「アイネクライネナハトムジーク」はベストセラー作家・伊坂幸太郎とシンガーソングライター・斉藤和義の交流から生まれた奇跡のラブストーリーだ。
主演は三浦春馬。
三浦春馬といえばイケメン。
イケメンといえば三浦春馬。
だが、予告を見ると三浦春馬が全然カッコよくない。どこにでもいそうな平凡な男性だ。
せめてキャラはカッコいいのかと期待したけれど、「劇的な“出会い”を待ち望むだけの男」と紹介されていた。
劇的な“出会い”を
待ち望むだけの男
(ダッサァ……)
出典:映画.com
「三浦春馬が全然カッコよくないんだけど、どゆこと!? 髪型だけでこうも変わるの!? 女の化粧と一緒!? ってことはフツメンも髪型とキャラを変えたら三浦春馬になるってこと!? これはNEW春馬発掘の余地あり!?!?」
そして映画が公開された週末、私は実家に帰省したついでに地元で映画を観ることにした。
・・・
私「夜ちょっと映画観にいきたいんだけど」
母「え!? 1人で!? 何時から!?」
私「20時20分だよ」
母「ダメ! ママも行く!!!」
(まじか……)
というわけで、約20年ぶりに母と2人で映画を観ることになった。ちなみに母と最後に観た映画は「ハリー・ポッターと賢者の石」で、当時の私は11歳。
▼母の特徴まとめ
母と私はどこへ行く時も一緒で、高校生の時はよく恋愛相談をした。大学に入学して一人暮らしを始めてからも、やはり別れの危機&失恋した時は毎回母に電話をした。そして調子がいい時はノロケ写真を大量に送りつけた。(そっちは既読スルーされた)
確かに母は一番の相談相手だけど……一緒にラブストーリーを観るのはちょっと……気が引ける……(エ○チな場面がなくて本当にヨカッタ!)
約20年ぶりの映画館に母テンションMAX
映画館に向かう途中
そして無事「アイネクライネナハトムジーク」のチケットを買った後
何を買おうか悩む……間もなく
映画館で自分たちの席を見つけて座ると
……既に楽しそう。
映画が始まる前のCM「NO MORE 映画泥棒」でさえ、母は1人でクスクス笑っていた。(幸せか!)
これだけでもここに来た意味がある気がした。
劇的な“出会い方”よりも大切なこと
仙台駅前で街頭アンケートを集めていた会社員の佐藤(三浦春馬)は、ふとしたきっかけでアンケートに応えてくれた女性・紗季(多部未華子)と出会い、付き合うようになる。
本作品では一貫して、劇的な“出会い方”よりも大切なことは「あの時、あの場所で出会ったのがその人で本当によかったと思えるか?」ということをテーマとしている。
実際に劇的な出会い方をした佐藤の上司・藤間は、妻と「横断歩道で財布を拾ってあげたこと」がきっかけで出会い結婚した。しかしその後、妻子に家を出ていかれた。
出典:映画.com
わかる……
すごくわかる……
だって恋をすると「この人こそ運命の人よ♡ もう他にいないわ♡」なんてこと、思う!!!
そんな時「あの時、あの場所で出会ったのがこの人で“本当に”よかった」なんてどうやって分かるんだろう……(私の永遠の課題)
恋をした時に“ベストチョイス”を見極める基準
本作品からは2つのポイントが考えられる。
⑴ 2人のテンポが同じであること
主人公の佐藤と紗季は交際期間10年。2人が同じ速度感だからこそゆっくりと温め続けることができたし、本心をあまり見せない相手に対しても理解ができた。
出典:映画.com
一方、美人妻・由美と変わり者の旦那・一真は若くして結婚をした。一見勢いだけかのように見えるけど、子どもができた時に2人とも大学を辞めた。目標に向かって2人とも同じ熱量とスピードで進んでいるし、決断に迷いがない。
出典:映画.com
速度は正反対だが、どちらのカップルもお互いのスピード感が同じであり、同じテンポで絆を深めることができた。
それは結婚に至るまでのポイントだけではなく、その後の日常生活においても重要だ。
⑵ 相手の欠点を“欠点”だと感じない
映画の中では様々な「夫婦間の喧嘩の種」が散りばめられていた。
例えば
・何でもやりっぱなしな夫
・AVが大好きな夫
・家事を一切やらずにだらだら寝ている夫
・妻に子育てを任せっぱなしな夫
(あるあるだ……)
これらのことは「不満」に感じる人もいれば、別に気にしない人もいる。(ちなみに我が家はAV以外全て当てはまるけど母は何も気にしていない)
藤間が妻に逃げられた決定打は「ハサミが出しっぱなしだった」こと。そこだけ切り取ったら些細なことだけれど、毎日一緒に生活していると、小さな不満の積み重ねもやがて大きく肥大してしまう。(癖ってなかなか直らないよね……)
母へ「あの時、あの場所で出会ってよかった?」
直接は聞くのは何だか照れくさかったから、後日LINEをした。
・・・い、ま、本気出して。
ちなみに私の両親は見合い婚。
母はよく「パパはお見合いの時に化けの皮を被っていたの! 騙されたわ!」と言っていた。そんな母を見ていると、なぜ離婚しないのかずっと不思議だった。
その後、追加のLINEが来た。
映画の中では、一真の妻・由美が娘からの質問に対して「お父さんがいてお母さんがいて、二人の子どもがいて。この組み合わせが結構好きなの」と答える場面があった。
大切なパートナーがいて、共に築いた家族がある。そこにある幸せこそが“答え”なのだろう。
「この人でよかったか」という質問は、世界が狭すぎるのかもしれない。
全ては自分の行動次第
本作品にはもう一つテーマがある。
それは「最終的に“行動”するのは自分だ」ということ。
他力本願は非難されるべき?
映画の中で「ボクシングで自分が応援している選手が勝ったら告白する」という決意に対して、周囲が「他力本願だ」と批判する場面があった。
しかしその結末は「本人が行動を起こすこと」が鍵となっている。
出典:映画.com
最終的に勇気を振り絞って行動するのは自分なのだから、きっかけなんて何でもいい。
他力本願になれる時点で自分の意思は固まっているも同然だ。
伝えない想いは(もちろん)伝わらない
また、佐藤の彼女・紗季はある日、プロポーズすらまともにできない佐藤に呆れて家を出て行った。
出典:映画.com
佐藤はしばらく失意のどん底に落ちた。
しかし、関係を修復するために行動を起こした。
出典:映画.com
その行動がなかったら、2人は結婚に至らなかった。
大切なことを相手に伝えるタイミングを逃してしまうことなんて、誰にでもある。それは相手のことを大切に想っていないわけではなく、その場の空気とか、言葉を選んでしまったりとか、きっと様々な心情によるものだ。
「いくら悩んでいても、考えているだけでは何も伝わらない。行動してみよう」と改めて思わされる場面だった。
出会いがないというすべての人へ
本作品の公式ホームページには「“出会いがない”というすべての人へ 10年の時を越えてつながる〈恋〉と〈出会い〉の物語」とある。
そこには「“出会い方”が大切なわけではない」ということの他に「出会いがないことを嘆くのではなく、行動してみよう」というメッセージも込められているように思う。
“劇的な出会い”や“好みの人”など人それぞれ理想があるけれど、待っていても何も始まらない。(草食系男子にはぜひ頑張ってほしい!)
原作者・伊坂幸太郎が描くラブストーリー
「アイネクライネナハトムジーク」の原作者・伊坂幸太郎は、小説を書く際に恋愛の要素を意識的に排除してきたという。そのため本作品は彼の唯一のラブストーリーだ。
映画の中で「美容師の美奈子は客から弟の電話相手を頼まれて連絡を取り合うようになるが、どれだけ仲良くなっても彼とは電話で話をするだけで直接会うに至らず、ついに一方的に連絡を絶たれる」という場面がある。
彼はなぜ会おうとしないのか? なぜいきなり連絡を絶ったのか?
観客は様々な想像をめぐらしただろう。
伊坂幸太郎は次のように語る。
恋愛ものでもありつつ、ミステリーであることをかなり意識して書きました。今まで培ってきた技術を全部入れた渾身の自信作ですね。もしも斉藤和義さんに声をかけてもらわなかったら、こういう話を書くことは多分なかった。そう考えると、出会いってやっぱりすごいです。
引用:https://ddnavi.com/interview/561687/a/
誰かに恋をすることも、家族になることも、この映画の誕生も、この世界は一つひとつの出会い=奇跡に溢れている。たとえそれが“劇的”なものではなくても、そういったものの積み重ねが、大きな幸せとなるのである。
・・・
今回、母と約20年ぶりに映画を観た。
観る前は正直「え……なんか恥ずかしい」と思ったけど、このような機会=“出会い”もなかなか良いものだった。
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[イラスト]ダニエル