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「ボヘミアン・ラプソディ」はクイーンの最新楽曲だ

みる兄さん みる兄さん


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「優れた曲というのは、自分の人生で起こった個人的な出来事に引き付けて自分なりに解釈できるから優れている」
ブライアン・メイ~レスリーアンジョーンズ著
(フレディ・マーキュリー孤独な道化より)

135分の音と映像が流れた後、エンドロールと共に10数年前、音楽に熱狂的にハマった学生時代を思い出していた。

劇中で流れる“We Will Rock You”のドラムの鼓動。“Another One Bites The Dust”のベースの重低音。そして、「ライブエイド」のステージで“Bohemian Rhapsody”を歌うフレディ・マーキュリーのパフォーマンス。

それらは学生時代、ライブハウスのスピーカーの前で感じた音楽の振動と一緒だった。「ボヘミアン・ラプソディ」という映画は僕にとって完璧な「LIVE」だった。



出典:IMDb

当時、僕は人間関係がうまくいかず、逃げるように大学の図書館と家を往復する毎日を1年間くらい過ごしていた。図書館にいたのだから、何かしらの本を読んでいたと思うが、今となっては何を読んでいたのか全く記憶に無いくらい時間をこなすだけの日々だった。



出典:IMDb

ただ、バイト先の後輩や高校の友人と行った、薄暗いライブハウスの情景は鮮明に残っていた。

ハイスタに熱狂し、ブラフマンに憧れ、ハスキングビーを口ずさみ、スキャフルキングでリズムを刻んだ。横浜ビブレの地下にあるHMVや吉祥寺のタワーレコードのインディーズバンドコーナーに立ち寄り、店員一押しバンドのCDを眺めていた時間が、こなすだけの日々に刺激を与えてくれていた。

映画館にはライブハウス独特の汗まみれでごつごつと隣の人が当たるような密集や熱気はなかったけれど、僕の前にはクイーンが存在していて、彼らが作った「LIVE」のステージに僕はいた。



出典:IMDb

ブライアン・メイが言う通り、「ボヘミアン・ラプソディ」の135分間が、僕が忘れかけていた個人的な10数年前の原体験を呼び起こしてくれた。

なぜ、「ボヘミアン・ラプソティ」から「LIVE」をこれほど感じるのか? 

そんなの「ロックバンドの音楽映画だから当たり前だ」と簡単に答えを言われそうだが、今まで見た他の音楽映画とは少し違う感覚を僕は持った。なぜこの映画を「LIVE」だと感じたのか? 「ボヘミアン・ラプソディ」が作られた経緯も合わせて考えてみた。

「ボヘミアン・ラプソディ」は、主演男優、監督、脚本が途中で変更になり、着想から10年あまりの歳月を経てようやく公開にこぎつけた作品である。ちなみに、最終局面で2番目の監督ブライアン・シンガーも降板してしまった。

フレディ役も二転三転して最終的にラミ・マレックに決まった。ラミ・マレックは「エジプトのコプトクリスチャンを両親に持つアメリカ人」で、「ペルシャ系のゾロアスター教の両親を持つパルーシのイギリス人」という欧米で人気のロックスターとしては相当珍しい出目だったフレディと近しい背景を持っていた。

フレディが乗り移ったかのような雰囲気をラミ・マレックがまとっていたことと、それは無縁ではないと思う。



出典:映画.com

この映画から「LIVE」を感じる理由としては、音楽監修として現在もクイーンとして活動している、ギターのブライアン・メイ(以下ブライアン)とドラムのロジャー・テイラー(以下ロジャー)が制作に参加しているからに他ならない。ベースのジョン・ディーコン(以下ジョン)は残念ながら現在は表には出てこないが。

彼らは御年70歳を越えた今でも世界中で「LIVE」をしている現役バリバリのミュージシャンだ。(2014年、2016年にクイーン+として来日)また、 制作陣にクイーンのマネジャー、ジム・ビーチも加わっている。



出典:IMDb
過去のインタビューで彼らは、「脚本には参加していない」と言っていたらしいが、主演男優、監督、脚本が変わったことと無関係ではない。

個人的には、ユージュアルサスペクツのような幾重にも伏線が張り巡らされた作品も好きだけど、観客を一体化する「LIVE」を奏でるには、クライマックスとなるサビに続く、AメロからBメロのメロディーラインは極力シンプルで直線的な方が魅力的だ。

「ボヘミアン・ラプソディ」のストーリーがどれだけシンプルかを少しまとめてみた。

Aメロ:クイーン結成から“Bohemian Rhapsody”のヒットまで

・1970年フレディがブライアンとロジャーと出会いクイーン結成。ジョンが後に加わる。メアリーに出会う。

・デビューアルバムに興味を持ったジョン・リードとマネジメント契約をし、“Killer Queen”がヒット。全米ツアーへ。

・新アルバム「オペラ座の夜」を収録。“Bohemian Rhapsody”を作曲。

・所属レコード会社EMIのボスと“Bohemian Rhapsody”の長さ(6分)で揉めて、契約解除。

・仲の良いラジオDJに頼んで、“Bohemian Rhapsody”をゲリラ的にかけてもらい、大ヒット。世界ツアーへ。



出典:IMDb
・・・ここまでがクイーン結成から成功までのAメロパート。ウィキペディアの書き写し見たいですが、おおよそこの形です。

いかがでしょうか? 
特に大きな浮き沈みも無いまっすぐ右肩上がりのサクセスストーリー・・・です。

Bメロ:フレディの孤独とバンド解散の危機

・フレディーとメアリーの距離が離れる。

・フレディは、孤独を紛らわせるために自宅で盛大なパーティーを開催するも、メンバーとの距離は離れてしまう。このころから個人マネージャー、ポールとの関係が親密に。

・ブライアンが“We Will Rock You”を作曲、ジョンが“Another One Bites the Dust”を作曲。

・フレディがソロデビューの契約を結ぶ。クイーン解散の危機。

・日中は曲創り、夜はドラッグパーティーとフレディはどんどん堕ちる。この頃から血混じりの咳をするなど、体調が悪化。

・「ライブエイド」のオファーが来るもポールはフレディに伝えず、そのことを心配したメアリーから帰るように説得される。フレディ、ポールをクビにする。



出典:IMDb

これでサビ前のBメロのパートが終了。言うまでもなく分かり易くフレディが堕ちていきます。Aメロが成功への右肩上がりなら、Bメロは凋落への右肩下がり。サビに続くシンプルなメロディーラインです。

サビ:伝説の「ライブエイド」のステージ

・フレディはマネージャーのジムにお願いしてメンバー三人に謝罪、和解して「ライブエイド」への出演を決める。

・フレディ、エイズに感染していることを医師から通告される。

・メンバーにエイズ感染を告げる。

・伝説のステージ「ライブエイド」に出演。



出典:映画.com

Aメロ、Bメロ、サビを3つのブロックとして並べてみましたが、伝説ともいわれる20分の「ライブエイド」のパフォーマンスと同様に、この映画も物語を編集し、万全のセットリストで構成されている。(実際のライブエイドの映像も残っているのでぜひ)

着想を変えれば、クイーン結成前のフレディの葛藤や1970年代~1980年代の欧米文化とLGBTとの関係をもっとセンセーショナルに描くこともできる。脚本だってもっと入り組んだ構成にすることもできるだろう。

でも、クイーンのメンバーたちはこの映画を一つの楽曲になぞらえて作ろうという想いがあり、それをしなかったのだと思う。

劇中の挿入曲へのこだわり

「ボヘミアン・ラプソディ」の構成はシンプルだから良い! と書きましたが、劇中での曲の使いどころにこそ、今回の映画のこだわりを感じる。

まず映画は、「ライブエイド」のステージに向かう場面から始まる。最初はフレディ1人だけでそのステージに向かっているように描かれていて、そこで“Somebody to love”が流れる。これは「誰か僕の愛せる人を探してよ!」という曲なので、出だしでこれを流すことで孤独なフレディが愛せる人を探す物語なのだということをさらっと印象付けてくれる。最後に同じステージに向かうシーンの時はメンバーと一緒というのもニヤリとさせてくれる。フレディがステージて前で肩をクルクル回す仕草がカッコよい。

出典:YouTube

出典:YouTube


ちなみに、“Somebody to love”は後半に、フレディが亡くなる時まで添い遂げたジム・ハットンときちんと出会った時にも流れることで、生涯愛せる人に遂に出会えたことを伝えてくれる。

フレディ以外のクイーンのメンバーが家族を持ち始めていく中、寂しさを紛らわすために、フレディはポールに声をかけ自宅で盛大なパーティーを開く。そのシーンで流れるのが、MCハマー・・・じゃなかった、リック・ジェームスの“Super Freak”。いきなりディスコサウンドが流れてびっくりしますが、実はそれも次のクイーンの楽曲へとつながってる。こういう細かい仕掛け好きです。

出典:YouTube

出典:YouTube

で、“Super Freak”がかかった後、パーティーカルチャーに影響されたフレディが「次はディスコ調にしよう」と唐突に言う。これに対し、ロジャーとブライアンが強く反発して一色触発になった際、ジョンがおもむろにベースを弾き始める。このベースの重低音がめちゃくちゃカッコいい。このベースからアメリカで最大のヒット曲ともいわれる“Another One Bites the Dust“が生まる。

“We Will Rock You”はブライアンの足踏みと手拍子、“Another One Bites the Dust“はジョンのベース、あとで出てくる“Radio GAGA”がロジャーの車への愛とこだわり。クイーンはメンバー4人ともヒット曲を作っている稀有なバンドなんだよ。というのを劇中では丁寧に教えてくれる。



出典:映画.com

僕が最も好きな曲とシーンは、ソロ活動の収録中、電話に出ないフレディを心配して、メアリーがフレディの元を訪れる場面。そこで初めて「ライブエイド」の件を知り、激怒したフレディがポールを解雇して、雨の中を歩いていく時に流れる、“Under Pressure”。フレディの背中姿に最高にマッチするんですね。この“Under Pressure”には「僕たち自身にもう一度のチャンスを与えてみないか?」という歌詞が出てくる。曲とシーンがどハマり。



出典:映画.com
クイーンの曲はメロディが頭にすごく残るので、鼻歌で歌えるものばかりなのですが、歌詞の意味を知るとクイーンとフレディの生き方をなぞるように作られているんだと気づかされる。(時系列的には作曲した時代とエピソードは異なりますけど)

あ、あと、フレディがエイズに感染していることを通告されるシーンで流れる“Who Wants To Live Forever”も、またまたドンピシャです。病院の廊下ですれ違うファンの患者の「エーオ」と力のないフレディの「エーオ」は涙腺にビリビリくるシーン。



出典:映画.com

映画の挿入歌とシーン、歌詞の話をするとキリ無いですね・・・。
「ボヘミアン・ラプソディ」のオフィシャルインスタグラムで劇中の楽曲のダイジェストがたくさん聞けるのでぜひ見て欲しい! 最高of最高。

「クイーンは家族」だ

ここまで作品の構成や楽曲ついて書きましたが、もう一つ僕が感じたのが、この映画の「家族」への強い想いです。



出典:映画.com

フレディがマネージャーのリードと契約する前に言った「ぼくらは、はぐれもの。互いのために音を奏でるんだ」というセリフ。EMIの重鎮レイから「キラークイーンを再現したい。成功には型がある」と言われて、「クイーンは同じことはしない!」と言い放つメンバー同士の息の合ったやりとり。フレディがソロになるといった時に、ブライアンが「君には僕らが必要だ、君が思っている以上に」という言葉。

随所に、バンドという「家族」がいるからこそ、クイーンは強いのだというメッセージを感じる。

ただ、劇中ではフレディ以外のメンバーとメアリーが、それぞれ自分の家庭を持ち始めることで、フレディが孤独になり、その切なさを埋めるようにパーティーやドラッグに溺れていってしまう。これは現実にも結構ある話で、昔の仲間が段々と結婚して子供産まれて、30代くらいで付き合いが悪くなり「俺ら、いつまでも家族、仲間って言ってたじゃないかよー」って状況。ちょっと切ない。

孤立していくフレディを救うのが、かつて恋人だったメアリー。
孤独に苛まれているフレディに、雨の中メアリーが言った「Come home」。英語がそんなに得意な方では無いのですが、その頃メアリーはフレディとは別の家に住んでいたので、怒りに任せて「Go home!」と言ってもよかったのに、他のバンドのメンバーも含めて、「私たち家族の場所に帰って来て」という意味でこの言葉を選んだのだと思います。

「クイーンは家族」という視点で見た「ライブエイド」

上記で話した背景を噛みしめながらラストの「ライブエイド」のシーンを見ると、さらに感慨深い。

“Bohemian Rhapsody”のピアノに乗せて、Aメロでフレディののびやかな声が出たときのブライアンとロジャーの安どの表情。そして、フレディのコール&レスポンスの時にブライアンとジョンのめくばせ、メアリーとロジャーが「信じられない」って思わず顔を振る場面。



出典:IMDb

実際の「ライブエイド」の映像と比べると、劇中の“We Will Rock You”で、ブライアンがこぶしを上げたシーンがアップになっていたりして、ブライアン、ロジャー、ジョンそれぞれのシーンがかなり多くなってます。ステージ上のメンバーにも、テンポよくカメラが寄る場面が入ることで、見ている僕らがクイーンの一員=家族としてステージの上にいるような感覚に引き込まれます。

この映画はフレディが主役なのは間違いないけど、「クイーンはフレディだけじゃない。メンバー=家族で奏でてるバンドなんだ」というメッセージが色んな場面から感じられる。

ライブ中のメンバーたちの表情がたまらないので、ぜひこの視点でもう一度見て見てほしいです。

そして、クイーンのメンバーについても触れたい。ブライアン・メイがものすごく魅力的に描かれていて、途中から完全に虜にされてしまった。僕は、フレディ目線ではなく、ブライアンから観たフレディという視点で見てしまっていた。



出典:IMDb

インテリでドライに見えるけど、家族というつながりを大事にしていて、随所で「僕らは家族」と言うブライアン。“Bohemian Rhapsody”の収録シーンでフレディに「ほぼ完璧」って言われて、ブライアンが「ほぼ?」って突っ込んだ後、フレディに「もっとロックしろよ!」って言われたときのブライアン。



出典:映画.com

デザイナーであり、自分には無いアーティスティックな部分を持つフレディを最大限尊重していて、時には「君はときどき最低になる」、「君には僕らが必要だ、君が思っている以上に」と戒める。喉の調子が悪そうな時は「1週間もあれば大丈夫」と優しい言葉をかける。そして最後の「ライブエイド」のステージでは“Bohemian Rhapsody”の収録の時に、フレディに言われたように、最高にロックしてギターの音を奏でるブライアン・メイ。フレディのピアノの下から煽りカメラで、ブライアンのギターパートに寄るシーンが最高にしびれます。



出典:IMDb

この文章を書く前に読んだ多くの映画評では、「この映画にハマるのは孤独と虚無の中で疾走するフレディに自己投影した」という視点が多かったが、僕は、自分はヒーローになれないとわかっているけど、憧れと愛をもってヒーローを支え、近くだからわかる苦しさを分かち合っていた、インテリなブライアンに強く共感した。

もう一人、忘れてはならないのがフレディの個人マネージャーのポール・プレンター。
この映画の「家族」というメッセージを引き立ててくれる名悪役。役はアレン・リーチ。



出典:映画.com

BBCで“Killer Queen”を収録した時のメアリー越しの表情、“Love of memory”を作曲するフレディーをじっと見て近づいてくる瞬間の間の取り方。この曲がメアリーに向けて作った曲だって知ってて、唇をなめずりながら距離を詰めてくる感じの不気味さ。しかも、最初に出会った時と“Love Of My Life”の収録でフレディに近づくときで、全然気づかないくらいに雰囲気が変わる。そして、“Super Freak”が流れていた時のパーティーでつまらなそうにしていたクイーンメンバーとは対照的に楽しそうでノリノリでフレディを肩車する。

僕の中で記憶に残っているのが、最初のマネージャー、ジョン・リードをハメて首にした時、車の中でポールが自分の出目をフレディに伝えた言葉。

「ベルファスト出身のカトリックでゲイだ」

ベルファストは北アイルランドの政庁の所在地。当時の北アイルランドでのカトリックは、かなり少数派だったようで、IRAの問題などが絡んできて相当複雑な状況。カトリックは教義として同性愛を認めて無いし、北アイルランドでは1982年までは同性愛自体が犯罪という状況だった。映画の舞台となる1980年代の状況からすると、ポールは相当孤独だったと思う。

そんな背景も併せて、フレディへの独占欲の塊のような怪演をポールは見せてくれていて、存在感が際立っています。最終的には、メアリーによってフレディとの関係を断ち切らされてしまうのですが・・・。

そして、ポールもフレディと同じくエイズで亡くなってるんですね。ちなみに、“Bohemian Rhapsody”をラジオでかけたDJのケニー・エヴェレットもエイズで亡くなっている。この事実を知って80年代のゲイコミュニティやエイズを描く難しさを感じます。

僕にとっての「ボヘミアン・ラプソディ」

大人になるにつれて、僕にとっての音楽は「体感するもの」から「流れているもの」というように変わっていった。

ただ、「ボヘミアン・ラプソディ」を映画館で観て、ウェブで見た、話を聞いた・・・ではなく、体で感じないと記憶の引き出しには何も入らないんじゃないか? と改めて気づかせてくれた。

それくらい、「ボヘミアン・ラプソディ」(できれば音の良い映画館で)で生で体験したほうが良いと思う。

来年は映画館で映画をもっと見ようと思う。

そして、家族と一緒に新たな原体験を見つけに、久しぶりにライブやフェスにも行きたい。


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[イラスト]ダニエル

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