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「夜会工場」言葉の魔術師・中島みゆきの声に心が震える

mame mame


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チョコ食べてますかー!
こんにちは。中島みゆきの「夜会工場 VOL.2 劇場版」を観てから、なつかしい記憶がゴウゴウ燃えて心の震えがとまらない校閲レディのmameです。

みなさんは、「中島みゆき」と聞いて、どの曲を思い浮かべますか?

20代・30代なら「地上の星」?
「糸」は他のアーティストのカバーで知ったという人もいるかもしれませんね。
一方で、バブル世代くらいになると、「悪女」や「うらみ・ます」という人もいるのかも?

 

10代でみゆきさんに出会い、30年以上のファン歴を誇るわたしはというと、「1曲に決められない!」です。友だちと一緒にテキーラの初体験もしましたねぇ……。

こんな風にマイ・ベストが幅を持つのも当然。実は、みゆきさんは、70年代から00年代まで4つの時代でオリコンシングルチャート1位を獲得している、日本で唯一のアーティストなんです。

 

わたしにとって、「みゆきさん=言葉の魔術師」のイメージが強いのですが、みゆきさん自身は著書でこんな風に語っています。

言葉は、危険な玩具であり、あてにならない暗号だ。
『中島みゆき全歌集』

 

平成10年から12年まで、国語審議会の委員を務めたほどの人物でありながら、このお言葉!

同時に、言葉に対する信憑性のなさへの疑心と信心が詩を書かせるとも書いています。「言葉」の力を信じるがゆえに、慎重になる。そんなみゆきさんが、「言葉の実験劇場」として取り組んでいるのが「夜会」です。


https://eiga.k-img.com/images/movie/90585/photo/5fec01684a0842de/640.jpg?1547109929
出典:映画.com

 

1989年。つまり、平成元年の秋に始まった夜会は、今年30周年を迎えました。もはや彼女のライフワークともいえる「夜会」ですが、そのステージの少なさ、チケットのとれなさから、「いったいどんなコンサートなの?」と思っている方も多いことでしょう。

でもね。ひと言で言いますと。

「夜会」はコンサートではありません!!!

「ライブ×芝居」ということで、オペラやミュージカルにたとえられることもありますが、それともちょっと違う。だって、セリフはないし、歌をセリフの代わりにしているわけでもないのですから。じゃあ、なにかと言われると……。「“夜会”は“夜会”です」としか言いようがない。


https://eiga.k-img.com/images/movie/90585/photo/d81e59c79d3bf045/640.jpg?1547109901
出典:映画.com

そんな謎多き「夜会」の一部を紹介するガラコンサートが「夜会工場」で、このたび劇場版が公開されました。喜び勇んで観に行ったスクリーンの中。開演前の、ザワザワとした期待がふくらむ中でバンドの生演奏が始まったときには、鳥肌がたつとともに、30年の日々がドドッとよみがえってきて思わず涙してしまいました。
ただ、映画のレビューには「なんで、みゆきさんがうたってないの?」という疑問が多い。

 

みゆきさんの偉大なステージが伝わっていない!?

 

なんですって!!!

 

という思いから、今回のコラムでは勝手に反論を試みたいと思います。
・「夜会工場」という新たな実験
・出演者に聞く! 「夜会」の舞台裏
これらを軸に書いていきます。そして最後の最後には、そのむかし、コンサート会場でわたしが聞いたレアな話を紹介します。

 

 

「夜会」とは

わたしは何度か「夜会」を観に行きましたが、初回の頃はストーリー性もなく、正直に言って「なんだか風変わりなコンサートだったな」という印象でした。その後、徐々にストーリーを加えて、全曲新曲書き下ろしというチャレンジをするほどに“育ててきた”のです。

とはいってもセリフがあるわけではないので、ノベライズされた本を読んで「あのシーンは、そういう意味だったのか!」と分かることもありました。


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出典:Amazon 数ある「夜会」の中で唯一、再々々演されている舞台の小説版

 

幸せになってはいけないと思い込む女性の秘密、時代を超えて繰り返される復讐劇、言葉の通じない者同士による交流……。ステージの上でみゆきさんは少女になったり老婆になったりしながら、うたい、演じ、自身の表現を追求してきました。

「夜会」は、歌主体のコンサートでもなく、芝居を楽しむ演劇でもない。既存のカテゴリーに当てはめられない、すべてのエンタメを融合して“みゆきさんの脳内を映し出したもの”といえるかもしれません。


https://eiga.k-img.com/images/movie/90585/photo/1ffdd2ae833b25be/640.jpg?1547109900
出典:映画.com 記念すべき第1回「夜会」の第1曲目を再現

 

「夜会工場」は、演出の都合上、上演劇場が限られてしまう「夜会」の一部でも味わってもらおうというもの。過去19作品のステージから楽曲を選び、その歌がうたわれたシーンを再現した超豪華なダイジェスト版なんです。

 

「夜会工場 VOL.2 劇場版」の試み

映画を観て不満を口にする人のほとんどが、「なぜみゆきさん自身がうたわないのか」を挙げています。

たしかに、「夜会工場」では30曲近い歌が披露されるのですが、すべてをみゆきさんがうたっているわけではありません。

「言葉の実験劇場」としての「夜会」は、すでに発表した曲に新たな光を当てて解放する側面を持っているのだそう。また、うたわれる歌も、登場人物の心情を綴っている本当の“歌”。ミュージカルのようにセリフにメロディーが付いているわけではないんです。

出典:中島みゆき公式チャンネル

 
もちろん作詞作曲はすべて中島みゆきで、みゆきさんの歌なのに、みゆきさんがうたってきたのに、「夜会工場」では他の歌手がうたうのです。

なぜ?

 

考えられることは、「誰がうたうか」の実験です。

 

誰もが発信者となれるいまの時代、ポイントとなるのは「誰が言うか」だと言われています。この映画でも、「誰がうたうか」次第で、歌にこめられたメッセージの受け止め方が変わるのかもしれないと感じました。

 

たとえば、第1幕で中村中さんがうたう「Maybe」という曲。1990年の「夜会 Vol.2」で披露され、その後、アルバム『歌でしか言えない』に収められて、シングルカットもされました。

私は唇かみしめて 胸をそらして歩いてゆく
なんでもないわ 私は大丈夫 どこにも隙がない
なんでもないわ 私は大丈夫
なんでもないわ どこにも隙がない

と、新入社員役の中村さんが自分に言い聞かせるようにうたいます。

 

トランスジェンダーとして多くの悩みと葛藤を抱えてきたであろう中村さんが発する「私は大丈夫」というセリフは、みゆきさんがうたった時の意味を越えて、はるかに強いメッセージを届けてくれるように感じます。

 

「誰がうたうか」によるメッセージの深化。これが、みゆきさんの狙いだったのではないか。

Maybe 夢見れば Maybe 人生は
Maybe つらい思いが多くなるけれど
Maybe 夢見ずに Maybe いられない

という歌詞を聞くと、嫌でも自分の現実を思い浮かべてしまいます。それでも、わたしは前向いて歩いていく。握りこぶしをみつめ、ゆっくりと立ち上がる中村さんの歌声からは、そんな覚悟を感じました。

これこそ、みゆきさんが「夜会工場」で実現したかったことなのだと思います。

 

出演者に聞く! 「夜会」の舞台裏

この映画には、「監督」としてクレジットされている人がいません。「夜会」の原作・脚本・作詞・作曲・演出・主演を務めるのは、中島みゆきただひとり。彼女の強烈なイメージを舞台化している以上、その上に「監督」を置けなかったということ? という気もしますが、この映画は、「舞台の嘘」をうまく利用している点でも印象的でした。

「舞台の嘘」とは? を説明する前に、少しだけ思い出話にお付き合いください。

 

実は、わたしは20代後半から30代半ばまで、アメリカ人の演出家で映画監督の女性に師事し、制作の仕事をしていました。映像と舞台における演技の違いやキャラクター作り、役者のリアリティについて彼女から多くのことを学び、「演技をみる」おもしろさを知りました。「細かすぎて伝わらないのでは?」と思う演出に、当時は「鶴も折れないくせにさー」と思っていたことはナイショ。

制作の仕事は過労死しなかったのが奇跡と思えるほど過酷な現場のため、一緒に仕事をしている人たちは“仲間”というよりも“同志”という感じでした。

そのひとりが、猪ヶ倉大介さん。今も舞台監督・美術・俳優として活躍しています。そしてなんと、彼は「夜会」に舞台美術として参加していたんです! 「夜会工場」でもニュースキャスターを演じると同時に、「舞台の嘘」を体現していました。

「舞台の嘘」。
それは、そこにいるのにいないことになっている人、すなわち黒衣(くろこ)のことです。


https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Kurogo.jpg
出典:Wikipedia

 

黒衣は、舞台進行になくてはならない存在で、役者の演技を助ける係です。ですが、ストーリーには関係しない「見えない人」なので、映像化するにあたっては「カット」することもできたと思います。でも「夜会工場」には黒衣が黒衣として登場し、しかも“アクター”として紹介もされているのです。

 

みゆきさんのを感じますね!

これこそ、です!!

 

そんな、黒衣兼アクターの猪ヶ倉さんに、「夜会」の舞台裏を聞いてきました!

猪ヶ倉さんは現在、国立劇場での公演に参加中。還暦を過ぎたと聞いて、時の流れを感じました。業界では大御所なのに気さくで、はるか年下のわたしが「いがっち~」と呼んでも、笑って許してくれる懐の深さもお持ちです(ご本人から、ここは大事だから書いてと言われたので書きました)。

 

―― 「夜会」にはいつから参加してるんですか?
猪ヶ倉(以下いが)「2016年の“橋の下のアルカディア”からかな。伝統芸能の舞台なんかで新しい試みをしようという時、役者としての動きが分かるからって駆り出されることが多いんだよね。“夜会”も演出部と大道具、小道具から何人か出るってことになったから呼ばれたんだよ。得意だろ? って言われてさ」


https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/91qttV5iCbL._SL1500_.jpg
出典:Amazon

 

―― スタッフワークだけじゃなくて、役者もできる・動きが分かる人がいるのは、演じる側にとって大きな安心になりますね。
いが「でも、余計なことしちゃったなーと思うこともあるよ。“橋の下”って、飢饉の村を救うためにみゆきさんが人柱になる話なの。柱に登るための階段をぼくが設置するんだけど、みゆきさんが登っていった後に合掌して頭を下げたんだよね。そんな演出はなかったんだけど、人間としてそうするよなという、ぼくなりのリアリティだったから。後で『おかげであのシーンが締まってよかった』って言ってもらって安心したかな」

 

―― 猪ヶ倉さんらしい!
いが「芝居として成立させたかったんだよね。チンピラの役でも、毎回気持ちを作ってケンカに行ったよ。毎日実験」

 

―― 映画やDVDは観ました?
いが「いや、時間がなくて全然観てない。どんな風に編集されてるのか気にはなっているんだけど。よくぼくに気づいたよね」

 

―― ニュースキャスターが中村さんやディレクターと挨拶しているシーンで、あれ? と思って。エンドロールで名前を発見した時には叫んじゃいましたよ。帰ってからDVDで確認しました。
いが「映画は監督がいないってことだけど、みゆきさんは全部チェックしてるはずだよ。今年の2月に行われた“リトル・トーキョー”の公演が終わった後、付き人さんがそんな話をしてたから」

 

―― ありがたみが倍になった!
いが「“夜会工場”のニュースのシーンもみゆきさんの出番はないけど、袖からずーっと見てたしね。時々笑ってたらしいし」

 

―― ええっ! うたう方はドキドキですね。
いが「中村さんはすごくかわいくて明るいの。ハグが好きなのか、よく『大介さ〜ん!』ってハグしに来てくれてうれしかったね」

 

―― 猪ヶ倉さんは別にみゆきさんファンではなかったでしょう? 稽古から公演まで数か月歌を聴き続けるから、一緒にうたったりしなかったですか?
いが「さすがにしないよ。でも、自転車に乗っている時に、ふいに口ずさんでいたことはあったかな。初めてご一緒させてもらった後は、しばらくYouTubeとかで聴いてたよ」

リハーサル
「夜会工場」のセットを組んでいるところ。撮影は猪ヶ倉大介さん。

 

―― スタッフと俳優の両方やるのは大変でしょう?
いが「でも、“リトル・トーキョー”公演は俳優座の人が出たから、ぼくはスタッフ仕事だけ。セットの移動とか安全に集中できるからリラックス度は違うよね。むかし、蜷川幸雄さんの公演に演出補として入ったことがあるんだけど、その時は通し稽古を1日1回しかやらなかったの。役者ができなかったら、30分で稽古終了」

 

―― 怖いっ! 一番大変だったなという思い出はありますか?
いが「毎回楽しかったから、大変というのはないんだけど。みゆきさんのファンなら知ってるでしょ? みゆきさんって歌詞とか覚えてないんだよね。そういう意味でのハプニングは毎回あったかな。立ち位置違います! とかね」

 

―― やっぱり! みゆきさんのコンサートでは、どこで間違うかを楽しみにしているところもあったんですが、「夜会」だとやり直せないから大変だろうなと思っていました。
いが「“夜会工場”はあんまり間違えてなかったかな。実は、“夜会”ってバンドもスタッフもけっこうシルバー世代なの(笑)。そろそろカンペいるかな? って冗談で言ってたこともある」

 

―― 暴走族もおじさん?
いが「おじさんとおじいさんだね。バットを持って出たのにマイク忘れてたり」

 

―― それくらいベテランじゃないとできないということですか?
いが「それもあるだろうね。夜会組みたいな慣れたスタッフが集まってるし。ミュージシャンとはあんまり交流がなかったけど、リハーサルは厳密だったよ。1週間くらい音だけのリハがあって、動きと合わせてやってたから」

 

―― マイクもハンドマイクですものね。
いが「あれは、歌い手としての、みゆきさんのこだわりなのかもしれないね。“夜会工場”はダンスのシーンがあったから、彼女たちだけミュージカル用のマイクをつけてもらったけど」

 

―― 歌詞を覚えてないという話でしたが、CDに収録されている曲と“夜会”の曲は歌詞を変えているものもあるんですよ。
いが「確かに、そのための台本を作ったり曲を作ったりしてたね。だから覚えられないんだってかばいたいわけ? あんたもセリフ覚えなかったもんね。マネしてたの? 好きだと似ちゃうの?」

 

―― その話は結構です。みゆきさんって無茶ぶりもするんですか?
いが「“橋の下”は、飢饉の村が舞台だからみんなヨレヨレになっていてほしかったみたいなんだよね。ぼくの先輩ですごく太っている人が、それでも一応、口を開けてフラフラ歩いて見せたの。で、『あの人は違う』ってダメ出しが入っちゃって(笑)。俳優じゃなくて大道具の人なんです、すみません、って説明して納得してもらった」

 

―― それはどうしようもない(笑)。“夜会工場”のニュースのシーンも出演者はスタッフさんですか?
いが「カメラマンは小道具の人。石田さんがぶつかって怒る役の人は、演出部で普段はキュー出しをしてる」

 

―― 衣装替えもあるから慌ただしいですね。
いが「黒衣の時はつなぎで、スーツのシーンもあったからね。衣装合わせもしたよ。でも、ぼくがいつも考えているのは舞台の上でのリアリティだから」

 

―― お互い、あの頃の教えが抜けませんね。猪ヶ倉さんにとって「中島みゆき」といえば、どの曲ですか?
いが「“時代”かなぁ。いまはよく“テキーラを飲みほして”を聴いてるよ」

 

―― 「夜会VOL.5」の時の曲ですね。「夜会工場」には入ってないけど、昔のアルバムの収録曲で名曲です!!! 本日はありがとうございました。

 

「夜会」を体験する価値

「夜会工場」はすでにDVDが発売されています。が、ここはやっぱり映画館の5.1サラウンドの迫力の中で観てほしい。
「夜会」のテーマ曲である「二雙の舟」は、今回、インストゥルメンタルのみ。ここにも、「誰がうたうか」の実験というみゆきさんの意図を感じます。


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出典:Amazon

 

みゆきさんは歌の中でいつも、どうにもならない現実をつきつけてきます。歌詞の役割は、最初にご紹介した『全歌集』の一文のように、<危険な玩具であり、あてにならない暗号>です。

わたし自身、ずっと言葉を扱う仕事をしてきて、人を傷つける言葉も力づける言葉も、どちらも味わいました。そして今回の映画で一番ドキッとした歌が、第2幕「問う女」でうたわれる「あなたの言葉がわからない」です。

あなたの言葉がなんにもわからない
あなたに心がないのかと間違える

 

映画を観てからずっと、胸に手を当てて問うようにしています。わたしはちゃんと、心を添えているだろうか、心を感じようとしているだろうか、と。みゆきさんがうたうどの曲にも答えなど見つからない。ただ、自分の中の“なに”が反応するのか。それをずっと見つめたいと思うのです。

 

 

「中島みゆき」という強烈なオリジナリティは、その世界観があまりにも強過ぎて、近寄りがたいと感じる人もいるかもしれません。でも、体験しないのはもったいないです。これだけの言葉を紡ぎだす、その声を直接聴いてほしい。


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出典:映画.com

 

そして体験するときは、みゆきさんが映画の中で言うように、「な~んも考えないで、ぼ~~っと観て」感じればよいのだと思います。わたしたちは、稀代のアーティストによる「言葉の実験」の立会人なのですから。

 

「夜会」の思い出と映画の友

豆好き・チョコ好き・あんこ好きとして、コラムでは毎回「映画の友」をご紹介しています。ですが、西島編集長は夏に向けてシックスパックの作りこみに忙しいという情報が! うっかりスイーツの相談なんてしたら怒られてしまうかもしれない。そこで、今回はみゆきさんの好きなおやつ一択で決めました。

それが、こちら。「麦チョコ」です。

むぎちょこ

 

かつて、ラジオで語っていたと記憶しています。サクッとふわっとした食感が好きで「やめられない止まらない~」なのだそうです。

 

1989年、初めての「夜会」が上演されとき。わたしは関西の田舎町から行ったんですよね。思えば、あれが2度目の東京で、初めての東京も、もちろんみゆきさんのコンサートのためでした。

 

同じくみゆきさんファンの友だちとふたり、親に内緒で夜行バスに乗り、学校をさぼってたどり着いた東京は、とても怖かった。だって、その前年のコンサートで「夜会」を始めることを発表したとき、みゆきさんは言っていたんです。

「渋谷のBunkamuraホールってとこでやるんだけどもさ。新しくてみんな知らないと思うから、迷ったら渋谷駅で聞いてね。『ホテル街どっち?』ってさ。ガハハハ」

そう。
いまでは渋谷の文化発信地となっている「Bunkamura」がオープンしたのは、1989年の9月。その2か月後に、最初の「夜会」は開催されたのです。

「本物の火とか水とか使うから、他のホールだと許可が出ないのね。で、渋谷のそこだけOKになったの。だから、ここに来て。そんでもって、普通のコンサートって7時くらいに始まるからお腹空いちゃうでしょ? だから“夜会”は8時に始めることにしたの。仕事終わって、ちょっとだけ何かお腹に入れても間に合う。そんなわけだから、渋谷で会いましょう」

なんてMCをしていたことを思い出します。「夜会」はファンへの愛を形にしたものでもあったんだなぁ。

今夜は、麦チョコをつまみに、テキーラを飲みほしたい。

 

Special thanks:猪ヶ倉大介さん、霜田明寛さん(@akismd)


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[イラスト]ダニエル

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