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「マスカレード・ホテル」では信じる者は救われないぞ!

高桑のり子 高桑のり子


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東野圭吾の大型シリーズである「マスカレード・ホテル」を観てきました。

私は原作ファンなので、どうしても「わぁ! すごいわ! あの人が犯人だったなんてぇ! 目から鱗がポロリぃ〜」と、素直に観れないのが辛いところで・・・どうしても小説と比べてしまい、少し違う視点での見方をしてしまったような気がします。

これまでの映画コラムは、素直な文章を心がけこんな素直な子が、街角のクリエイティブでライターをしているんだね。世の中捨てたもんじゃないね」と思われるように書いてきましたが、今回はちょっと捻くれた視点も含めて書いてみようと思います。本作は、

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・豪華な舞台セット

・事件が起こる前の平和な音楽が醸し出す不気味で軽快な音楽

・キャスティングだけで犯人だと観客がジャッジを下さないよう、カモフラージュさせるべくして集められた豪華な俳優陣

・ヒットが求められる作品で、期待に答え続けるキムタクの、キムタクに合わせて微調整された脚本

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全てが相まって期待以上の作品に仕上がっています。


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出典:IMDb

ただ一つ言えることは、やはり500ページ超の小説を約2時間の映像に収めるのだから、どこを端折るか、どこを強調するかが脚本家、監督には求められたのではないかと思います。

映画館で、私の一つ隣に座っていたカップルの彼女が「え〜! 第一の事件の動機って何だったけ? これはどう繋がってるの?」という疑問を彼氏に投げかけていましたが、

「このヤロ! 丁寧な説明はなかったけれど、さっき小日向さんがさらっと説明してたじゃないか。見逃すんじゃないよ!」

と席を飛び越えてお説教してやりたくなりましたが、知り合いに嫌われるならまだしも、知らない人に嫌われるほど無駄なことはないだろうと思いとどまりました。

しかし、この彼女のように「第一の事件は、こういうことでいいんだよね?」と、小さな疑問を消化しきれない観客はいたのではないでしょうか。

ミステリーに割く時間のウェイトが少なく、謎解きやトリックという要素が、あまりない作品ですが、大事な部分をサラッと説明されてしまうので、まだ観ていない方はしっかり観て欲しいなと思います。


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出典:IMDb

さて、本作の舞台となった『ホテル・コルテシア東京』には、連日、個性豊かな客が往き交います。

一つのホテルを舞台に繰り広げられる様々なケースの出来事、心情、そして事件。ホテルという非日常を味わえる空間で起こる事件と聞けば、トリックやミステリーを期待する(した)人も多いかと思いますが、本作の見所はホテルを訪れる多種多様なお客様です。


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出典:IMDb

不可解な行動を通り越して、ただの悪質クレーマーと化している人もいれば、ホテルマンを騙し、騙されてくれたことに対し「とても素晴らしいホテルだったわ」と微笑む、サイコパスっぷりを発揮する夫人まで存在します。

「全員を疑え。犯人はこの中にいる」

という言葉がキーとなる本作。

「全員怪しすぎるやろ。そら犯人の一人や二人混ざっとるわな」

とツッコミを入れたくなる本作。

注目すべきは、ホテルのペーパーウェイトと、相反するバディの存在

*****

人を疑うことが仕事の刑事

お客様を信じることが仕事のホテルマン

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仮面を疑い、剥がし、本性を暴こうとする新田と、仮面であると気付きながらも受け止めることがホテルマンとしての仕事だと断言する山岸。

性格的にも仕事的にも相反するバディが捜査を進めていく面白さが見所です。

帰国子女で英語が堪能であるという理由だけで、フロントクラークになりすまして事件を追うことになった新田(木村拓哉)、新田の教育係となった、終始激オコな山岸(長澤まさみ)。プロの刑事とプロのホテルマンが互いに認め合いながら事件を解決していく、というのがざっくりとしたあらすじ。


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出典:IMDb

本作のキーアイテムとなるのは、事あるごとにアップで映し出される『ペーパーウェイト』です。

ホテルの備品でありながら、『ペーパーウェイト』がまっすぐに保たれている時は、ホテルの秩序が守られ正常に機能していることを表しています。

ラストシーンで、犯人が潜んでいるか見破るキッカケとなったのも、『ペーパーウェイト』の乱れでした。

それだけでなく、不本意ながらフロントクラークに配属されてしまった刑事の新田が、最初は『ペーパーウェイト』の乱れを無視するも、中盤より少し前から自ら『ペーパーウェイト』を正します。

山岸の、プロのホテルマンとしてのプライドを垣間見た新田が、ホテルマンの仕事を認め、ホテルマンとしての(実際は刑事だけど) 秩序を守り始めた瞬間だと感じました。

その証拠に、事件が解決した終盤、新田は『ペーパーウェイト』の乱れを直しません。潜入ホテルマン・新田から、刑事・新田へと戻った瞬間を『ペーパーウェイト』を使って表す演出に、鳥肌が立ちました。

 

私は購入しませんでしたが、ペーパーウェイトを購入している方も多く見られました。

今までの東野圭吾作品とは一味違うクラシカルミステリー

『ホテル・コルテシア東京』は、エントランスを潜ると左右対称のフロントロビーが目に飛び込んできます。

高級ホテルに宿泊した経験が乏しいので表現力も乏しくなりますが、映画『タイタニック』のエンドロールで流れる、ジャックとローズが皆に祝福され抱き合う回想シーンのような、重厚で魅惑的な雰囲気を放つホテルです。

「ホテルコルテシア」には犯人でなくとも不可解な客が多数宿泊しています。

主人公が配属された場所がフロントクラークということもあり、エントランスからフロントまでのシーンが多かったのが印象的。

ほぼ、エントランスとフロントで、不可解な動きをする登場人物が「客をなんだと思ってるんだ!」と怒鳴り散らしたり、「俺は客だぞ!」といばり散らしているのですが、私なら「やかましいわ! 引っ込んでろ」と逆に怒鳴り散らして即クビになるような案件ですが、どのような客にもホテルマンたちは誠実に対応します。

それが事件に繋がるキーパーソンであったり、一瞬だけ登場する人物であったりするわけですが、犯人でなくとも、なんらかの心の闇というか悩みを抱える人たちなのです。

事件の犯人は誰なのかを疑いの目で観る面白さも本作にはありますが、それとは別にヒューマンドラマとしてハラハラドキドキする要素も存分に含まれており、序盤から終盤まで脳みそフル回転で楽しめます。


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出典:IMDb

また、時間の移り変わりを表す時、『ホテル・コルテシア東京』の外観が事あるごとに映し出されます。

夜の「コルテシア」はこれから起こる事件を彷彿させるような、不気味で怪しげな魅力を放ち、朝になるとまるで何事もなかったかのように清々しい外観へと戻ります。

これ自体が映画上の演出かどうか定かではありませんが、私は夜と朝のホテル「コルテシア」をまるで違ったように写し二面性を持たせる事で、マスカレード(仮面舞踏会)の怪しさを再現しているようにも感じました。

・マスカレード=仮面舞踏会

・高級で重厚なホテル

・暗号

・相反する相棒(バディ)の存在

・平素的な空間で起きる事件

など、東野圭吾シリーズ『ガリレオ』『新参者』とはまた違った、クラシカルなミステリー要素を含む雰囲気に惹き込まれてしまいます。

東野圭吾『マスカレード・シリーズ』、小説から考える映画の見所とは?

まず本作の「マスカレード・ホテル」は『ガリレオ』や『新参者』に続く、東野圭吾作品の大型シリーズ『マスカレード・イブ』『マスカレード・ナイト』の1作目に当たる作品です。

東野圭吾の作品は、割と早くにドラマ化、映画化が決まるので、私自身映画化されれば絶対面白くなるよなぁと思っていたし、漠然と映画を意識した作品な感じがしていました。


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2作目『マスカレード・イブ』は、新田と山岸が出会う前のスピンオフ作品。


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3作目『マスカレード・ナイト』は、正直『マスカレード・ホテル』より面白いです(笑)


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私はマスカレードシリーズを順序よく1作目から3作目まで読みましたが、映画を観た後に読めば、豪華な舞台セットや不気味でありながらバックを盛り立てる音楽が回想し、より楽しめるのではないかと思っています。

映画化された「マスカレード・ホテル」には、

ホテルに泊まるお客様は、みんな何かの仮面を被っている

という台詞が出てきます。事件そのものではなく、ホテルを行き交う客そのものが様々なケース、心情に入り乱れ事件の真相を目くらましします。ストーリーとしてはコテコテのミステリーであり、トリックを見破る推理ものではありません。

さらに、このような小説ミステリーにおいて、映画化された時のキャスティングって難しいと思いませんか?

今回は「全員容疑者」というコピーがデカデカと載るほど、まさに、キャスティングされた俳優陣全てが不審な行動を取っています。


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出典:IMDb

「この中に犯人がいるんだな」という程で観ている観客たちは、キャスティングされた俳優の知名度によって、

「この人は有名な俳優だから、この後さらに何らかの行動を起こすのだろうな」とか

「この人はそこまで名が売れてる俳優ではないから、ただ不審な行動を取っているだけだろう」

と、勝手にジャッジを下してしまいます。

小説であれば顔がわからないので、名前だけでイメージを膨らませるため、いきなりジャッジを下すことはないでしょう。それが小説の面白さであると同時に、映画のように、視覚的に楽しめる要素との違いであると思います。

「マスカレード・ホテル」に登場する俳優陣たちはまさに「豪華」という形容詞を添えたくなるほど、有名で名の知れた方ばかりです。

誰が犯人となっても違和感がないほど豪華有名人をキャスティングしているのですが、キーパーソンとなる人物から一瞬で出番が終わってしまう人物まで、ストーリーを盛り上げています。

原作に忠実に再現された映画ではありますが、それでも「あー、この人が犯人だったのか」と思わず呟きたくなるほど、キャスティングが絶妙だなと感じました。

【ここからネタバレ!】映画のポスターとキャスティングを観察すると犯人がわかるんだよね、実は

ここからはネタバレを含み、犯人がわかってしまうので、映画をご覧になってからお読みいただければと思います。

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「マスカレード・ホテル」公式サイトのファーストビューとしても映し出され、ポスターにもなっている以下の画像ですが


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出典:IMDb

観た人であれば、「むむ?!?!??」とお気づきになる方もいるのではないでしょうか。

ポスターに載っているキャスト陣全て、主要人物として載っているのですが、登場人物の中で、本作であれだけ目立っていた老婆(犯人)がポスターには載っていません。

老婆役のキャストはポスターの中にいるけれど、誰かはわからない。

即ち、犯人はこの中の誰かが老婆に扮していると勘のいい方なら観覧中にお気づきになったかもしれません。

松たか子が「松たか子」自身の姿(変装しない姿)で「ホテルコルテシア東京」に現れたのは、犯人であるとカミングアウトしてからです。

*****

「全員疑え、犯人はこの中にいる」

というコピーを囲むように配置されたキャスト陣の写真。その中で唯一、疑う余地のある老婆が掲載されず、終盤まで一度も出番のなかった松たか子がしっかり掲載されている事実こそが、

「全員疑え、犯人はこの中にいる」

と私たちに

「ポスターをじっくり見て、全員をしっかり疑え。犯人はポスターの中にしっかり写り込んでいるぞ!」と訴えかけているようにも感じます。

コテコテのミステリーだが、信じるのか、疑うのかを問う作品でもある

信じるのか、疑うのか。

刑事の新田と、ホテルマンの山岸、相反するバディの存在で、この部分が非常に色濃く表現されています。

常に疑いの目を向けることが刑事の役割であり、本性を暴こうとする新田が直面する、信じることでしか得られないこともあるという事実。

反対に、ホテルマンとして客が仮面を被っていることを前提とし、それを受け入れ、持て成し、信じる山岸が直面する、信じるだけでは騙され失望するという現実。


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人と人の関わりの中で、100%信じあっている人間は、果たしてどれほどいるでしょうか。

私は、赤ん坊と母親、また子供と母親は確固たる信頼で結ばれていると思っているのですが、それ以外の人間は、夫婦であっても多少なりとも疑いが混じる関係性の上で成り立っているものと思っています。

信じることは尊いことであり、多くの映画や作品で「信じるとは」の是非を問うものが世の中には存在します。

しかし、それには正解がなく、相手を絶対的に信じなければいけない必要もなければ、疑う必要もありません。

「マスカレードホテル 」では、信じることと疑うことの先、その両方があって初めて人間関係は成り立つものだということが描かれています。

人を疑うことが仕事の刑事と、人を信じることが仕事だと言い切るホテルマン、2人が行き着いた答えこそが、本作を通じて作者が伝えたかったことなのではないかと感じました。

最後になりましたが、本作では、結婚したばかりの前田敦子と勝地涼の共演が話題になっています。撮影時はまだ結婚していない2人が共演、しかも前田敦子は素敵な花嫁姿で、幸せいっぱいの役です。


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出典:IMDb

反して勝地涼は、前田敦子をストーキングし、女装し、取り押さえられる役ということで、なんていうんでしょうね、芸能界の縮図を垣間見た感じがしましたね・・・知らんけど。

おっしまーい!

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