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「アメリカン・アニマルズ」はツイッタラーの焦燥感をえぐる作品だ

みる兄さん みる兄さん


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映画評を書くようになってから、担当映画の感想やツイートを追うのが日課になっている。

「この視点はわかるなー」とか「そんなとらえ方されるんだ」など。僕が見た「アメリカン・アニマルズ」は面白い傾向が出ていた。映画の感想サイトでは、「挑戦的だけど退屈」など中の中くらいの凡庸な評価なのだが、ツイッターでは「今年のベスト!」「完全にハマった」など絶賛のコメントが多いのだ。

「何者でもない日常」から抜け出したい。 

この作品に共感し、没入し、称賛の声が出るか否かの大きな違いは、“焦燥感”を持っているか? もしくは、過去に感じたことがあるか? で分かれる。

そして、ツイッターで発信をしている人は、僕も含めて「何者でもない日常」から抜け出すことに思いをはせた人が多いと思う。

アメリカンアニマルズは、ここ数年観た映画の中でもベスト3に入る映画だった。それは、この映画が、僕の過去とツイッターをやっている今との共感性が強かったからかもしれない。

作品のテーマ

「アメリカン・アニマルズ」は、2004年ケンタッキー州トランシルヴァニア大学で実際にあった、大学生による強盗事件を描いた作品だ。標的は1200万ドル(12億円超)のオーデュポンの画集「アメリカの鳥類」だ。



出典:fansvoice

オーデュポンは、フランスの移民で、7歳から絵を習い18歳でアメリカに渡り、フィラデルフィアの近くにあった父の農場で仕事をしながら鳥の絵を描いた画家。1820年に北アメリカの鳥類を描いた画集の出版を思い付き、彼が絵を描きためる間、妻が教師をして家計を支えた。しかし画集はアメリカでは出版元が見つからなかった。オーデュボンは、1826年にイギリスに渡り、1827年から1838年にかけてイギリスで「アメリカの鳥類」を出版した。この画集は、オーデュボンの水彩画を元にした、435枚の彩色銅版画が収められている。標本を元にして描かれることの多かったそれまでの博物画と違い、この画集では生きた鳥が自然の生息環境の中で躍動的に描かれている。一羽一羽の鳥が、実物大の大きさで描かれている非常に大きな画集であることも特色だ。近年では非常に高価に取引されており、幾度も書籍のオークション最高記録価格を更新している。(Wikipediaより抜粋)



出典:audubonhouse

「12億円のアートを盗む物語」と聞くと、テンポの良いクライムムービー(犯罪をテーマとした映画)を想像するかもしれない。実際に観るまでは、「オーシャンズ11」や、初めて僕がみたクライムムービー「スニーカーズ」(学生ハッカーだった男たちの物語)のような、いかに華麗に、そしてスリリングに犯罪を行うのか? そこが醍醐味の作品だと思っていた。



出典:IMDb

10年ちょっと前に起きた実話を題材とした作品と聞いていたので、大学生たちがどんな手段を使い、稀代の強盗事件を起こしたのかを期待をして観に行った。たぶん、僕と同じような期待を持っていた人も多いと思う。



出典:IMDb

実際の作品はと言うと、オープニングからオーデュポンの画集イラスト、テンポの良い音楽と映像が続いた。この時点で、この映画は「オーシャンズ11」ではなく、もっとエモーショナルでアート系の作品なのかもしれない……と当初の予想を軌道修正した。ちょっと表現は違うかもしれないけど、爽快感を焦燥感に変えた「トレインスポッティング」(90年代の若者を象徴したイギリスを舞台とした映画)のような作品とでも例えればよいだろうか。

良い意味で僕は期待を裏切られた。

作品のあらすじ

話の流れは、オーデュポンの画集を強盗するまでの大学生4人の心象を描写をしている前半パートと、実際に彼らが犯罪を行う後半パートに分かれる。

映画の冒頭に、「Based on true story」→「true stroy」(真実の物語)とギミックが出てきて幕があける。この作品が、“真実を基にした物語”ではなく、この作品そのものが“真実だ”という宣言だった。何が「true stroy」かというと、当時大学生だった事件の当事者の本人たちが作品の中に出てくるのだ。



出典:phantom-film.com

それもカメオ出演やエンドロールの演出ではなく、本編のドラマの中でインタビュー映像を差し込んでくる。この手法は映画作品としては、かなり斬新な構成だと思う。

僕がこの構成を観て、似ているなと思ったのは、ビートたけしがストーリーテラーの「奇跡体験!アンビリバボー」だった。こう例えるとチープに感じる人もいるかもしれないが、僕はあのタイプのドキュメンタリーは好んでいたので、この構成にどんどんハマっていった。実在の人物が出てきて語ることで、映画で描かれている世界が演出された世界ではなく、そこには日常があり、加害者がいて、被害者がいる。彼らにも家族がいることをリアルに感じることができる。彼ら自身を劇中で観ることで、そのリアリティに引き込まれていった。

ただ、この構成は相当、好みが分かれると思う。前述のように「オーシャンズ11」のようなハイテンポなクライムムービーを想像していた観客からすると、ドラマシーンにインタビューがたびたび挟まれることで、作品のテンポを崩していると感じるだろう。事件が起きるまでのシーンは冗長だし、映画にするほどのドラマがそこにあるのか? と問われると、ありふれた大学生の「なんか、最近面白いことない?」を描いているだけなので退屈かもしれない。前半で描かれる、彼らの迷いや葛藤の部分で、「思っていた映画と違う」と感じた方が低評価をつけていることが多いようだ。



出典:RIVER

監督と4人のキャスト

今回の監督は長編ドラマ初監督作品となるバート・レイトン。日本未公開だが、ドキュメンタリー映画「The imposter」で注目を集めたらしい。前述の本人たちのインタビューを差し込む新しい編集方法も、ドキュメンタリー出身の監督らしいとも言える。

アーティスト志望のスペンサー(バリー・コーガン)、スポーツ推薦で悪ノリのウォーレン(エヴァン・ピーターズ)、FBI志望でインテリなエリック(ジャレッド・アブラハムソン)、エリートで肉体派のチャズ(ブレイク・ジェナーズ)この大学生4名が物語の登場人物だ。

スペンサーの優柔不断で弱気な部分をダンケルクにも出ていたバリー・コーガンはうまく表現していたし、X-MENに出ていたエヴァン・ピーターズは、ウォーレンのちょっとねじが外れたやんちゃさを上手く演じていた。どのキャストもハマリ役だったと思う。

そして、2人が演じたスペンサーとウォーレン本人達が、とてもミステリアスで魅力的だった。演じた俳優よりも俳優っぽいキャラクターを発揮していたことに僕は驚いた。



出典:fansvoice バリー・コーガン(左)とスペンサー本人(右)



出典:fansvoice エヴァン・ピーターズ(左)とウォーレン本人(右)

改めて彼らの写真を観ても、希代の犯罪に手を染めるようなタイプには見えなかった。

スペンサーは、画家を目指す大学生。周りの同級生たちがナイトクラブで羽目を外し、学生生活を楽しんでる中、その輪に全くなじめないでいる。なんとなく毎日が進む中、「人生の変わるような出来事」に出会えてないことを憂いていた。

そんな日常の中で出会ったのが、オーデュボンの画集「アメリカの鳥類」だった。自分の身近な場所に伝説的な作品がある。その出会いが、彼の人生を大きく狂わせることになってしまった。スペンサー本人がインタビューで、「ウォーレンと出会ってなければ、犯罪に手を染めることはなかった。」と語っていたが、オーデュボンの画集にさえ出会ってなければ、彼の人生もまた違った道を進んでいたのだと思う。



出典:FRONTROW

スペンサーのインタビューを観て、僕も大学生のころ、同じような境遇だったことを思い出した。

地元の高校の友人と週末に集まってドライブをする。たわいもない会話の中から、悪ノリが得意な奴が、「10億くらい落ちてないかなー」などくだらないコトを話していた。「本当にノストラダムスの大予言が来たら、どこに逃げようか?」「俺らは、助かりそうだよな」としょーもない破滅願望の話を真剣にしていた。

僕らは、12億の画集を盗むような大それた発想まで行かなかったが、もし、ウォーレンのように事件へとグイグイ引っ張っていくリーダがいたら……なんとなく惰性で生活している中での刺激への欲求、うっ憤は、僕らの中にも確かに存在していた。そのやり場のない感情を抱えたまま、普通に就職し、それぞれ家庭を持ち、それなりに安定した生活をするようになった。たまに会えば、学生時代はバカなこと考えてたなーと、酒の席で当時の話をしている。

日本では中二病(思春期に特有の自意識過剰なふるまい)と言われたりするが、「何者でもないことへの焦燥感」は、今でも年代問わずにふと出てくるものだと思う。

僕も含めてツイッターで発信をしている人の中には、「何者でもないことへの焦燥感」や「誰かからの承認欲求」を少なからず持っているのではないか。友人とのコミュニケーションや情報収集など、SNSにはいろんな役割はある。だが、自分のツイートが思いがけず伸びたり、友人が活躍しているのを見て焦ったりしたことがある。そんな人たちは、大学生の彼らの葛藤に心をえぐられると思う。

アーティストを目指していたスペンサーの「何かが起これば特別な人生になる」というセリフが今でも心に残っている。

普通のビジネスマンであっても、「凡人ではいけない」という何とも言えない焦りは、SNS時代でより強くなっていると感じる。



出典:テアトルシネマ

僕は、スペンサーの心の浮き沈みの描写が好きだ。

盗品を買ってくれるバイヤーを探しに、ウォーレンと行ったNY。二人でクラブで羽目を外して、クタクタに疲れて同じベッドで寝る。自分が願望していた「人生の変わるような出来事」が動き始めたとテンションが上がる半面、徐々に取り返しがつかない方向へと進む、悲壮感とのギャップが本人のインタビューからもヒシヒシと伝わってきた。

リーダー格のウォーレンも、家庭に問題を抱えていたり、スポーツ推薦で入った大学で揉めていたり、スペンサーと同様にうまく行かない状況を、ゲームのように大逆転することにあこがれを抱いていた。

ウォーレンは、グーグルで「完璧な犯罪を計画する方法(how to plan a heist)」を検索し、お互いを「レザボア・ドッグス」(クライムムービーの名作)に習い「ミスター・ピンク」「ミスター・ブラック」などと呼び合う。イメージの中では、エルビスの曲を流して華麗に「オーシャンズ11」のように強盗を計画する。

しかし、現実は映画のようには上手くいくわけはなかった。



出典:FRONTROW

大学生が起こす、息が詰まる強盗事件

クライマックスにかけての強盗シーンは、素人の大学生が立てた計画なので、稚拙なシーンばかりだったが、それがとても良かった。

完璧な変装をして図書館に行ったら、予定では1人の司書が4人いて、早々に計画が中止になる。日を改めて襲撃した時は全く変装をせず、スタンガンで気絶させるはずだった司書が簡単には気絶してくれない。「画集を取るだけで傷つけるつもりはない」と祈るように懇願する。オーデュポンの画集を盗み、エレベーターで移動した際、間違って別のフロアのボタンを押してしまう。逃走予定の地下室が閉まっていて、白昼堂々と図書館のロビーを画集を持ったまま通る。画集自体の重さのシミュレーションが甘く、階段で落として運ぶのを諦める。逃走後にわずかに残った書籍(ダーウィンの起源)の鑑定書を出す際、致命的なミスをしてしまう。そして、捕まる。

とにかく失敗のオンパレードなのだが、無様な彼らの焦り、いら立ちを追体験することで、僕は彼らの共犯者のような感情で観ていた。映画を観ながら、左胸に手を当てて、自分の鼓動の高まりを思わず確認したくらい、心拍数が上がっていた。



出典:phantomfilm.com

クライムムービーは、華麗に大胆にクリエイティブに強盗をするものがほとんどだし、現実の世界でも3億円事件(1968年12月に発生した未解決窃盗事件)のようにスマートな完全犯罪もある。

スタイリッシュなクライムムービーを期待して観に来ていたら、大学生の稚拙な犯行にがっかりしてしまうかもしれない。ただ、これが「現実」なのだ。裏目裏目に出てしまう無様な失敗は、映画をコメディっぽくするための演出でもないし、犯罪の戒めとして伝えるための失敗でもない。これが、全てが本人たちの証言から作られた事実だ。素人集団が映画やグーグルで調べた知識で犯罪を実行し、失敗する。

誰しもわかるような状況に踏み込んでいく。彼らの心理的過程にこそ、この作品の心髄が表れている。

彼らの行動は決して褒めらることではないし、事実として司書を傷つけたため、強盗傷害罪となり、懲役7年の刑期が言い渡された。現在は出所し、それぞれの道に進んでいる。スペンサーは、現在画家として「鳥」を書いている。

レイトン監督がインタビューで「完成した映画を彼女(司書)は非常に気に入ってくれましたし、4人のことを初めて許すきっかけになりました。この映画を観るまで、彼女はこの4人がどんな人物だったのか知らず、情け容赦ない悪人だと思っていました。ですがこの映画を通じて、彼らは根は悪い人物ではないことに気付くことができ、許しに繋がったのだと思います。」と答えていたように、稀有な事件ではあるが、ほんのわずかなきっかけによって、僕らもこの作品の中に登場する一人になってしまうかもしれないと感じる作品だった。

最後に……いくつか気になる部分もあった。

ひとつは、主人公のスペンサー本人が、演者のバリー・コーガンよりも相当イケメンだったことだ。4月に見た「ビューティフル・ボーイ」のティモシー・シャラメのような美顔俳優を使って、話題をつくっても良かったと思う。本人映像が出てくるたびに、バリー・コーガンは演技派なんだけど……大変申し訳ないが、なんかもったいないと感じてしまった。

もう一点は、劇中の音楽についてだ。場面場面を引き立てる曲のバランスは非常に良いし、彼らの心情への没入感をアシストしてくれる。ただ、監督自身も語っていたように、「トレインスポッティング」の「Underworld-Born Slippy」のような、時代の代名詞のような楽曲を採用しても良かったと思う。二つとも共通して、インパクトがもう少し欲しかった。

好きな映画にちょい足しの要望を言いたくなるのは、この作品にハマっている証拠だし、独特の編集方法やアート的に出てくるイラストカット、そして、本人たちのインタビュー映像の生っぽさは、監督の意図やこだわりにじっくり浸りたくなる映画だ。

ツイッターをはじめて、文章を書くことに挑戦し、「何らからの発信でありたい」もしくは、「平凡への拒絶」を少なからず持っている僕のようなタイプには、複雑な感情が生まれる作品だった。特にツイッターが好きな人たちには、ぜひ観に行って欲しい。


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[イラスト]ダニエル

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