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「象は静かに座っている」魂気は天に帰し、形魄は地に帰す。

街クリ編集部 街クリ編集部


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2017年10月12日、中国の若き映画監督が自ら命を絶った。世界を熱狂させた鬼才の『死』は映画を神話で終わらせてしまうのか……

そんなはずはない!!
どうも曽川慎司(そがわしんじ)と申します。38歳です。広島の広告代理店に勤めております。

2019年11月2日(土)渋谷を皮切りに日本での上映が始まった待望の中国映画

「象は静かに座っている」

監督の名は、フー・ボー(胡波)1988年、山東省生まれ。

鬼才を追体験すべく広島から東京へ向かった。

新幹線でだいたい234分。
「象は静かに座っている」の上映時間も

魂の234分。

行き場のない悲しみを抱えた孤独な“4人の運命”が交差する。どん底から希望を目指すある1日の物語。

時代の流れとともに炭鉱業が廃れた中国の小さな田舎町。少年ブーは友達をかばい、不良の同級生をあやまって階段から突き落としてしまう。不良の兄は町で幅を利かせているチェンだった。チェン達に追われ町を出ようとするブーは、友達のリン、近所の老人ジンをも巻き込んでいく。親友を自殺に追い込んでしまい自責の念のかられているチェン、家に居場所がなく教師と関係を持つことで拠り所をみつけるリン、娘夫婦に邪険にされながらも老人ホーム行きを拒むジン。それぞれに事情を抱えながらも、遠く2300km先の果て満州里にいる、一日中ただ座り続けているという奇妙な象の存在にわずかな希望を抱き4人は歩き出す。
(出典:「象は静かに座っている」オフィシャルサイトより)

あらすじを読むだけで期待が高まる。

それにしてもフー・ボーはなぜ自ら命を絶ってしまったのか。真相はいろいろと語られているが定かではない。

中国における「死」のイメージとは?

古来より中国では「死」の定義と「死後」のイメージについて、人という存在は「魂-こん」と「魄-はく」という二つの異なる要素からなると考えられている。「魂-こん」は「魂気」という熟語からも察せられるように、どちらかといえば精神に対応し、「魄-はく」は「形魄」という熟語からも察せられるように、どちらかといえば肉体に対応する。

人が生きている時には、魂と魄がしかるべく結びついているが、両者の繋がりが断ち切れてしまうことによって人に死が訪れ、魂は天へ漂い去り、魄は地へ沈み去るとされた、言い換えれば、人は死によって「肉体」を失っても「精神」は、ただちに滅びることはないと考えられてきた。

死後における「精神」について、魂の姿になって浮遊する死者は、例外なく“鬼-キ”として生者たちに影響を及ぼす、中国文化における“鬼-キ”は、日本の「おに」とはまったく別物である、むしろ日本語でいう「幽霊」に近いものであり、死者たちの一部が鬼と称されて、恐怖の対象となるのである。

死者=鬼と捉えるのなら、祖先も鬼の一群となる。神々もその多くは人が死後に神として祀られるようになった者たちである。祖先も神々の多くも、実は鬼から変化した存在として中国人の信仰世界に位置づけられる。

人は誰でも死ぬと鬼にならなければならない、そして生者から定期的な祭祀を受けることが出来た者は一族の祖先という地位を得ることが出来る。
(出典:『中国文化事典』 中国文化事典編集委員会 編より)

「魂」と「魄」が分離し「鬼」となり……

フー・ボーにとって死後の世界はどのように映っているのか

公開前の監督の「死」は本当に悲しく残念だ。

「死」という事象が映画を「神格化」させてしまう恐れもあるが、純粋に映画というエンターテインメントを楽しみたいと思った。

まず4時間にも及ぶ長尺映画に挑むべく作戦を立てた。
トイレを我慢できるか自信が無いので2日間続けてチケットを取る。やむを得ずトイレに立っても、2日目があると安心できる!という算段だ。

「象は静かに座っている」の舞台は、中華人民共和国。
1949年10月1日、新政権の主席となった毛沢東により建国が高々と宣言された。

国土の広さは日本の約25倍。東京と大阪の生態の違いなど比べものにならない程の果てしない距離感が存在するのだろう。

中国には政府が直接管轄する行政区分があり、

省・直轄市・自治区・特別行政区から成る。

この記事を書くために中国について調べていたが「中国には全何省あるんだ?」という初歩的なこともよく知らないくらい中国には全く無知だ。

早速調べてみると不思議な事実に至った。


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wikipediaより転載

文献によって行政区分の数字が違う

文献A:23省・4直轄・5自治区・2特別行政区=34区画

文献B:22省・4直轄・5自治区・2特別行政区=33区画

文献C:22省・4直轄・5自治区=31区画

省が22と23があるのはなぜか?特別行政区の2が入っていない文献もあるようだ。一体どういうことなのか?疑問に思い調べてみた。

どうやら周辺諸国で見解の違いがあるようだ。

22と23省があるのは「台湾」を省と捉えるか否か。特別行政区の「香港」「マカオ」の2区画を中国と捉えるか否か。

周辺諸国の思惑が大国を取り巻いている。

中国政府は23省・4直轄・5自治区・2特別行政区=34区画フルコンボを主張している。

本題に入ろう……
『象は静かに座っている』の舞台は中国の北部に位置する河北省というところ。


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wikipediaより転載 ※地図は中国全土(黄)と河北省(赤)

小さく見えるが東京都から山口県くらいの広さがある。


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Google マップより転載

北京と天津を包み込み、西に山西省、北に内モンゴル自治区と遼寧省、南に河南省、山東省と接し、東は黄海に接する農業省。

省都は石家荘市。

石家荘市の中心部から西へ離れた山脈の谷間に大規模な炭鉱が立地しその周辺地区を井陘(せいけい)県という。

河北省石家荘市井陘県がこの映画の舞台である。


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https://zhuanlan.zhihu.com/p/40326984より転載

いいかげん本題に入ろう……
脱線しすぎたのであらすじをおさらい。。

時代の流れとともに炭鉱業が廃れた中国の小さな田舎町。少年ブーは友達をかばい、不良の同級生をあやまって階段から突き落としてしまう。不良の兄は町で幅を利かせているチェンだった。チェン達に追われ町を出ようとするブーは、友達のリン、近所の老人ジンをも巻き込んでいく。親友を自殺に追い込んでしまい自責の念のかられているチェン、家に居場所がなく教師と関係を持つことで拠り所をみつけるリン、娘夫婦に邪険にされながらも老人ホーム行きを拒むジン。それぞれに事情を抱えながらも、遠く2300km先の果て満州里にいる、一日中ただ座り続けているという奇妙な象の存在にわずかな希望を抱き4人は歩き出す
。「象は静かに座っている」オフィシャルサイトより

友達をかばい不良の同級生シュアイをあやまって階段から突き落としてしまう。

少年ブー


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“公式フライヤーより転載”

シュアイの兄で町のヤクザ。親友を自殺に追い込み自責の念にかられる。

青年チェン


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家に居場所がなく教師と関係を持つことで拠り所をみつける。

少女リン


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娘夫婦に邪険にされながらも老人ホーム行きを拒む。

老人ジン


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行き場のない悲しみを抱えた孤独な“4人の運命”が交差する。

生きることに疲弊しながらも、希望の光が差し込むその瞬間をただ待っていた。

運命に引き寄せられ4人はある場所へ向かう。

井陘県から北へ2200km 満州里の動物園にいる、1日中ただ座り続けているという奇妙な象の存在が、くすぶり続けていた4人の心を魅了する。


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Google マップより転載

満州里とはどんなところ?

満州里市は中国大陸の北の僻地、内モンゴル自治区。モンゴル国、ロシアとの国境に面する異国情緒溢れる街!


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wikipediaより転載

なんでこんな僻地を選んだのか?


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wikipediaより転載

自由や解放を求めるのなら、首都・北京など近場の都会に活路を見出す方法もあったろう。しかし彼らが目指すのは遠く満州里市。

特別行政区の「香港」や「マカオ」でもない。

北の僻地、内モンゴル自治区 満州里。
中国が自国の省級区画だと主張する「台湾」でも良さそうだが……台湾と言えば「象は静かに座っている」のオマージュ作品として名前の上がる『牯嶺街少年殺人事件』を生み出した場所


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「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人 事件」公式サイトより転載

まぁ「台湾」にも興味が無かったのだろう。

檻の中の猿との対比が皮肉めいていた。
満州里に希望を感じる所以は、中国政府による政治的支配の強弱もあるのか?政府の締め付けが厳しそうな直轄市〈北京市、上海市、重慶市、天津市〉には希望は感じないのか。

また少年少女と老人には入出国にハードルのある香港・マカオ・台湾にも魅力はないのかもしれない。他の21省も河北省と似たようなものだ。

残されるは5つの自治区。

新疆ウイグル自治区、内モンゴル自治区、広西チワン族自治区、寧夏回族自治区、チベット自治区の5つ。自治区とは少数民族が主体となって管理する地域である。中国の憲法のほかに、民族区域自治法(1984年10月施行)という法律により管理されている。

民族の概念はスターリンの説にもとづいている。それによると、民族は「歴史的に構成された、言語、地域、経済生活、そして文化の共通性の中にあらわれる心理状態の、確固たる共同体」である。

5つの自治区でいちばん近代文化が盛んな場所

それが内モンゴル自治区なのだろう。超大国について何か書こうとすると一次資料をあたるだけでも相当大変な作業になる。図書館にも行って調べてみたが、

さっぱりわからん。


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wikipediaより転載

モンゴルといえば多くの日本人は、大相撲の朝青龍や白鵬の母国をイメージする。モンゴル国も内モンゴル自治区ももともとは地理的にも政治的にも、そして文明的にも一つにまとまった存在だった。ゴビ砂漠を境にその南をウルブ・モンゴル、北をアル・モンゴルとモンゴル人はそう表現してきた。「ウルブ」は日向で「アル」は日陰で、日本の山陽と山陰の概念にも近い。

「内モンゴル」「外モンゴル」という呼び名は、過去の差別的思想から生まれた言葉で、その後の政治的な分断施策に利用される運命を辿る。

知れば知るほど世界は狭くなる。
あれこれ深く考えて行動するのもバカバカしいと感じたのか。

とにかく今よりも希望の光を感じられる拠り所。
それが満州里なのだろう。しかし目指すべく道が見えたところで、そう簡単には辿り着けないのが中国という国の果てしない広さと恐ろしさでもある。少年ブーがやっとの思いで捻出した切符代も、騙されて偽の切符をつかまされてしまう。

「どん詰まり」の状況に追い込まれていく4人。
色彩を拒むように薄墨色に包まれた空間で、人々の口癖は「自分は悪くない」そうでも言わないと生き残れないのかもしれない。広大な国土の中の極小の家族内でも、痛々しい人間関係に満ちている。息子であろうと娘てあろうと親であろうと、容赦ない攻撃が繰り返される。

四者四様、とにかく踏んだり蹴ったりで、ぽっかり空いた穴から抜け出せない。どん底の底の底。悲しくて胸が苦しくなる。

仄暗い闇の底に微かな光が……

瀋陽市まで行けるバスがある!!


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Google マップより転載

しかし疲れ果てて帰ろうとする老人ジン

そこで交わされる言葉……
ぜひ劇場で聞いて欲しい。

魂の叫びを。
その先に希望の光はあるのか?


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© Ms. CHU Yanhua and Mr. HU Yongzhen

僕はなぜか老人ジンに感情移入してしまった。


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© Ms. CHU Yanhua and Mr. HU Yongzhen

リー・ツォンシーという方だったのか。プロフィールを見ていて発見した!中国の名監督チアン・ウェン作品のプロデュースをしているのか!!へぇー繋がっているもんだなぁ素晴らしい作品は。


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“公式パンフレットより転載”

しかも僕も大好きな「鬼が来た!」にも関わっているのか。


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すごい方なんだなぁとDVDなどを引っ張り出して見ていると

あれ??このワンという役の人。もしかして老人ジンさんか?


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“DVDブックレットより転載”

ジンさんなのか?


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“DVDブックレットより転載”

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ジンさんでいいのか?
日本兵にいじめられて、荷物を持たされ立たされたまま「動くな!」と命令されて静止しているあの人。香川照之演じる花屋にブチ切れたあの人。

なかなか渋くてかっこいい。
フー・ボーもきっと「鬼が来た!」は観ていただろう。


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“DVDブックレットより転載”

この国では、叫んでも、喚いても届かない……それでも魂は叫び続ける。その先に光が差し込むと信じて。


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中国が抱える様々な課題に比べると、僕が普段感じている閉塞感なんて大した問題じゃないのかも知れない。

でも確かに僕は今、拠り所を求めている。

どこにいっても一緒だと言われようとも、

行ってみたい!!!
魂の234分。一度も席を立つことなく2日間楽しめた。まさに傑作!!

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