京アニについて
京アニとは、日本有数のアニメ制作会社である京都アニメーションの略。TVアニメーションの制作や、その劇場版のアニメーション制作を主力事業としている。演出、作画、仕上げ、美術、撮影、デジタルエフェクトまでを、ほぼ社内で一貫して行う。工程を外注することが多いアニメ業界では珍しい。
1981年の創業当初は、別のアニメ会社が手がける作品の、仕上げ作業などを請け負っていた。
2005年の「AIR」では、他のアニメ作品と一線を画するその丁寧な映像演出がアニメファンの中で話題となる。2006年「涼宮ハルヒの憂鬱」、2009年「けいおん!」では、「時系列シャッフル」というストーリーの構成や、丁寧に描かれた楽器の演奏シーンやダンスシーンなどが話題となり、2013年「Free!」、2015年「響け!ユーフォニアム」で、世界的な知名度を獲得した。「京アニは神作画」と称されるようになっていったのだ。
「ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 永遠と自動手記人形」について
「ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 永遠と自動手記人形」(以下、本作という)は、TVアニメの外伝として、2019年9月6日に3週間限定で公開されたが、現在も上映中である。物語の時系列としては、TVアニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」と2020年に公開予定で延期が公表されている映画「 劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の間となる。
出典:「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」公式サイト
TVアニメは「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」という少女の成長記録だったが、本作は新たに映画のオリジナルキャラクターとして登場する2人を中心に描かれている。
本作は、TVアニメを見ていなくても理解できるが、ヒロインであるヴァイオレット・エヴァーガーデンの生い立ちを知ると深みが増して物語をより楽しむことができる。ちなみに、興味がある人はNetflixでTVアニメを全話配信しているのでぜひ見てほしい。
映画「ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 永遠と自動手記人形」のあらすじ
出典:映画.com
本作のヒロインは、イザベラ・ヨークとテイラー・バートレット。2人は生き別れた姉妹だ。
物語は2部構成で、前半はヴァイオレットとイザベラの話が、後半はヴァイオレットとテイラーの話がそれぞれ描かれている。
前半は、良家の子女のみが通うことを許された女学園を舞台に、未来への希望を失っていた姉イザベラと、彼女のもとへ派遣されてきたヴァイオレットが心を通わせていく物語だ。
後半はイザベラとヴァイオレットが別れた4年後。赤毛のテイラーがヴァイオレットの元に訪ねてくる。彼女は屈託のない笑顔で「郵便配達人になって、手紙を届ける人になりたい!」とお願いをする。本来、引き離される運命だった姉妹が、ヴァイオレットと手紙によって繋がっていく。
出典:映画.com
テイラーにヴァイオレットが三つ編みをしてあげるシーンでは「2つだと解けてしまいますが、3つを交差して編むと、ほどけないのです」とそっと語りかける。
まるで姉妹とヴァイオレットの関係を示唆するかのように。
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2人とヴァイオレットの関係性は、TVアニメ版でのヴァイオレットと育ての親のギルベルトのことを思い出させる。
ヴァイオレットは孤児だった。戦場で拾われた彼女は軍人ギルベルトに育てられた。人を殺めることに長けており、まるで無感情だったため「武器」と呼ばれていた。
けれどギルベルトだけは、まだ幼いヴァイオレットを「武器」と扱わず、名前のなかった少女に「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」という名を与えた。
ギルベルトはただそばにいて、言葉を教え、字を教え、ヴァイオレットを一人の人として見守り続けていた。
出典:映画.com
外伝では、心を閉ざしたイザベラとそばに居続けるヴァイオレットは幼き頃のヴァイオレットとギルベルトの関係のように見える。
ヴァイオレットはイザベラが困っている時、そっと救いの手を差し伸べ、なにか特別なことをするわけではない。
ただ彼女のそばにいて、見守り続ける。
ヴァイオレットとテイラーの話では、見習い郵便配達員になったテイラーは実はまだ字が読めず、ヴァイオレットと一緒に手紙を配達をしながら字を教わる。
【上映まであと2日!】
『#ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 – 永遠と自動手記人形 -』
2019年9月6日より上映開始!
TVシリーズを見たことがない方でもお楽しみ頂けます!どうぞご期待ください! https://t.co/s0SjUkFxjG#VioletEvergarden pic.twitter.com/j3o1LXVd8U— 「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」公式 (@Violet_Letter) September 4, 2019
その2人の様子も、いつかのヴァイオレットとギルベルトのようなのだ。
TV版でヴァイオレットがギルベルトから与えられていた「無償の愛」を、外伝では彼女が姉妹に与えている。
ある夜、ヴァイオレットは姉への想いを語るテイラーに手紙を書くように勧める。字を覚えていないテイラーの手に、ヴァイオレットは銀色の手を添え、一緒にタイプライターを打つ。
『#ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 – 永遠と自動手記人形 -』全国の上映劇場にて絶賛上映中!
【画面の秘密 1/2】
この作品は画面が横に広いことにお気づきでしょうか?劇場で上映するためにTVシリーズから変更した藤田春香監督こだわりの画面サイズとなっております。#VioletEvergarden pic.twitter.com/X0vSawPwdb— 「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」公式 (@Violet_Letter) September 14, 2019
その様子は、イザベラに手を添えるシーンと重なる。彼女の手は、絶望している姉妹にとって救いとなる。
【画面の秘密 2/2】
美しい景色、精密な芝居、豊かな色を最大限に引き出すために、技術の面でも色々な工夫が施されています。
様々な表現を追求するスタッフの思いがめいっぱい詰まった作品です。劇場で観ることでその魅力が大きく発揮される映像美を、心ゆくまでご堪能ください。#VioletEvergarden pic.twitter.com/W9zc8P5BWP— 「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」公式 (@Violet_Letter) September 14, 2019
ヴァイオレットが紡ぐ手紙は人と人を結んでゆく。
その手は幼少のころ誰かの命を奪った白く腕ではない。戦争で失ったヴァイオレットの腕は、金属で冷たい手だが、温かな愛情を伝える手なのだ。
「神作画」と呼ばれる3つの映像表現
京アニの優れた映像表現の手法を、本作の中から3つ紹介する。
1. タイムラプスによる時間経過の表現
タイムラプスは、映像をコマ回しする技術だ。本作では、ヴァイオレットがイザベラと月日を重ね気持ちを通わせていく場面やテイラーと月夜の下で心を通わせていく時間の移ろいの演出などに使用されている。
2.実写のような手ブレ表現
ヴァイオレットが戦場を駆け回るシーンを見て欲しい。
本来アニメーションは、フレームは固定で手ブレが起きることはない。
しかし、あえてその表現を取り入れるシーンがある。演出としてのカメラワークの縦揺れにより、映像の臨場感を高めている。
3.単焦点のボケ感
京アニの作画チームは、原画マンが生み出す「美しいキャラクター」+「緻密な背景描写」に、動画マンによる「繊細な表情の変化」を加えて美しい画を作り出している。
しかし、本作では「表情」にクローズアップするため、「背景」を引き算することで心象を引き立てている。単焦点レンズで実写撮影したようなボケた背景がひときわ美しいのだ。
出典:映画.com
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本作は、どの瞬間を切り取っても美しい一枚絵となる。それは高い技術と、熱量をもった京アニならではの、彼らにしか作り出せない美しさなのである。
「愛している」を知りたいのです
ヴァイオレットとは和訳で「すみれ」。
花言葉は「愛」。
私は「愛している」の意味を知りたい。だから「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を見れる日まで、この素晴らしい作品を待ち続けたいと思う。
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[イラスト]ダニエル