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ほのぼの展開は罠かよっ!「イソップの思うツボ」はあなたのゲスさを刺激する。

ハマダヒデユキ ハマダヒデユキ


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「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督の最新作は、3人の女の子のピュアな恋と夢の物語。


出典:映画.com

亀田美羽(演・石川瑠華)はいつも教室の隅っこで眠っている内気な大学生。ある日、大学に赴任してきた心理学の臨時教師・八木圭佑(髙橋雄祐)に淡い恋心を抱いたのか、常に目で追うようになります。その様子はいつも家で食事を共にする母・美紗子(渡辺真起子)にも「あんた、今好きな人いるでしょ?」とあっさりバレてしまうほど。しかしそこに思わぬライバルが。

 



出典:映画.com

ちょっと内田理央にも似ているキラキラ系ヒロイン・兎草早織。彼の前髪とメガネがタイプだったようで、彼女も八木先生に一目惚れしてしまうのです。かくして、キャンパス内で懸命に八木にアタックする早織と、地味ながらも努力する美羽の恋のレースが始まります。勝つのは兎か、亀か。更に、紅甘演じる戌井小柚も参加し、バトルは加熱していきます。3人の少女のピュアな青春物語の結末は……。

 

 



出典:映画.com

騙されるなっっ!!! この映画はそんなんじゃねええええ!! 

人間の醜さてんこ盛りなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

前作の日暮監督のそんな怒号が聞こえてきそうです。すいません、ここまで読んで「な〜んだ。『カメ止め』のスタッフって聞いたけど、爽やか青春ものか〜今作はパスだな〜」とページを閉じかけた方、本当にごめんなさい。

ピュアな物語? いえ、ドロドロです。恋心? いえ、憎悪です。夢? いえ、巧妙な復讐計画です。まるで絵に描いたような青春劇が広がる序盤は、すべてのちの展開のためのフェイク。中盤から始まる誘拐劇で、人間のブラックな部分丸出しの物語に反転するのです。(ここからネタバレ含みます!)

 

父は潜入調査、兄妹は偽りの不倫相手、母は妄想!? 嘘だらけの序盤はすべて復讐への伏線


出典:映画.com 

というわけで、上田慎一郎監督最新作「イソップの思うツボ」は、中盤よりかな〜りブラックな展開を迎えます。そもそも亀田美羽の目的は父・兄と協力し、兎草一家の誘拐・家庭崩壊・そして殺害計画を実行することでした。



出典:映画.com

こちらがターゲットである兎草一家。「日本一の仲良し芸能家族」としてテレビに出ずっぱりの超リア充家族なのですが、数年前に起きた玉突き事故で早織が病院に運ばれた際に、先約の患者を押しのけ治療させたというなかなか黒い過去がありました。結果的に早織は助かり、そしてその治療優先で亡くなった先約の患者が美羽の母だったのです。



出典:映画.com

復讐を誓った美羽をはじめとした亀田家は、ならず者から受け取った脚本をもとに兎草家を陥れることに。

・父・将吾はマネージャー・田上として、兎草夫婦に接近
・兄・圭佑はウィッグと眼鏡で講師・八木に変装し、早織とその母親に接近しW不倫の関係に
・妹・美羽は金髪のカツラをかぶり、兎草父に接近し援交関係に

という兎草家崩壊の弱みを握る計画を、青春劇を隠れ蓑に実行していたのです。おお、黒い黒い。

 

……え、その死んだ美羽の母親って冒頭に登場していなかったか、ですって?


出典:映画.com 

いえ、彼女は心に傷を負った美羽の妄想です。現実にはこのテーブル、美羽しかいません。

彼女が誰もいない空席に「もう、お母さんてばあ〜」と笑いかけている部屋の奥で、父と兄が淡々と復讐計画を練っているシーンがのちのち挿入されます。おお、怖い怖い。
かくして圭佑と早織がいい関係になったところで二人を誘拐し、身代金を持ってきた兎草夫婦の前で正体を明かした家族は、ここまで握ってきた裏情報を一気にバラします。


出典:映画.com 

互いの信頼関係が壊れ、泣き叫び罵り合う兎草家に拳銃を向ける亀田家。そしてそれを愉しげに映像から鑑賞するならず者たちと、仮面舞踏会のような会場でオペラマスク(!?)をかぶり談笑する複数の男女。もはや序盤の青春劇は何処へやらの状況で、本作はクライマックスへと向かうのでした。

3人同時監督! インディーズ出身者同士だからこそできた、新境地の撮影スタイル



出典:映画.com 

さて、そんな急転直下の物語が見どころの本作ですが、上田慎一郎監督をはじめ中泉裕矢監督、浅沼直也監督の3人がメガホンを取り制作したことで話題になっています。中泉監督は「母との旅」で国内映画祭3つのグランプリ、浅沼監督は「冬が燃えたら」で国内外10冠を達成したいずれも腕のある監督。そんな3人が出会ったのは、デジタルシネマのための映画祭「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」でのエントリーを機に貸しオフィス「インキュベートオフィス」に入居した時のこと。

そして今から4年前のオムニバス映画「4/猫 ねこぶんのよん」で交流を深めたのでした。

(オムニバスの)監督4人のうち、3人が僕らで、商業デビュー作。初めて「こんなに大勢の人に観てもらえるのは嬉しい!」という体験をして、打ち上げの席で「また一緒にやろう。今度は3人で一緒に長編の監督やってみようよ」となったんです。それしか選択肢はないって感じで。
(出典:映画パンフレットより、中泉監督インタビュー)

「4/猫 ねこぶんのよん」がテアトル新宿で1週間上演された際は、猫の仮装をしビラ配りもしたというほど深い友人関係になった3人。しかし3人監督という前代未聞の考えは「無理だ、うまくいくわけない」と周囲からは大いに反対を受けたそうです。



出典:映画.com 

そこで脚本を練りながらも一緒に撮影したのがあの「カメラを止めるな!」で、その後のスピンオフ作品「ハリウッド大作戦!」では上田監督が中泉監督にメガホンを渡すなど、より濃い関係を構築。「トリプル監督」という前代未聞の挑戦へのチームワークを高めていき「カメラを止めるな!」旋風中の昨年秋の9日間、本作の撮影に挑んだのでした。



出典:映画.com 

3人同時監督という特殊性を生かし、中泉監督が「亀田家」「学園パート」を浅沼監督が「戌井家」をそして上田監督が「兎草家」「兎草父と美羽が浮気するホテル」の演出をそれぞれ分担して担当。これによりそれまでのほのぼのとしていた青春ものが、突然ドロドロ展開の人間模様に変化するという本作独自のエッセンスを生み出すことに成功したのです。そして最後の舞台となる山小屋では3人が同時に立ち会ったわけですが……。

置いてきぼりの戌井家。より見たかったブラックな世界。厳しめ評価も3人の「思うツボ」?


出典:映画.com 

ここから先はクライマックスについても言及します。正直批判めいた感想もあるのでご注意を。

・まず戌井家の存在価値があまりに薄すぎる

本作のテーマ「3人の少女が出会う時、とんでもない物語が始まる!?」は正直、あまり意味を成していません。亀田家vs兎草家だけで物語はほぼ成立しており、誘拐業を指名された戌井小柚とその父・連太郎はただ両家の動向をオロオロ見ているだけ。二人の親子の絆を表現するパートも、本筋にはほぼ絡まない内容で「ただ喧嘩が強く、毒のない第三者」という印象が目立つ存在でした(一応終盤の重要場面では活躍するのですが、小柚達である必要性が低く……)。3人監督による演出が強みのはずなのに、他の2大家族にパワー負けしてしまったのは少し残念でした。

・本作のウリであるブラックな部分が減速し、カタルシスが弱い

圧倒的優位である亀田家に対し、兎草家はほぼ反撃できないまま物語は終わってしまいます。そして亀田家の彼らに対するジャッジも中途半端な形で決着し、やや消化不良にも感じてしまいました。なんというか、黒に振るか白に振るか曖昧なオチだったのです。

思えば「カメラを止めるな!」は衝撃の展開を見せつつ、家族が持つ温かさで締めたからこそ、多くの人に感動を与えることができたわけで。その真逆の「うわあ、人間ってドロドロしてるなあ」という印象で、きっちり締めてほしかったというのが正直なところでした。
例えば「早織が両親もドン引きするレベルのゲスさを発揮」「戌井家の介入により優位だった亀田家が逆に崩壊する」などなど……。ああ、「カメラを止めるな!」以上の衝撃をこの3人監督による演出から観たかったと。

しかし。もしかしたらその批判こそ、まさに彼らの「思うツボ」だったのかもしれません。



出典:映画.com 

「もっと何かやばいやつ来ると思ってたんだけどなー」

エンドロールが終わり、映画館が明るくなった時、そんなつぶやきがふと後方から聞こえてきたのです。振り向くと若いカップルが立ちあがり、退屈げに去っていくのが見えました。「自分と同じゲスい感情を他の観客も抱いていたんだ……」その事実に少しゾクリときました。

もしかしたら、上田監督たちの狙いは「カメラを止めるな!」同様の威力を期待した僕らの負の部分を暴くことだったのでは。あの仮面舞踏会は、ゲスいものを好む観客そのものだったのではないのか。最後の画面で美羽たちに撃ち抜かれた時、僕らはその本性丸出しだったのではないのか。まさに彼らの「思うツボ」だったのではないのか。

……いや、さすがにこの考えは行き過ぎか。そんなモヤモヤを抱かせてしまう、この3人監督という斬新な試みが「イソップの思うツボ」を経てより衝撃的な作品になって再び現れることを期待し、今回のポップコーンを完食します。


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[イラスト]清澤春香

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