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「風水師」史上初!?クラシカルな時代劇で描くのは“お墓”の陣取りバトル

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「やられたらやり返す。倍返しだ!」

ドラマ「半沢直樹」の決めゼリフ。なつかしいですね~。でも、現実の世界で半沢のように正論を吐けるかというと、まぁ、ほとんどの場合はムリですよね。だって即、クビじゃん!

だけど世の中には、空気を読まずに正論を吐く男がいるんです。映画「風水師 王の運命を決めた男」の主人公パク・ジェサンがそれです。


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出典:映画.com

「風水師」は、たぶん史上初の“お墓の陣取り合戦”を描いた韓国の映画です。なんだかコメディみたいですが、とっても正統派な時代劇です。

なんでお墓!?

というもっともな疑問を、これから解き明かしてみようと思います。

そしてもうひとつ。韓国の映画評論家にも「あのシーン、いるの?」と言われてしまうくらい、エンディングがトートツなんですよね。

あれは、どういうこと!?

という監督の思惑を考えていて、気がつきました。

あれは、監督なりの「倍返し」なんではなかろうか。

そう感じざるをえない、映画の背景についても書いていきます。ラストシーンに触れているので、気になる方は映画鑑賞後にご覧ください。

時代劇の中の「ファクション」とは

映画の舞台となるのは19世紀の中頃、朝鮮王朝の末期です。この頃は、王の力が弱まり、摂政役のキム一族の力が強まっていました。
・<興宣君>という王族がいた
・<興宣君>は、風水師のアドバイスを受けて、父の墓を移した
映画のベースとなるのは、このふたつの歴史的事実だけ。そこに天才風水師のパク・ジェサンというフィクションの人物が加わっていました。


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出典:映画.com

こうしたファクトとフィクションを組み合わせた手法は「ファクション時代劇」と呼ばれ、ドラマや映画の新ジャンルとして確立しているそう。

考えてみれば、「この世界の片隅に」はこのタイプですよね。8月6日に広島で何が起きるか知っているからこそ、映画を観ているわたしたちは「行ったらあかん~!!!」とハラハラする。

マンガなら『JIN-仁』が「ファクション時代劇」といえそうです。幕末にタイムトラベルした現代の医師が、坂本龍馬の暗殺を防ぐことができるのかがカギでしたよね。

では、「風水師」のハラハラポイントは何かというと、<興宣君>という人物にあります。


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彼は王族といっても末端も末端。なのに自分の息子を第26代国王にすることに成功し、「人生バラ色! こっからブイブイいわせてもらいます!」と調子に乗っていたら嫁に追放されてしまう、という権力者の栄枯盛衰を味わった人なんです。

映画「風水師」は、「朝鮮王朝を衰退させた人物」といわれる<興宣君>が、権力の座に就く前の物語です。実際、映画では王族としてまったく敬われることがなく、物ごいのような生活をしていました。演じているのは、キレイ目イケメン俳優のチソン。


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出典:映画.com

没落した王族にしてはちょっとキレイすぎる気もしますが、人々に足蹴にされながらも、「生きる」ことを優先する姿を見事に演じています。彼の中にたまっていた恨みが狂気として爆発するシーンは、一番の見どころです。

そして「お主も悪よのう……グフッグフッ」というセリフが似合いそうな分かりやすい悪役・キム・ジャグンは、ベテラン俳優のペク・ユンシクが演じています。


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出典:KMDb

このふたりは実在の人物で、憲宗(実在の王の名前)の臣下でした。そしてフィクション部分である天才風水師・パク・ジェサンは、チョ・スンウが演じています。


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出典:映画.com

チョ・スンウは「インサイダーズ 内部者たち」や「暗殺」などの映画に出演し、“彼自身がひとつのジャンル”と呼ばれるほど、演技力が高く評価されています。特別出演とはいえ重要な役を演じた「暗殺」は、韓国で最も権威ある映画賞である「青龍映画賞」の最優秀作品賞を受賞しています。


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出典:映画.com

「風水師」のパク・ヒゴン監督とは「パーフェクト・ゲーム」に続いて二度目のタッグとなります。

チョ・スンウ演じる風水師が見定める天下の大吉墓地は、本当に存在するのか!? 映画「風水師」は、お墓の場所を巡って、王族・興宣君と高級官僚・キム・ジャグンがバトルを繰り広げるという「ファクション時代劇」映画なのです。

風水って玄関に龍を置いとけばいいんじゃないの!?

西には黄色! 玄関には八角形の鏡! ……と、日本でもインテリア風水は大流行しましたよね。

玄関に龍、飾ってませんでしたか?

我が家には、サケをくわえたクマがいましたよ。なんて話はさておき、日本で広まった風水は、中国や韓国に伝わるものと、若干違いがあるそうです。

風水とは、家や墓や都市をつくるときに、大地を流れる龍脈に基づいて、場所の吉凶を判断する術のこと。人間の身体に血管と20の気の通路(経絡)があるように、大地にも生気の流れる道があります。その生気の脈が「龍脈」、気が集中しているツボのうち、特によい場所を「明堂」といいます。映画の原題は、これです。


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出典:KMDb 画像右の縦書きは「明堂」、中央の横書きは「運命を変える地を知りたいか?」

風水には、陽宅(家相:生きている人の住居)と、陰宅(墓相:死んだ人の住居)という区分があり、古来より重視されたのは陰宅法でした。中国や韓国では儒教の影響もあって、こちらが発展。お墓の位置は、一家の繁栄を左右する、それはそれは大事なものとなったのです。

とはいえ、なんでお墓!?

なんですよね。ご先祖様を大事にすること=現当主のウハウハ=子孫はさらにギャハギャハと考えるようです。映画の中で、墓地の場所を巡って争う理由は、大吉運の墓地が富貴と権力に結びついているから。実際、この闘いの勝者は2代にわたって王を輩出し、もう一方は、廃れる運命を辿っています。

祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
『平家物語』より

この映画は、『平家物語』も真っ青な、権力のはかなさを描いているのです。

謎のエンディングは監督の意地がみせた「倍返し」だ!

「風水師」を監督したパク・ヒゴンは、2010年に公開された「仁寺洞スキャンダル 神の手を持つ男」でデビューしました。日本の水墨画にも多大な影響を与えた幻の名画「碧眼図」を巡って、アート界を牛耳るオーナーに痛烈な復讐を企む男の物語。


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出典:映画.com 神の手を持つ修復家を演じるのはキム・レウォン。

続いて監督したのが、約5時間にも及ぶ実際の野球ゲームを再現した「パーフェクト・ゲーム」です。


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出典:映画.com 右がチョ・スンウ。左はヤン・ドングン。千原せいじではない。

中日ドラゴンズでも活躍した名投手ソン・ドンヨルと、ライバル投手チェ・ドンウォンの伝説の勝負の裏側をリアルに描いています。指先が割れても、瞬間接着剤でくっつけて投げ続ける意地と意地の勝負! なんですが、この試合は引き分けに終わるんです。

パク監督の作品を観ていて、もしかして監督は「窮鼠猫をかむ」ということわざが好きなんでは、と感じました。つまり、虐げられた者の逆襲です。

「風水師」も、復讐がテーマです。
天才風水師パク・ジェサンは、映画の冒頭、空気の読めない発言をしたせいで妻と子どもを失っているのです。復讐したいと思っても、キム・ジャグンに近づく方法がない。そこに現れたのが<興宣君>でした。


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出典:KMDb

王のために、民のために、「人を活かし、世の救いとなる地を探したい」。これが、パク・ジェサンの夢でした。でも、悪役お代官さまと裏切りのヴィランが、風水師そっちのけで闘う展開になってしまうんです。

おい、おい、ちょっと待てよ……!?

「ファクション時代劇」って、結末を史実に合わせなければならないんですよね。これは宿命のようなもの。こうした状況を打開すべく生まれたのが、問題のエンディングではないか、と思えるのです。

権力者の争いから逃れたパク・ジェサン。時は流れて、独立運動家の青年に会うことになります。

(え!? 本当なら、100歳を超えていると思われるんですけど。気の良い場所に住んだおかげ? 風水すごいな……)

おっと、心の声が漏れてしまいました。まぁ、やばめの設定には目をつぶることにして話を続けると、ここで彼は「学校を作りたい」と語る青年に、風水的に良い場所を選び、名前まで付けてあげるのです。

「新興武官学校」と名付けられた学校は、現実にも多くの運動家を育てました。なんと、ミュージカルの題材にもなっています。

これは、映画「暗殺」につながるシーンなのだと思います。

日本統治下時代の満州を舞台にした映画「暗殺」で、チョ・スンウは独立運動家・キム・ウォンボン(実在の人物)を演じています。一緒に活動する同志たちは「北の方にある武官学校」出身と紹介されていました。


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出典:映画.com 主演は「猟奇的な彼女」のチョン・ジヒョン。

キム・ウォンボンという人物は、独立運動家の中でも目立った活躍がなく、これまであまり注目されていなかったそうです。が、この映画でチョ・スンウが演じたキム・ウォンボンがあまりにも上品で、男気があって、悲しみを背負っていたため、再評価されるようになったのだとか。

2010年代中頃から起こった韓国映画界における「日本統治下時代ブーム」の中で、「暗殺」は観客動員数約1300万人というスーパーヒットを記録しました。

「風水師」を「暗殺」の前段の物語とし、チョ・スンウを通してふたつの物語をつなげると、「国を失う」悲しみに満ちている。風水師としての最後のアドバイスは、王朝への最大の「倍返し」だったのではないかと思えてくるのです。

映画を観終わってすぐは、「裏切りのヴィラン、なぜ!?」しか考えられなかったのですが。やられっぱなしではいられなかった監督の意地が詰まったシーンなのかもしれないと考えてようやく、チョ・スンウのやわらかな微笑みの裏にある、とてつもない痛みがみえたように思います。そしていま、静かな感動に包まれているのです。

易学3部作で感じた、占いとの付き合い方

豆好き・チョコ好き・あんこ好きとして、コラムでは毎回「映画の友」をご紹介しています。
今回のお友は、「新米を使ったお餅」です。


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もっちりとした食感のお餅の中には、こしあんとみたらしダレが入っています。甘みと苦味のコントラストがサイコー。

令和と改元された今年は、災害の多い一年でもありました。それでも、こうして新米の恵みをいただけることは天に感謝したい。

天の理(ことわり)を求めることが出発点だった中国発祥の占いは「易学」と呼ばれています。映画「風水師」は、その易学3部作の最終章にあたります。

第1作目はソン・ガンホ主演の「観相師」。人相占いのスペシャリストであるソン・ガンホが、謀反におびえる王を救うべく奮闘するサスペンスです。続いて公開された「ときめきプリンセス婚活記」は、相性占いを扱ったラブコメです。日本映画にも進出したシム・ウンギョンがお姫さまを演じています。そして最後にこの「風水師」。映画自体は独立しているので、どれから観てもOKですよ。

易学3部作は、どれも「天才占い師」が権力闘争に巻き込まれてしまうお話です。これらを製作したジュピターフィルムのチュ・ピルホ社長は、製作意図をこんな風に語っています。

現代人はみな、不安で不確実な人生を送っているため、自分の未来と運命が気になり、何かに依存しようとしています。(中略)(占いは)一種の心理相談、カウンセリングのような役割を持っているのだと思います。
出典:「max movie」

不安で不確実な時代だからこそ、目に見えないものにすがりたい。だって、人間だもの。でも、3つの映画に登場する占い師たちは、天才的な術を持ちながらも、「人間の欲望」をコントロールすることができませんでした。

人生を、運命を占う術はありますが、結果をどう生かすかは受け止める人間次第。せめて、自分の選択を正解にする生き方をしたい。あらためてそのことに気づかせてくれた映画でした。

○ 参考文献
・『朝鮮王朝実録』(ウンジン知識ハウス・韓国語版)
・『韓国映画で学ぶ韓国の社会と歴史』(キネマ旬報ムック)
・『韓国映画100年史――その誕生からグローバル展開まで』(明石書店)
・『一冊でわかる朝鮮の英雄』(ベストセラーズ)
・『平家物語』 (岩波文庫)
・『風水の本―天地を読み解き動かす道教占術の驚異』(学研)
・『実用 正統風水百科』(PHP研究所)


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[イラスト]清澤春香

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