出典:IMDb
2018年も隕石が地球に墜ちてきて人類が滅亡寸前になることもなく、ゾンビが街中に溢れて世界中が大パニックになることもなく、突如出現した巨大宇宙船からぶっといレーザーが放たれて大都市が焼き払われることもなく、とにかく映画みたいなことは起こらず、しかし毎日むしろ映画みたいなこと、起こってませんか? とも感じつつ、毎年ありがちでやりがちな「2018年公開映画ベスト10」を勝手に発表していきたい。
昨年にならって、最初にタイトルのみさらっと並べておくことにする。
2018年に日本で公開された映画「勝手にベスト10」
- スリー・ビルボード
- ラッキー
- カメラを止めるな!
- レディ・プレイヤー1
- 15時17分、パリ行き
- ブリグズビー・ベア
- タクシー運転手 約束は海を越えて
- マンディ 地獄のロード・ウォリアー
- バスターのバラード
- アンダー・ザ・シルバーレイク
以下、10位からコメントを交えつつ、作品を振り返っていく。
アンダー・ザ・シルバーレイク
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膨大な記号がカットアップ/フォールドインされ、いかようにも解釈できる作品で、コラムでも「正直に告白するとまったくわからない」と書いたが、結局わからないまま年を越してしまった。
監督のデヴィッド・ロバート・ミッチェルは、前作「イット・フォローズ」で漂っていた幻想的な感覚や悪夢的なイメージをよりブラッシュアップさせ、ついでに毎回登場するプールもしっかりアップデート。B級/カルト映画として片付けてしまうには少々惜しく、もっともっと語られてもいい作品だと思う。というか、自分のなかだけで考えるのはもったいない物語だ。
「わからないわからない」ばっかり言ってバカみたいだが、わっからないんだからしょうがない。正直なところ、もう一度観るまで評価はできないのだが、解釈の楽しみ、選曲のセンス、そして何よりライリー・キーオが可愛かったことが得点につながり、見事ランクイン。
バスターのバラード
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Netflixオリジナル作品で、監督・脚本はジョエル・コーエンとイーサン・コーエンのコーエン兄弟。6つの独立したストーリーからなる西部劇で、どの章もスラップスティック、パルプ・マガジン臭が立ち込める。
カウボーイのバスター・スラッグス、絞首刑寸前の若いカウボーイ、両手両足が無い青年と彼を「見世物」にする興行師、砂金を掘り当てようとする老人など、個性豊かな面々が繰り広げる理不尽ブッチギリな物語は、まるでマーダー・バラッド(実在の事件をテーマにした歌のことで、米国民謡の原型みたいなもんです)を聴いているかのようで、好きな人にはたまらないだろう。
古き良き西部劇にコーエン兄弟のユーモアと毒がたっぷりと添加された傑作だが、そんなことより何よりも、トム・ウェイツが出演しているだけで5億点なので問答無用でランクインを果たした。
マンディ 地獄のロード・ウォリアー
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ここでも書いたが、ニコラス・ケイジ作品としてはかなり異色で「ニコラス・ケイジがあまり出てこない」「ニコラス・ケイジがあまり喋らない」という贅沢なニコラス・ケイジ使いをしてみせたパノス・コスマトスには、これからも「マンディ 地獄のロード・ウォリアー2」、「マンディ 地獄のロード・ウォリアー サンダードーム」、「マンディ 地獄のロード・ウォリアー 怒りのデス・ロード」などシリーズ化してニコラス・ケイジ主演作を撮り続けて欲しい。
クリスチャン・ラッセンの絵に核爆弾を落としたような極彩色の世界のなか、死神と化したレッド(ニコラス・ケイジ)が繰り広げるジリジリと燻るような復讐劇は、昨今のスピーディーでスタイリッシュ、そしてインフレし過ぎた擬闘をチェーンソーで一刀両断してみせている。
また、大勢出てくるのかと思ったら4人くらいしかやって来ない地獄のチキチキ・ロックライダーたちも趣深く「チャリンコ版マッドマックス」として名高いB級作品「ターボキッド」並のバカさを感じさせつつも素晴らしい造詣である。
タクシー運転手 約束は海を越えて
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今年は昨年の「お嬢さん」や「哭声/コクソン」などの超傑作と比較すると、韓国映画はややパワーダウンした印象だった。しかし、これは上記2作品がとてつもないからで、単純に映画としてみれば「犯罪都市」だって「操作された都市」だって面白かった。
「タクシー運転手 約束は海を越えて」は、光州事件を舞台にした実録モノだが、毎度のソン・ガンホクオリティ、そしてこれまた毎度の「泣かせ」クオリティで、平均レベルは軽々と超えている。
感動シーンには「感動するような音楽」を恥ずかしげもなく鳴らしてみせる劇伴使いも韓国映画らしく、「ベタですよね」と片付けるよりも、むしろ安心してしまうのは、もはやお家芸のようでもあり、なんだかズルい。
韓国映画のお家芸といえば、ハイスキルなカーチェイスシーンが挙げられるが、本作は「タクシー複数台をメインに据えた地味なカーチェイス」という、抑制の利いた仕様となっており、ある意味で新境地を開いたと思う。
ブリグズビー・ベア
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今年の「登場人物で嫌な奴が一人も出てこない映画で賞」といえば「ブリグズビー・ベア」である。
主人公は小さい頃に誘拐されて、外界との接触を断たれたまま青年となっている。彼の知っている人間は誘拐犯である父と母、情報は親父が制作したSF風味なTV番組「ブリグズビー・ベア」しかない。ある日、警察の介入により数十年ぶりに真の両親の元へ引き戻され、外の世界を知ることとなる。
といった話の筋を聞くと、なんだか暗そうな話で、主人公が葛藤するのだろうかと思ってしまうが、そんなことは一切ない。彼は外の世界で映画に出会い、自分にも作れることがわかると親や妹、新しくできた友人や担当刑事も巻き込んで「ブリグズビー・ベア」の続編を制作しはじめる。
彼は映画を作りながら自分も世界と接し成長していく。周囲の人間も彼に接することで、アホみたいな言葉で恐縮だが「忘れていた何か」みたいなものを再認識していく。ほんとうに笑えて、泣けて、ストレスのない映画なので、今回登場する映画のなかでも「未見の方はぜひ」と自信をもって言える作品。
15時17分、パリ行き
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今年の「なんかもう、いろいろ言いたいことあるけど凄い映画で賞」といえば、クリント・イーストウッドの「15時17分、パリ行き」である。
2018年は「タクシー運転手 約束は海を越えて」はもちろん「デトロイト」や「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」などのハイクオリティな実録モノが多く公開されたが、そのなかでも、最も「実録」なのが本作だろう。なんてったって本人出演である。
野郎3人のほのぼの欧州観光旅行にほとんどの尺が割かれ、テロの犯人よりも自撮り棒が登場しているシーンの方が長いのではないかという凄まじさで物語は進んでいく。「グラン・トリノ」で解脱した御大は、すでに概念になってしまったのではないかと感じてしまうほどの、ある意味での「やる気のなさ」はこれまた凄まじいのだが、これが面白くないかといえば、ハイスキルな編集技術や小技が憎たらしいほど巧いので、面白いんである。
いろいろと意見はあるだろうが、個人的には大好きな作品ということで、第5位という微妙な位置にランクインを果たした。
レディ・プレイヤー1
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本作と「カメラを止めるな!」は、映画を観る面白さを再認識させてくれた作品なので、ほんとうに感謝している。
まるで「たまたま観た金曜ロードショーが、すっげぇ面白かった」あの満足感を感じられるほどに、とにかく楽しい映画なのだが、散りばめられたありとあらゆるポップカルチャーの記号は「自分が観たいものしか観えない」という恐ろしさをもっている。それは何だかメチャクチャ身体に悪い菓子のようなものだから、不味いわけがない。いちど食ったらもう味は忘れられない。
個人的にはヒロインであるサマンサ(オリビア・クック)がブルーのカーディガンを羽織り、下にはジョイ・ディヴィジョンのタンク、ショートデニムに伝線したストッキングでチェリーレッドのドクターマーチン8ホールという、サブカルど真ん中スタイリングだというだけで25億点を叩き出しているので、これだけでも余裕で4位にランクイン。
カメラを止めるな!
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完璧な映画なので何も言うことはない。
すでにみんな観てるだろうしとくに言うことはない。
強いていうなら「あ、こんなところに傑作が」
ラッキー
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本作はハリー・ディーン・スタントンの遺作で、もう冒頭からヤバい。90歳になる主人公のラッキー(ハリー・ディーン・スタントン)は、小さな家で一人暮らしをしている。朝目覚めるとラジオのボリュームを上げ、アメリカンスピリットに火を点け、ミルクで割ったコーヒーを飲む。軽いヨガをして着替えると、行きつけのダイナーに出かけるのだが、家のドアを開けた瞬間、外が見えない程の光が部屋のなかに差し込む。完全なる天国である。
ハリー・ディーン・スタントン本人の歴史をなぞったような物語は、ラッキーというよりは、ハリー・ディーン・スタントン個人がまさに「死に向かう」話であり、骨と皮だけになった彼の身体やセリフの端々には、恐ろしいほどに死がまとわりついている。
名俳優(名脇役、とは言わない)として100本以上の映画に出演し、最期の作品で自分の人生を振り返る。こんなに素晴らしく、贅沢なことがあるだろうか。ハリー・ディーン・スタントンは死んだが、ラッキーは死なない。もちろん、トラヴィス・ヘンダーソンも死なない。映画のなかで生き続ける。と、合掌ポイントを加算しなくとも、作品として素晴らしい1本。
スリー・ビルボード
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てっきりアカデミー脚本賞を取るかと思っていたら「ゲット・アウト」が持っていってしまったが、オレデミー脚本賞は誰が何と言おうと「スリー・ビルボード」である。
原題は「Three Billboards Outside Ebbing, Missouri」。これだけで、既にマーティン・マクドナーの気概を感じる。自身が得意とする劇作に引き寄せて「セブン・サイコパス」から見事なアップデートを果たした。マーティン・マクドナーは「映画界のチャッカマン」と主に私の中で二つ名がつくほど劇中で見事な火付けを披露するが、その放火の手際ですらアップデートしている。
フランシス・マクドーマンドは当たり前として、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェルもハイスキルを出し惜しみせず、作品に力を与えている。
次々に錯誤が起こり、目まぐるしい展開を見せていくが、決してノリ切れないスピードではない。本作の話をするとき、各所で言及したが、急がず、緩めず、堂々たる歩みでストーリーは進んでいく。そこにははっきりとした作品としての「重さ」と風格があり、テンプレ化しているハリウッド脚本術/映画界に対して火炎瓶を投げつける。
ほかにもいろいろあるんですけど、このへんで
以上、2018年に日本で公開された映画「勝手にベスト10」をざっと紹介した。総評としては「今年も映画、楽しかったなあ」という、バカみたいな感想で終わりにしたい。だって、映画って楽しいもんでしょ?