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「アリー/スター誕生」は新たなスター監督誕生の物語だ。【ネタバレあり】

金子ゆうき 金子ゆうき


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ザ・ビートルズ『デイ・トリッパー』
レッド・ツェッペリン『胸いっぱいの愛を』
メタリカ『メタル・マスター』
ニルヴァーナ『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット』

歴史に刻まれる曲がそうであるように、ギターリフは音楽、特にロックにとって重要な存在。イントロから繰り返されるギターの音に身体は動き、心は引き込まれ、曲の虜に。「アリー/スター誕生」冒頭にかき鳴らされる『ブラック・アイズ』のヘヴィーなリフは曲へ、そこから始まる物語へ見事に引きこんでくれました。

というわけで、はじめまして。

古いロックと映画が好きな僕、金子ゆうきが「アリー/スター誕生」を紹介していきます。ネタバレ満載なので映画を見てから読んだほうがたのしめます。

見て、聴いて心から良かった映画だと保証しますから。

たっぷりの不安要素を軽やかにこえた

「アリー/スター誕生(原題A STAR IS BORN)」なんですが、少し考えると不安要素がたくさんなんですね。今回が3回目のリメイク。初作品は1937年公開、そのあと54年、76年に2回リメイクされました。37年、54年版は映画界が舞台。76年版からは音楽界へとかわりましたが、基本はすべておなじ。


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1937年版 出典:IMDb


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1954年版 出典:IMDb


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1976年版 出典:IMDb

世界的な成功をおさめるも全盛期をすぎた男性と、彼に才能をみいだされ新たなスターとして成功の階段を駆けあがる女性のかなしいラブストーリー。ラストで男性が死んでしまうこともおなじ。古典的でありがながら普遍的に胸をうつ物語ですが、流れを踏まえつつ現代性を持たせなくてはならず当然のように過去作とも比較される。かんたんなことではなさそうです。これが最初の不安要素。

主演はレディー・ガガ。2008年にデビュー、世界的な歌姫に。音楽面での心配はなさそう。


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出典:IMDb

映画初主演の女優としてはどうか。2013年「マチェーテ・キルズ」に殺し屋役としてカメオ出演し、2015年TVドラマ「アメリカン・ホラー・ストーリー:ホテル」に主演。ゴールデン・グローブ賞テレビ部門主演女優賞を受賞しています。


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出典:IMDb

ヴァンパイアの伯爵夫人役で、エキセントリックで奇抜なパフォーマンスをするレディー・ガガのイメージに沿ったものといえますが今作は歌手を夢見る20代の女性。演技は大丈夫? 2つ目の不安要素。

ガガの相手役、世界的なカントリー・ロックミュージシャンにはブラッドリー・クーパー。2011年に米ピープル誌から最もセクシーな男性に選ばれるほどセクシーが止まらないイケメンですね、うらやましい。


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出典:IMDb

2012年「世界にひとつのプレイブック」で第85回アカデミー賞主演男優賞にノミネート。以降「アメリカン・ハッスル」、クリント・イーストウッド監督「アメリカン・スナイパー」と3年連続でアカデミー賞にノミネートされ俳優としては申し分ないですが、音楽面はどうか。・・・歌えるんですか? 不安要素、3つ目。

そして最後4つ目の不安要素は、ブラッドリー・クーパーが初めての脚本・監督だということ。しかもこのリメイク、当初はクリント・イーストウッド監督、ビヨンセ主演で進行していました! ビヨンセの妊娠やイーストウッド監督が他作に取りかかったことなどで立ち消えた企画をブラッドリー・クーパー監督で再始動させたと。ブラッドリー・クーパーはクリント・イーストウッド監督と師弟関係といわれてまして師匠の企画を弟子が受けつぐという胸熱展開。しかし映画監督の師弟関係ってどんな感じなんでしょう・・・。車のワックスがけの修行するんかな。


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ワックスオ~ン! ワックスオ~フ! 出典:IMDb

・・・ちがいますね。

「アメリカン・スナイパー」では製作としても参加していてクリント・イーストウッドの近くで監督業について学んでいたということでしょうか。巨匠の師匠から初監督の弟子へ。これはめちゃくちゃハードル高いですよ。

しかししかし、やってくれました!
すべての不安を払拭したと思います。
今作含め54年版、76年版と見ましたが遜色ない傑作ではないでしょうか。

ライブシーンは本物のフェス会場

物語は、ブラッドリー・クーパー演じるジャクソン・メイン(ジャック)のライブシーン、冒頭でふれた『ブラック・アイズ』からスタート。重いギターリフに続くBlack eyes open wide~の歌声に度肝を抜かれました。歌えるじゃない! 渋い44歳のカントリー・ロックミュージシャンにしか見えなくなります。サビのシャウト、ギターソロと驚きっぱなし。バンドの演奏もすばらしいし、ライブの臨場感もとんでもない。1年以上ボイス・トレーニングを重ね、ギターも習得してきた努力の賜物でしょう。


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出典:IMDb

ちなみに、衣装やたたずまいはアメリカのロックバンド、パール・ジャムのボーカル「エディ・ヴェダー」を意識していると語っています。


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エディ・ヴェダー。かなり似せてきていますね。 出典:Wikipedia

バンドのギタリストはカントリーミュージシャン「ルーカス・ネルソン」。ルーカス・ネルソン&プロミス・オブ・ザ・リアルとしてバンド活動を行い、バンド丸ごとでジャックの演奏シーンに参加しています。ルーカスは共同プロデューサー兼共作者としてサントラにも参加しており『ブラック・アイズ』はじめ6曲にクレジット。ブラッドリー・クーパーにギターの指導も行い全面的に音楽面を支えました。ルーカスのお父さんは「ウィリー・ネルソン」。こちらも世界的なカントリーミュージシャンです。劇中、ジャックのもとを離れたお兄さんボビーが「最近はウィリーと仕事をしている」というシーン、あきらかにウィリー・ネルソンのことです。ボビーはスタッフとしてもとっても優秀。


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兄ボビー。対立していた2人が車で同じ方向を向き素直になるシーンもとてもいい・・ 出典:IMDb

ライブシーンに臨場感があるのも当然で、本物のフェス会場でゲリラ的に撮影されたもの。カントリー系フェスのステージコーチの演者交代の間の8分間を使った一発撮り。本物の会場、観客ならではの圧巻の臨場感です。ライブシーンは多数出てくるんですが、観客目線が一切ないんですよね。監督も語っていて、演奏者が大観衆の前でパフォーマンスする気持ちを追体験してほしいという想いからステージ上からの視点のみ。客席ではなくステージに立っているような映像になっていて、2人のストーリーに没入できるという点からも大成功でした。ステージコーチの他にも、アメリカの「コーチェラ・フェスティバル」イングランドの「グラストンベリー・フェスティバル」といった世界を代表するフェスでのゲリラ撮影を行っていて、どのライブシーンも見ごたえがありましたね。

ライブシーンのあとアリー(レディー・ガガ)が登場。トイレで絶叫、そのあと歌いながら自らのライブ会場に向かいます。生肉ドレスを身にまとう、胸から火花をちらすレディー・ガガではなく歌での成功を夢見る女性アリー、非常に自然な姿です。ブラッドリー・クーパーの歌えるじゃない! と同じく、演技できるじゃない! と思わせてくれた。そして、最初のトイレのシーンからカメラは常にアリーを中心にとらえ続けます。彼女の才能が、多くのひとの心を捉えるものだと示すかのように。監督の演出ですよね、これは。監督、やるじゃない! 
もう冒頭の数分でやってくれます。あとは映画の世界に浸っていればいいんです、よかったよかった。

さていよいよアリーが歌うシーンにつながるわけですが、ちょっと寄り道。

出会う前に、物語のエッセンスがたっぷり

このまま帰りたくない、どこかに寄ろうとバーに向う道中、首つりを想起させる縄の看板が写され、運転手の息子が17歳で野球の奨学金で大学に行けそうだなんて話をする。父の影から離れられず首つり自殺してしまうラストを暗示していると思えてきます。メンフィスで旧友のギタリストに介抱されるときも息子のことを気にしますよね。ジャックにとって「父と息子」は絶望的に切り離せないものなんですね。

バーで飲むのは、ジンのロック。あれ? と思いました。過去作にジンはでてきません。1751年にホガースが描いた『ビール通りとジン横丁』という絵画を想起させるためだと思います。ミルクよりやすくて度数が高いジンで町中が崩壊しているさまを描いていて、アルコールで身を滅ぼすジャックの未来をさらに暗示させます。


https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d0/William_Hogarth_-_Gin_Lane.jpg/800px-William_Hogarth_-_Gin_Lane.jpgビール通りとジン横丁 出典:Wikipedia

スター誕生って物語の大筋がわかっているわけで、気付く人にはニヤリとさせてくれるあたりニクいです。ブラッドリー・クーパーは脚本としても参加していますが、他に2人がクレジット。ひとりがエリック・ロス「フォレストガンプ/一期一会」でアカデミー脚色賞を受賞した実力派です。音楽面でのルーカス同様、脚本でも実力者が監督を支えていたわけです。

道草を食いましたが、アリーが歌うのは『ラ・ヴィ・アン・ローズ(バラ色の人生)』。妖艶な姿と力強い歌声に魅了されます。実はこの曲、劇中だけなく実際にブラッドリー・クーパーがレディー・ガガにアリー役をオファーするきっかけになったんだとか。チャリティ・イベントで彼女のラ・ヴィ・アン・ローズを耳にし、感動したからだといいます。ジャックのまなざしは演技だけでなく実際の体験からもきていたんですね。

スター誕生は同性愛コミュニティとのかかわりが深い

ドラァグ・バーにも意味があります。ガガはデビュー前、ゲイ・コミュニティとかかわりを持ち、初のテレビ出演もゲイ専門チャンネルLogoのライブイベントでした。同性愛者への支援活動については有名ですね。

で、そもそも「スター誕生」という作品自体が同性愛者とのかかわりが深い。54年版の主演ジュディ・ガーランド、76年版のバーブラ・ストライサンドはいずれもゲイ・アイコンとして捉えられる女優。そして、現代のゲイ・アイコンとしてレディー・ガガに繋がる。

しかもしかも、アリーが職場からバーに向かう時に口ずさんでいたのは映画「オズの魔法使い」の劇中歌『虹の彼方に』(ドリス・デイカヴァー版冒頭部分なので分かりづらいですが)、主人公ドロシーを演じたのは54年版の主演ジュディ・ガーランド。「ドロシーのお友達?」が同性愛者であることを確かめるための隠語としてつかわれるほど同性愛者に親しまれている作品なんですね。知りませんでした。アリーの歌声を印象づけつつ、同性愛者とのつながりを含めた過去作への敬意を両立させた演出といえます。

監督、ほんとうにあなた新人さん?

名前にあらわれる女性像

そのまま警官が集まるバーへ。からんできた男をアリーが殴る。スーパーの駐車場で冷凍豆で指を冷やしながら、アリーの作曲の才能にジャックがきづいていく。「アリーが殴った」んですよ。これ、過去作からガラッと変えてきました。54年版と76年版、いずれも出会いのシーンでは男性側が殴る。監督はアリーを男性に引っぱられるだけの存在として描きませんでした。

この違い、名前にも。

過去3作とも女性の名前はエスター。旧約聖書に登場するエステルの英語名で、歴史物語『エステル記』の主人公であるユダヤ人女性のこと。ペルシャ王クセルクセス1世の治世時、捕囚民に娘として引き取られ、王宮に集められた美しい娘たちの一人に。そして、王に気に入られ王妃となった人。見初められて成功するというストーリーを想起させる名前なんですよね。

今作はアリー。名前の由来はアレクサンドロス。古典ギリシャ語で「男達を庇護する者」を意味するものです。王に見初められた女性から男をまもる存在へ。それを象徴するようにアリーは酒におぼれ堕落していくジャックを見放さず守ろうとしていきます。自らのライブ前、スタッフとの円陣で夫の幸せも祈るほどに。

名前と誰が殴ったかでみごとに現代のスター誕生を成立させたといえませんか。

監督、ほんとうにあなた新人さん?

歌い手の切り替えに鳥肌

ふたりは、恋におちました。家に向かうアリーにジャックが「もう一度、顔が見たかった」という。過去3作にもすべて出てくる決まり文句なんですが、ジャックが生前アリーに言う最後のことばになるんですよね。2回目にみると、このセリフだけでグッときます。

家にはたくさんのおじさんたち。

・・・いや誰だよ! 

アリーのお父さんは自宅を事務所として使っているようで運転手仲間でしょうね。

脱線ついでに日本の競馬中継、馬の名前が「ヤコブのはしご」とか「ビッグヤフー」とか、なかなかのぶっ飛び具合。「ヤコブのはしご」はタイタニックと絡めてきたのでしょうか。いや、深読みのしすぎは僕にはできません。

そしていよいよ、ステージデビュー。曲はゴールデン・グローブ主題歌賞受賞の『シャロウ』 駐車場で耳にしたフレーズにアレンジをつけてバンドで完璧に演奏する。ジャックすごすぎ! いやいや無理でしょ! と思いますが

野暮なこといっちゃあいけません。

それだけアリーとの出会いでミュージシャンとしての集中力が発揮されたんです。ジャックからアリーにマイクはバトンタッチ。こちらにも緊張感が伝わる歌いだし。

そしてサビで一気にキーが上がる! 

緊張から開放され手を広げるアリーの圧倒的な歌声に鳥肌たちまくりです。


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出典:IMDb

うわー!! となります。見守るジャックの表情もいい。

物語が進むとエレクトリカルなダンス・ポップになるんですが、アリーの魅力は歌声なんだと真正面から突きつけられる快感といったら! 最高です。自室に飾られるキャロル・キング『つづれおり』のジャケットからも分かるとおり、アリーの才能の本質は自ら曲をつくり歌い上げる力なわけです。


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キャロル・キング つづれおり 出典:Amazon

才能をみいだしたジャックからの歌い手の交換がはまっているんですよねえ。
サントラでもこの瞬間は鳥肌たちます。

歌い手の切り替わり、さらに有効に使われているシーンがあります。

ジャックの追悼公演でアリーが歌う『アイル・ネヴァー・ラヴ・アゲイン』


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出典:YouTube

髪色を戻し、薄メイクのアリー。最後のサビ前でジャックがピアノで弾き語るシーンへと転換。『アイル・ネヴァー・ラヴ・アゲイン』はアルコール依存症治療中にアリーが歌詞を見つけたあの曲でした。

歌いだしからそうだろうとは思わせるが名言しない。歌い手の切り替えで明かします。

シャロウの緊張感からの盛り上がりとは対照的に、歌の最高潮で急に静かなピアノ弾き語りへ。

もうね、こんなことされたら泣かずにはいられないですよ。しかもジャックが歌うシーンでは歌詞の字幕が「俺の心を」としっかりジャック目線になっているんですね。

いやほんとうに、初監督なんでしょうか。
ブラッドリー・クーパー監督というスター誕生な予感がしてきました。


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出典:IMDb

その確信を更に強める話をしていきます。

新たなスター監督誕生

ジャックは酒で身を滅ぼしていきますが、お父さんの存在が根底にありそうです。父が53歳、母が18歳の時に誕生したのがジャック。母は出産の際に亡くなりジャックは母を知らない。

父はアリゾナのピーカン農場ではたらく飲んだくれ。アリーが母性でつつもうとしてもいまひとつジャックには響きませんでしたが、ジャックは母の愛を知らないんです。

耳の不調も最初は生まれつきだといっているんですが、治療中、補聴器をつけたおじいさんに告白するときはお父さんの蓄音機に頭を突っ込んだせいだと。自分から?きっと違いますよね。虐待されていたんだと思います。


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お父さんへのこだわりが垣間見える口論 出典:IMDb

飲んだくれでもブルースの才能があったお父さんに頭を突っ込まれていた。後遺症として難聴になった。ちなみにジャックとアリーが結婚式をあげるメンフィスは「ブルースの聖地」といわれており、ブルース好きだったお父さんも思い入れをもっていたのではないでしょうか。

ジャックは父の姿を追いつづけます。ギターを弾きながら、歌いながら。酒におぼれることで父の姿をみていたのかもしれません。それはアリーも気付いていた。心の底では自分のことを見てくれていない悲しさがあった。

アリーが歌う『ヒール・ミー』 「heal me(わたしを癒して)」と繰り替えされるサビが「hear me」にも「see me」にも「feel me」にも聞こえてきます。The Whoが生んだロックオペラ『トミー』の主人公少年トミーが視覚・聴覚・発話に異常をきたし「See me,Feel me,Touch me,Heal me.(ぼくを見て、ぼくを感じて、ぼくに触って、ぼくを癒して)」と叫ぶように。

すれ違いの最高潮がバスルームでの口論。幸せの絶頂にあったころはメイクをしてじゃれあったバスルーム。酔ったジャックに飲んだくれの父の代わりをしてやろうかとアリー。指の先まで才能が詰まっていた父を侮辱するな醜い女と言ってしまうジャック。巨大な音楽マーケットに迎合するダンス・ポップをセクシーな衣装で歌い踊るアリーに対する苛立ちや嫉妬もあったと思いますが、結局は父を侮辱されたことが我慢できなかった。妻としてどころか、見てもくれていないと感じたアリー。埋められない大きな溝が2人の間に。それはもはや浅瀬(シャロウ)ではなかったんです。

そしてグラミー授賞式での大失態と依存症治療。ジャックは父の影を捨てきれない自分に向き合ったのかもしれない。プールから上がってくるシーンがありましたね。『シャロウ』では深く深くもぐり誰からも傷つけられないところへと歌いながら、結局は水から上がり現実と向き合った。

家にもどっても平穏は続かない。マネージャーがいずれ酒を飲みアリーを苦しめると予言する。マネージャーが家を訪れたとき、愛犬チャーリーが警戒するようにほえていました。名演技でした。彼が2人にとっての敵であることを示してくれました。ちなみにあのチャーリーはブラッドリー・クーパーが実際に飼っている犬だそうです。チャーリーという名前はブラッドリー・クーパーの亡くなった実父「チャールズ」からとったとのこと。皮肉な話ですね。

アリーはジャックを想い嘘をつく。そして別れ際ジャックは「もう一度、顔が見たかった」と言い、ガレージで自ら命を絶つ。

いや、知っているんですよ結末。
ジャックが死ななければスター誕生は成立しないんです。

それでも、それでもですよ。
「なんでだよジャック! アリーはこんなにもお前のことを・・・」と思ってしまう。

ここまで個人的な背景に踏み込んだのも、こんなに感情移入できたのも、今作がはじめてでした。

しかも、お父さんのことは明示されないんですよ。顔はでてこないし回想だってない。受け手に託しているんです。ここが絶妙で。つめこんでいたらスター誕生から離れたと思います。スター誕生は女性がメインじゃないとだめなんです。

それでも深く深くジャックの心へともぐりたくなる。
あの時、どんな想いだったんだろうと。

クリント・イーストウッド監督「アメリカン・スナイパー」でも主人公クリス・カイルが殺されるところは字幕だけ。エンドロールは無音だったじゃないですか。その時どんな顔で、どんなことを思っていたのか考えたくなるじゃないですか。語りすぎず受け手に託すところは師匠から受け継がれているのかもしれません。

ほんとうにお見事でした。

青年失業家・田中泰延さんは「映画監督は何本映画を撮っても言いたいことは同じ」と書かれています。
ブラッドリー・クーパー監督が言いたいことは?
「父と息子」が今後も重要なテーマになるのか?
これからの作品にあらわれてくるでしょう。

最後に、僕が見た3作のスター誕生でもっとも好きなセリフをご紹介します。54年版のラスト、ノーマン・メインに先立たれて自暴自棄になるエスターにかつてのパートナーが語りかける。

君はノーマンがこの世に贈った贈り物だ。
酔いどれだったが、君を愛し―
自ら破壊した生涯で君だけを誇りにしてた
君への愛と君の成功だけが彼の宝物だった
彼は自分自身それを知ってて―
人に誇れるその宝だけは破壊しなかった
(中略)
彼は君を残した
君が自分を捨てたらどうなる
ノーマン・メインは無になる
1954年版 スタア誕生より

ジャックは、アリーとたくさんの曲を残しました。聴きつづけられ、歌いつづけられる曲を。ジャックの想いを胸に歌うアリーの表情からは何回見ても目をそらせないでしょう。

最後の最後に。

エンドロールの「故エリザベス・ケンプに捧ぐ」というメッセ―ジ。
エリザベス・ケンプは女優で、ブラッドリー・クーパーにも指導したニューヨークの俳優養成学校の講師でもある人。2017年9月に亡くなりました。
「アリー/スター誕生」を生んでくれたひとりです。感謝と哀悼の意を表したいと思います。


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[イラスト]ダニエル

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