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「イット」完結編が公開されたので、ピエロの映画ばかり大ヒットする理由を完全解説します。

橋口幸生 橋口幸生


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公開以来、ランキング1位に君臨し続けていた「ジョーカー」を引きずり降ろしたのが、「IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。」だ。(しかし邦題、いくらなんでも長過ぎないですかね……)

11月5日の国内映画ランキングでは初登場1位を記録。11月18日のランキングでも3位を維持するヒット作になっている。



出典:IMDb



出典:IMDb

同時期に2本もピエロの映画が公開され、どちらも大ヒットするというのは、ただ事ではない。しかも両作品ともにピエロを本来の陽気なキャラではなく、悪のシンボルとして扱っている。

「イット」=ピエロのペニーワイズと思いがちだけど、厳密には違う。原作小説によると「イット」の正体は異次元からやってきた存在で、姿形を自由に変える能力がある。そして「人が内心恐れているもの」の姿になる。

ある時は、死んだ家族になる。またある時は、全身瘡だらけの病人になる。中でもお気に入りの姿で、本体のようになっているのが「ペニーワイズ」だ。だから決まった名前は無く、「イット=それ」と呼ばれる。

どんな怖いものにも変身できる存在の代表的なフォームが「ピエロ」というのも凄い話だ。最近のピエロは、一見優しいけど実は怖い……とかではなく、ふつうに恐怖の化身になってしまった感がある。実際、世界ピエロ協会は「ピエロのイメージを台無しにした」とスティーブン・キングを非難している。(キングはTwitterで「ごめん」と謝罪)

しかし、「イット」がピエロを怖い存在にしたわけではない。

なぜ人々はピエロを怖いと思うようになったのか?

なぜピエロの映画ばかり大ヒットするのか?

そもそもなぜ1年に2本もピエロの映画が作られるのか?

そんな疑問に対する答えを、本稿では明らかにしていきたい。

ピエロや道化のルーツは、古代エジプトにまで遡れるという。ピエロを意味する“clown”という英単語が初めて確認されるのは1500年代。シェークスピアが自分の劇の愚かなキャラクターを説明するときに用いている。19世紀には、白塗りのメイク、カツラ、ダボダボの服といった現在私たちがイメージするピエロが登場した。そのルックスは約150年間、ほとんど変化していない(出典『TIME』)。

ノックス大学のフランク・T・マカンドリュー教授は、なぜ人々がピエロを怖がるのかを研究している。フランク教授によると「人は両義的なものや、予測できないものに恐怖を感じる」のだそうだ(出典『TIME』)。ピエロは笑ったメイクをしているけど、内心、何を考えているのか分からない。だから怖い。ピエロという存在そのものが、本質的に恐怖を内包している、というわけだ。

しかし、現代人にとって怖いピエロの直接的なソースになったのは、ジョン・ウェイン・ゲイシーと考えて間違いない。1970年代のアメリカで33人を殺害したシリアル・キラーだ。



出典:BRITANNICA

ゲイシーはビジネスで成功を収め、地元では名士として扱われていた。さらに子ども達のためにピエロ姿で福祉施設を訪問するという一面もあった。



出典:LISTVERSE

このゲイシーのピエロ・メイクは「ジョーカー」でも再現されていた。



出典:SCREENGEEK

ゲイシーが逮捕されたのは1978年。それから3年後の1981年、アメリカで「おばけピエロ騒動」が起きている。始まりは同年8月21日、サウス・キャロライナ州グリーンヴィルで

「白塗りメイクのピエロが、子ども達を森に連れ込もうとしている」

……という通報が警察に寄せられたことによる。その後も「ピエロがお金を渡して、家に連れ込もうとしてきた」「ゴミ捨て場の陰から、ピエロが手をふってきた」といった、主に子ども達からの報告が相次いだ。

ピエロの目撃情報は、他の地域にも広がりはじめる。コロンバスでは「スクールバス乗り場に向かう途中、ナイフを持ったピエロに追いかけられた」「ナタを持ったピエロに森に連れ去られそうになった」など、内容も過激さを増していった。(出典『vocativ.com』)

結論を書けば、このピエロ騒動はデマだ。目撃情報には何ひとつ証拠が無く、ピエロの写真1枚撮られていない。子ども達の噂話から始まり、心配性の両親がそれに乗ることで広まった都市伝説と言っていい。

「おばけピエロ騒動」から5年後の1986年に、スティーブン・キングが原作小説「イット」を発表している。1990年には最初の映画版が発表された。(2017年の「イット」の舞台は、「おばけピエロ騒動」から7年後の1988年に設定されている)

「イット」原作小説の発表から27年後、ペニーワイズと全く同じ周期で、別の「おばけピエロ」が登場する。イギリスのノーザンプトンで、風船を持った禿頭のピエロの目撃情報が相次いだのだ。しかも今回は写真がたくさん残っている。



出典:MIRROR



出典:MIRROR



出典:MIRROR

地元はパニックになり、Twitterでは#northamptonclownがトレンド入りした。そして何と、当のピエロ本人がFacebookページを開設(現在は閉鎖)。「オレは実在するよ。でもナイフなんて持ってない」とアピールするなど、都市伝説から徐々にズンドコ騒動にシフト。結局「ノーザンプトン・クラウン」の正体は地元の22歳の映像制作者だったというオチがつく。

ソーシャルメディアで拡散するピエロのことを、研究者のベンジャミン・ラザフォード氏は「ストーカー・クラウン」と呼んでいる(出典『Bad Clowns』)。「ノーザンプトン・クラウン」以降、ピエロの扮装をして人々を驚かし、その映像を拡散するストーカー・クラウンがたくさん登場した。

ラザフォード氏はこう語る。

「ストーカー・クラウンはソーシャルメディアの申し子だ。ソーシャルメディアで写真や噂がシェアされたから、ノーザンプトン・クラウンはバズったんだ。そうでなければ、ピエロ姿で地元をうろつくただのバカだ」

そして2016年、アメリカでまたしても「おばけピエロ騒動」が起きる。発端は1981年と同じサウス・キャロライナ。「ピエロが子ども達を森に連れ去ろうとしている」という目撃情報も全く同じだ。騒動はすぐに全米に広がった。当時のTwitterを見ていると「ピエロ騒動はジョークじゃない! 拡散希望!」などというツイートが2.3万もリツイートされているのが確認できる。

ちなみにここで拡散されているピエロの写真は、フェイクであることが確定している。NYをはじめ全米各地の警察が「ピエロの目撃情報の信頼性は低い」と公式にコメントした。ホワイトハウスの報道官まで「大統領にこの問題が報告されているかどうかは知らない。しかし、地方自治体にとって深刻な事態であることは明白だ」と声明を出した。

しかし、騒動は収まらない。ペンシルバニア州立大学の大学生は自警団を結成し、「ピエロ狩り」を始めた。ピエロの格好をすることを禁じる地域まで出てきた。

2017年の「イット」公開までに、こうした背景があったことを知ると、見え方が変わってくる。

現代社会の闇をとらえたクリエイターの興味をそそるテーマであると同時に、映画会社も企画にGOを出しやすいのだろう。

しかし、なぜアメリカの人々は、実在もしないピエロの影に怯えるのか?

アンディ・ムスキエティ監督の言葉に、そのヒントがある。



出典:THE RIVER

──なぜ、今この時代にこの作品を撮ったのですか? この作品を通じて伝えたいことはなんですか?

真面目な話をしますよ。僕たちは今、恐怖が道具として使われている時代に生きています。僕たちのリーダーは、僕たちの政府は、僕たちを分断している。互いの対立を煽っている。“それ”は、僕たちを分断しようとする、現実世界のモンスターの象徴です。だから、僕たちにも関係がある映画です。

『IT/イット』は、今を生きる僕たちにとって重要なテーマがあるんです。「クソ野郎を信じるな」というメッセージです。みんなで団結して、嘘や分断に立ち向かえと。「みんな違う人たちだ」とか言う奴らに立ち向かえと。恐怖に屈してはいけない。恐怖に立ち向かわなくてはならない。恐怖は、僕たちに悪いように利用されているからです。話しすぎてしまったかな。これくらいにしておきます。
(出典『THE RIVER』)

名前こそ出していないが、ムスキエティ監督は明白にトランプ大統領や彼を支持するオルタナ右翼勢を批判している。

彼らはしばしば真偽不明、もしくは明らかにウソの情報を拡散し、社会を分断する。ウソはソーシャルメディアと相性が良く、真実より拡散しやすい。おばけピエロの目撃談と同じように、あっという間に全米に広がる。

これはアメリカに限った話ではない。今、世界中で指導的地位にいる人が堂々とウソをつき、拡散させている。だからこそ「イット」が世界中で大ヒットしているのだろう。

「イット」は、アメリカの小さな田舎町で起きたファンタジーに見せかけているが、極めて政治的な映画なのだ。

僕たちの周りにも、「おばけピエロ」はたくさんいる。遭遇した場合、どうすればいいのか? 「イット」は答えを出している。

ウソをウソと認める。勇気を出して立ち向かう。難しいことは何もない。

ペニーワイズの言葉を借りて言えば、

「大人になる」

それだけでいいのだ。


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[イラスト]ダニエル

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