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「天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント」が突き付ける銃口

平野陽子 平野陽子


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この「天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント」は「あなたはなぜクリエイティブなのですか」という質問を、世界で活躍する様々な“クリエイティブ”とみなされる人達に対して、時にアポなしやぶら下がり取材で30年1000人以上アタックして撮影した映像資料的なドキュメンタリー映画だ。

自身もロンドンの名門広告代理店のクリエイティブ部門で働いた経験を持ち、作家としても活躍するドイツのハーマン・ヴァスケ監督が、「自身のアイデアを抽象的なものから実態のあるものに変化させるものは何なのか? 」と考え抜いた果てに辿り着いたのが、冒頭の質問「あなたはなぜクリエイティブなのですか」である。

「107のヒント」とあるのは、この映画のために厳選し収録された人数で、様々な回答が86分に収められている。

デヴィッド・ボウイ、スティーヴン・ホーキング博士や、ダライ・ラマ法王14世、この「街角のクリエイティブ」で大人気のクエンティン・タランティーノ監督も登場する。

そもそもなぜこの作品を見たのか?

私は2005年からインターネットとマーケティングに関わるお仕事に就いているが、「突如現れる天才たちにより、地図や常識が頻繁に塗り替わる状況」でもあるなと凡人的に思うことが多い。
ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズ、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、ジェフ・ベゾスやマーク・ザッカーバーグは世界を大きく変えたし、ジャック・ドーシーのおかげで日本はツイ廃に溢れている。

仕事柄「彼らはなぜ起業し、どう歩んだか」を知る中で、どの分野であっても、天才と呼ばれている人たちが、他の人より秀でた才能“だけ”を持って生まれたわけではなかったのに、その才能を活用し“他の人と違う人生”を選択したこと、その選択に運や環境が作用したことに驚きと感謝をして生きてきた。


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出典元:eiga.com

この映画で、唯一2度インタビューに答えたデヴィッド・ボウイも、音楽の世界で才能を発揮した人の一人だ。

彼らは大金持ちで有名で幸せなだけじゃない。一般的なロールモデルとは違う選択で時に「変わった人」扱いも、痛みを伴う過程も引き受けて生きている人々でもあり、感情を持つ一人の人間だ。だから、タイトルを見て、どう扱うのだろう? と感じ、見ることにした。

107人107通りの回答をする天才たち

ヴァスケ監督は、カメラとスケッチブックを片手に無邪気に「なぜあなたはクリエイティブなのですか」と彼が「クリエイティブな天才」と感じる人達に突然質問する。

天才たちの反応が人それぞれ全く違うことが、この映画のインスタレーション的面白さだ。
同じ「クリエイティブ」という言葉に対しても、各人で捉え方が違うからだ。

自己顕示や表現手段と認識しているアーティストは、自身のスタンスを強化する回答をする。
日本人で取材を受けた人だと、荒木経惟がそうで、彼は性的興奮でクリエイティブを表現した。

一方、その話を聞かされたであろう後に答えた北野武は、真逆のナイーブな回答をする。

性欲とか食欲とか、人間の基本的な欲望をいかに自分の精神で制御するかが勝負だと思う。
(出典:公式パンフレットより)

スタンスを表現するのではなく、欲望の昇華とはどういうものかについて、戸惑いながら語るのだが、玉ねぎのようなカツラに黄色の衣装と、出てきた人の中では圧倒的にコメディアン感が強く、言ってることと見た目のギャップが激しい。

その人が、「どの分野」でクリエイティブに活動し、自分のスタンスを「どう話すか」によってトーンも内容も違うのが、見どころだと感じた。

アーティストやミュージシャン以外の、宗教家や物理学者、政治家の分野の人物も、この質問に回答している。


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出典:eiga.com

ダライ・ラマ14世は

私の考える創造性とは人間の知性から生まれるもの。それには良識と善意が求められる。
(出展:公式パンフレットより)

と最終的には人間の知性がどうあるべきかの姿に関連付けて述べ、
スティーヴン・ホーキング博士は、

科学の探求には創造性が要る。創造性なき科学は古い数式を蒸し返すだけで新しさは生まれない。
(出展:公式パンフレットより)

と新たな発見の原動力の一つとして扱い、
ネルソン・マンデラは、

真摯に解決を望むなら創造的にあるように努め、視点を変えた場合でも問題との関連性を保つ以外に方法はない。
(出展:公式パンフレットより)

と社会課題の解決をあきらめずに多面的に見る行動様式として捉えている。

この質問は「天才への銃口」でもある

映像資料としてこの作品は貴重だと思う一方で、私は途中で少し胸が苦しくなった。
ヴァスケ監督が「あなたはなぜクリエイティブなのですか」と著名人に会えた喜び交じりで聞くテンションに比べ、質問をされた人は一瞬顔を曇らせたり、答えるのに別タイミングを指定したりする。

デヴィッド・ボウイの初回のインタビューは、こんなだ。語るつもりはあるが、指定の場所で、目を合わせないアングルで答えることにしている。


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出典:シネ・リーブル梅田

唐突なのももちろんだが、彼らの反応が一瞬堅くなるのは、「他人と違うクリエイティブな道を選び続けるのは、なかなかハードな人生」であることも起因している。

それは、北野唯我さんの『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』が非常に的確に捉えている。


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出典:Amazon

この本は「どうして、人間の創造性は、奪われてしまうのだろうか」という視点で書かれており、北野唯我さんはそれを「コミュニケーションの断絶によるもの」と説明している。

天才は、秀才に対して「興味がない」。一方で、凡人に対しては意外にも「理解してほしい」と思っている。なぜなら、天才の役割とは、世界を前進させることであり、それは「凡人」の協力なしには成り立たないからだ。(中略)だが、反対に、凡人→天才への気持ちは、冷たいものだ。凡人は、成果を出す前の天才を認知できないため、「できるだけ、排斥しよう」とする傾向にある。この「天才→←凡人」の間にある、コミュニケーションの断絶こそが、天才を殺す要因である。

(出展:『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』巻末「blog 凡人が、天才を殺すことがある理由。」より)

秀才は天才に憧れと嫉妬のまなざしを持つが、天才は興味がない。凡人は秀才に天才だと勘違いするが、秀才は凡人を見下しがち。天才は、凡人に理解して欲しいが、凡人は理解できないから排斥する。この中だと、人数が一番少ない天才が最も孤独で、ハードモードであるということが端的に本では書かれている。
企業内イノベーションや新規事業の文脈で頻発する光景なので、私もその論点には共感するところが多い。(我々凡人には共感力を天才に向ける必要があるそうです)

ゆえに、「あなたはなぜクリエイティブなのですか」という質問とこわばる表情に、秀才が凡人の支持を得ながら天才に突き付ける「銃口」っぽい空気が漂い、各々の心の鎧ともとれる表情が垣間見える回答者も多いため、観客にも少し緊張感が伝わることがある。

それでも、真摯に対応し、天才ゆえの孤独な取り組みを、丁寧に語った人達もいる。

デヴィッド・ボウイは、

創造的でいることは一種の知的冒険だ。冒険の場は刺激な別世界で、現実の隣にあるもうひとつの世界。そこで探求するのは、様々な不安と恐怖だ。
(出展:公式パンフレットより)

と2回のインタビューを通じて答え、

ファッションデザイナーの山本耀司は、

人は誰でも理解されたいと思っているから行動し、物を創り出す。だが、芸術家の人生は創作の日々で中断はない。常にせかされているようで落ち着かない。
(出展:公式パンフレットより)

と創造について語り、

クエンティン・タランティーノ監督が「待ってすぐに答えられない後で」と間をおいた後、

“周囲より多少優れた点”を僕らは持っている。それは生まれつき備わっている資質、才能だ。幸運な授かり物だから、才能に見合う努力をしなきゃならない。
(出展:公式パンフレットより)

と答えている。この3人の回答は、才能への真摯な向き合い方そのものを語っており、私は、特に印象に残っている。

答えてくれないビル・ゲイツ

この映画で、唯一「答えてくれない人」として映されるビル・ゲイツのフォローを少ししたい。
彼は、ヴァスケ監督のテンションで聞かれると、パッと答えられるタイプではないようだ。
Netflixの「天才の頭の中: ビル・ゲイツを解読する」では、その発想の豊かさや視座の高さ、習慣や魅力がわかるのでおすすめしたい。


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出典:IMDb

この作品をどう楽しむか?

この映画は、ドキュメンタリー映画のジャンルに入っているが、意味が観客に大きくゆだねられた作品だ。
107人いれば107通りある回答を、1人平均約50秒程度でシャワーのように浴びるような映像になり、「世界を面白くする107のヒント」かどうか?  は、見る人によって心に残るコメントや反応、どこに自分の気持ちが引っかかるかに左右される。
私自身は、各人の反応や取り組んでいるエリアの共通点を見つける喜び、回答するスタンスの示し方へ自身の好感度など「見た人が味わう感覚」そのものが、作品の一部になっている点が、美術展でのインスタレーション作品のようだなと感じる楽しみがあった。

普段、羨望の先にいる天才たちが「どう人生に向き合っているか? 」を自分なりに咀嚼できるひと時として、味わえる作品だ。


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[イラスト]ダニエル

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