまったキャメロン。さらに高熱にうなされ、鬱病も発症してしまうのでした。心身ともにボロボロになった彼が見たのが「金属製の骸骨に襲われる」悪夢だったのです。



出典:IMDb

この悪夢からインスピレーションを感じたキャメロン。「未来から来たターミネーターと、彼に狙われるサラ・コナーとカイル・リースの出会いと別れ」を執筆し映画会社にプレゼンします。

当初、ターミネーター役には別の俳優が内定していましたが、カイル・リース役候補だったアーノルド・シュワルツェネッガーを見た瞬間に彼に主役を委ねたと言います。(ちなみに交代させられた俳優のランス・ヘンリクセンはその決定を「いい映画を作るためなら」と冷静に承諾。感謝したキャメロンは、本作で刑事役、のちの「エイリアン2」でのアンドロイド役を彼のために用意したそうです)



出典:IMDb

そんな紆余曲折を経て生まれた「T1」は、世界的な大ヒットを記録。無一文から一気に有名になったキャメロンでしたが、続編である「T2」の製作は難航を極めることに。多くの要望を受けつつも、権利問題から6年後の1990年まで契約にまで至らなかったのです。さらにこの期待の大きすぎる超大作の制作期間はわずか1年。

しかし前作でキャメロンに惚れたシュワルツェネッガーとリンダ・ハミルトンは、脚本も見ずに契約にサインします。さらにはジョン・コナー役のエドワード・ファーロング、T-1000役のロバート・パトリックも加わり、さらに以前とは比べ物にならない1億円の予算が支払われることに。こうして過密なスケジュールの中、世紀の傑作「T2」は完成を迎えました。



出典:IMDb

無表情で迫る液体金属ターミネーターT-1000の恐怖、ジョンとT-800の友情、それを複雑そうに見つめるサラ。そして悲劇的な未来を変え「I’ll be back」の言葉とともに迎えるラストシーン。「すべてが名シーン」と呼ばれるこの作品の世界興収は、前作の7倍以上を記録します。しかしそれはつまり、より続編のハードルを上げてしまうことにもなりました。



出典:IMDb

それでも続編を望む声は絶えず「T3」が公開されたのが「T2」から12年後の2003年。監督はキャメロンではなく、ジョナサン・モストウが務めることに。リンダ・ハミルトンも出演せず、ジョンが主役でサラ・コナーは他界したことになっていました。

また新たな敵・T-XもT-1000の上位機でありながら恐怖性において勝らず、やはり「T2」を超えたとは言いがたいものでした。さらに物語は「T2」で避けたはずの「審判の日」を迎えてしまい、シリーズは続投することになります。



出典:IMDb

それから6年後に公開された「T4」(’09)では成長したジョン率いる抵抗軍とスカイネットの戦争が描かれています。再び監督が変わった本作で感じたのは「僕たちの観たい世界と作り手の描きたいターミネーターの世界に、隔離が発生している」ということでした。

確かに荒廃した世界でターミネーターと人類が戦う近未来の描写は「T1」からも登場しています。しかし僕たちが観たいのは「迫り来る『未来』の悪夢に立ち向かう『現在』の人々」なのだと。マトリックスのような近未来の戦争ではなく、あくまで現在を生きる「切ない物語」こそが、僕たちの求める「ターミネーター」の姿。そしてそれは「T2」ですでに完成しており、それを超えるものはいくらCGを駆使しても作れないのだと。



出典:IMDb

その後、ジョンの物語をリセットし、カイルとサラの物語から再スタートした「T5」(’15)。本作から再度物語を始めたものの、この計画も結局頓挫します。一つ一つの作品に、確かに魅力はありました。けれど「T1」「T2」にあった切なさは「タイタニック」(’97)や「アバター」(’09)を作ったキャメロンだから生まれたもの。



出典:IMDb

何より生死をさまようキャメロンの悪夢から生まれたのが「ターミネーター」であり、いくら努力しても他のクリエイターでは決して再現できないのだと実感せざるを得ませんした。

愛されたからこそ。T-800とコナー親子の物語は、
永遠に沈めなければならない。

こうして再びキャメロンの手に戻り、「デッドプール」のティム・ミラーと制作された「ニュー・フェイト」は近未来の担い手ジョン・コナーを抹殺。代わりに過去に取り憑かれ、現代をさまようサラ・コナーをリンダ・ハミルトン自身が演じています。愛する家族を失い戦う彼女の姿には、確かに「T1」「T2」にあった「切なさ」が感じられました。



出典:IMDb

そしてもう1人の切ない存在が、T-800。「T1」では追跡者、「T2」ではジョンの保護者、そして本作ではかつての罪滅ぼしのため家族と別離する父親(!)と回を追うごとにより切ない存在へと変貌しています。

思えば「T2」で溶解炉へ沈んだ後も、この28年間、何度も彼は「I’ll be back」を強いられたわけで。それほどまでに「T2」のラストシーンは観る人々の心をつかみ、そして彼との再会を羨望させるものだったのです。



出典:IMDb

しかし、それから幾度も帰ってきた彼に、作り手も観客も満足することができませんでした。何度新しいT-800と「ターミネーター」の物語を用意しても1991年の「T2」を超えるものにならなかった。あの時の空気、あの時のメンバー以上のターミネーターが生まれないことを認められなかった。それが、この28年という歳月だったのではないでしょうか。

思えば僕が「ターミネーター処女」だった理由も、新作がいくら出ても「ターミネーター2を今回も超えなかった」という評判を聞き、見送ってきたのが原因だったと思います。「4歳の時に話題だったらしい映画の続編が出たけれど、また超えられなかったらしい」……そんな認識だったと。

だからこそ本作の構造が「T2」によく似ており、全く目新しさがないということが重要になってくるのです。

「ターミネーター2の構造であの切なさを蘇らせ、T-800とコナー親子に再会したい想いを今度こそ沈める」

どんなに新しさを求めても超えられなかった「T2」という伝説。だからこそ、その続編を望む声を思い出とともに溶鉱炉へと深く沈めるのが「ターミネーター:ニュー・フェイト」の役目だったと僕は考えています。



出典:IMDb

今後もダニーやグレースを主役にした続編が予想されている本作。新しいターミネーターシリーズがこれからも誕生することには、一切異を唱えません。ただ、まだこの世界に入ったばかりの新参者が言うのもおこがましいのですが、「T2」の続きの終着点はこの作品にしてほしい。

ジェームズ・キャメロン、リンダ・ハミルトン、そしてアーノルド・シュワルツェネッガー。彼らが生み出した切なく多くの人に愛された伝説。それが二度と「I’ll be back」しないことを祈り、敬意を持って見送りたいと思います。


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[イラスト]ダニエル

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