完全なる盲点でした。
2018年夏。「カメラを止めるな!」が世間の話題となり、上映館拡大という噂を聞いたので地元のイオンに観に行ったんですけど、私の住む街では上映していませんでした。
2018年の夏といったら、会う人会う人「カメラを止めるな観た?」と言ってた頃です。SNSを開けば感想を呟いてる人がいた頃です。完全に話題に乗り遅れてしまった私は、若干やさぐれていましたが、やっと! 師走になってやっと! 「カメラを止めるな」を観ることが出来ました!!
やさぐれていたのでSNSでの感想も見て見ぬ振りしたし、『「カメラを止めるな!」観た?』という話題が出れば空気かミジンコか! ってくらい存在感を消していましたので、前知識なしで本作に臨みました。
そもそも、このようなレビューコラムというのは、話題が沸騰している段階で公開するから見られるのであって・・・私の場合、今更観て、今更レビューコラムを書くとか、完全に「今さらーー!!w」とへそで茶を沸かすパターンのやつです。でも「書きたい!」という思いさえあれば、そんな悩みは些細なことなのかもと、ダメ元で編集長の西島さんに企画を出してみました。
OKとのこと。
もしかしたら、企画案を観た時、西島さん寝ぼけていたのかもしれない。
我に返って「今更かよ!!」と言われる前に、「正気か!」と言われる前に・・・! もう、めちゃくちゃ面白かった!! 感動した!! 本作を思う存分楽しんでもらうためには「とにかく観て! さいっこうだから!」の一言でいいんだけど、もう確実に観た人の方が多いと思うので。
今回はネタバレ満載の「カメラを止めるな!」レビューコラムを張り切って書いていきます! ワクワク!!!
前半:ゾンビ映画 。B級感タップリ違和感タップリ! 本気を出さないゾンビたち
前知識なしで観たと書きましたが、それでもSNSで流れてくる投稿で「後半での伏線回収がお見事!」「前半があるから後半が盛り上がる!」というのは目に入ってきます。
なので「なるほど、前半から後半に向けて盛り上がる展開なのだな」と冷静に、客観的に観ていました。私個人の感想としては、ゾンビ映画としてのクオリティは高いのですが、出来自体はB級感溢れる感じ。ゾンビの習性っていうんですか? 私もゾンビ映画は割と好んで観る方なので、ゾンビの動きには自ずと評価をつけたくなってしまうのですが・・・ゾンビだけどゾンビじゃない!
「夢だけどー! 夢じゃなかったー!」って、私の中のさつきとメイがひと暴れしていました。
挙動不審な音声役、無意味な会話のやりとり、「あ・・・斧がある」という解説付きの棒読み台詞。いきなり変わるカメラアングルに、抜け感タップリのゾンビ達は違和感を感じずにいられません。
出典:IMDb
まず抜け感タップリゾンビは、走るのが遅い。捕まえる気あんの? ってくらい、手足をバタバタさせながら追いかけてるのですが、もうフラッフラな訳です。フラッフラなのも、結果的にこれが伏線となっているのですが、前半を観てる段階ではそれが伏線だなんて分からないので違和感を感じる人も多かったのではないでしょうか?
しかも人間に飛び蹴りされて一発KOなシーンとかもあって、ゾンビのゾンビたる威厳が前半部分でかなり崩壊します。
さらにゾンビも割と少なめ。てか、ゾンビ4体しか居ません。
スケールが・・・
ゾンビ映画のスケールが、「ウォーキングデッド」とか「バイオハザード」とかに比べると、ちょっとした農民の一揆。というか、4体なので大家族で言うところの「酒を飲んだら、俺の父ちゃん暴れるんだぜ。兄ちゃんは浪人してからおかしいし・・・弟2人は破天荒で手がつけられないし・・・俺って苦労してんだぜ」くらいの規模まで縮小されています。しかし・・・
だからこそ! だからこそ! この映画は面白いのです!!!
スケールの大きい映画だったら、伏線を散りばめる必要もなく観客を沸かせられるでしょう。
スケールの大きい映画ですと製作費用も桁違いなので、至る所で爆発に次ぐ爆発。ドラム缶ボッカーン! 窓ガラスパッリーン! の一コマ一コマで観客をゾクゾクさせることが出来るでしょう。ゾンビだって「カトちゃんケンちゃんごきげんテレビ」の増えるヤクザのごとく、どんどん出すことが出来ます。
ゾンビ映画はゾンビ映画としての役割があり、セットやゾンビの数、ゾンビと主人公(有名俳優)との本格サバイブが一つの見所となり、観客を沸かせます。しかし、そこにはエンターテイメントとしての要素を織り交ぜることが出来ません。てか織り交ぜる必要がありません。
本作はゾンビサバイブと思わせておきながら、サバイブとしての見所はありません。ゾンビものでは考えられないほど、前半のゾンビサバイブ部分は、なぜかこころ穏やかに見ることが出来ます。しかし全体のスケールは壮大且つ、それでありながら、とても小ぢんまりとした社会で繰り広げられるエンターテイメントなのです。
ゾンビ映画として魅せるというより、フィルム全体を魅せる構成にどんどん引きこまれていく感じ。
前半(伏線を散りばめる)と後半(回収作業)がキッチリ分けられていて、一つの映画でありながら、観終わった後にどこか「前半が懐かしいなぁ」という感情に包まれます。前半感じた違和感を、後半は痛快に感じるほど回収、笑いを巻き起こし、それ自体が作品「カメラを止めるな!」のテーマとなっている。
何この巧妙に作られ練られた構成・・・
最高!!!!
後半:「最後まで席を立つな。この映画は二度はじまる。」なるほど!
後半は、前半37分の「ゾンビ映画」としての構成をガラッと変えてきます。なんども言いますが、前知識なしで見た私は、「ハイ! カーット!」の意味が最初分からずにいました。
「なるほど! そういう展開の映画だったんだ」って気づいてからは、前半を思い出しながら、目の前で起きているネタバラシを当てはめていく感じ。そのネタバラシの爽快感たるや・・・! 映画というのは、全てを観終わった後「あー面白かった! 前半のあの部分、ドキドキしたなぁ」と思い返すものです。しかし本作は、まさに今、観ている段階から前半部分を懐かしく感じる映画。
白目のおっさんゾンビが酔っ払っていたのだって、「あの時は酔っ払っていたよね。だけど、よくやり切ったよね」という謎の感情に包まれるし、
トラブル続きで、なかなかゾンビが出てこれない場面だって「そっかぁ・・・あの時、みんなよくあの場を繋いだよね! エライ! さすが!」と苦労をたたえたくなる気持ちになる。
なんて説明したらいいんだろう・・・運動会でいつもエースの佐藤くんが、なぜか運動会当日の今日、ものすごく遅い。数日後、佐藤くんは、実は当日40度の熱があって立っているのもやっとなくらい! それでもやりきったんだ・・・って後に判明した。みたいな感覚です(伝わるか不安!)
「カメラを止めて、逃げればいいのに」
「ゾンビと戦わずに、逃げ切った方が絶対効率いいのに」
そんな疑念を本作は後半、登場人物達自ら「なぜカメラを止めることが出来なかったのか」を説明するパートへと移って行きます。
出典:IMDb
1度目の映画(前半)も、2度目の映画(後半)も、相乗効果で高め合うエンターテイメントであり、前半だけ観ても全く面白くないし、後半だけ見ると意味が全くわからない。「カメラを止めるな」は、冷静に作品を思い出しても、こう、沸々といろんな感情が湧き上がってくる映画で。
撮っていると思ったら撮られている。
フィクションかと思いきやノンフィクション。
ノンフィクションかと錯覚するも、やはりフィクションという、この世界観。
キャッチコピー「最後まで席を立つな。この映画は二度はじまる。」の意味は観たものにしか分かりません。ゾンビパートは創作だと理解しながら観てるけど、後半は撮影の裏側を純粋に楽しんで観ていて、だけどそれも実は創作で。
なんだけど、それ自体も実は「カメラを止めずに撮っている」リアルでもある。実際に、撮影時のミスがいくつも映り込んでいて、レンズに血のりが付いてしまって拭き取るシーンはリアルなトラブルなのだそう。これは、説明だけでは到底伝わらないし、あの臨場感は言葉で説明するのが失礼だと感じるくらい。
「とにかく観て!」
としか、やっぱり言えない。
後半が終わっても席を立つな! エンドロール後、さらに感情をかき乱されるぞ!
本作は、前半と後半が相乗効果を起こす映画ですが、さらにエンドロール後とんでもない相乗効果を投下してきます。
前半:「ONE CUT OF THE DEAD」としての劇中作品(ゾンビパート)
後半:「ONE CUT OF THE DEAD」
エンドロール:「ONE CUT OF THE DEAD」を撮る、心底リアルな「カメラを止めるな」
以下見出しの中で大いに感動していますが、ラストで沸き起こる感動の、余韻冷めやらぬうちに始まる尚一層のストーリー。登場人物、制作に関わった全ての人、上田慎一郎監督の格好よさに痺れます。エンドロールが流れた瞬間、一気に現実に引き戻されるんだけど、引き戻される感覚の気持ちのいいこと!
創作と現実の、レイヤーの混ざり具合 が絶妙すぎます!
37分間「カメラを止めない」本当の意味とは?
出典:IMDb
私たちは気づかぬうちに、妥協しながら日々の生活を送っています。
・双方の意見が食い違った時
・自分の考えていることが、それ以上の進展を望めそうにない時
「自分の意思を取り下げてしまおう」「それ以上の進展は、望まないで諦めてしまおう、止めてしまおう」
そんな風に妥協しながら生きています。コメディとエンターテイメント要素の入り混じった本作が、なぜこんなにも心に刺さるのか、なぜ感動するのか? なぜこんなにも人々を沸かすことが出来たのか。
それは、妥協していないからだと私は本作を観て強く感じました。
「37分という短い時間だけど、企画として始まってしまった37分間。トラブルに見舞われながらも、誰一人として止まることなく全力でやり切る潔さ」を魅せる、映画上のストーリー。最後の、出演者全員がピラミットを作るシーンはコミカルなのにマジで泣けます。全員で作り上げた作品をどんなトラブルに見舞われても「みんなで絶対に完成させる」。その姿に、大人になると忘れかけていた感情を取り戻した気がしました。
そして、無名であった上田慎一郎監督が無名のキャストと共に、売れるかどうか分からない、制作費だってあまりない。そんな状況の中で妥協を一切せず全力でやりきった潔さは、まさに「みんなで絶対完成させる」という執念。本作を観ていると、上田慎一郎監督の熱量と、演者や撮影クルーの熱量に感極まります。
本作は、観終わった後、必ずもう一度観たくなる映画です。
違和感を笑いに変え、伏線回収する様子そのものを、作品テーマ「カメラを止めるな」として沸かせ、抱腹絶倒からの感動。登場人物、制作に関わったもの、誰一人として妥協せず、全員で一つのものを作り上げる楽しさ、喜び、感動。
そして「とにかく観て!」と、口コミを広げた方々、広げずにいられなかった方々の気持ちに、深く共感しました。
なので私も、幼稚園バスのママ友さんに「カメラを止めるな観たよ! とにかく観て!」って言おうかと思いました。ですが、季節は冬、てか師走。「今さら何言ってんの?」と冷たい視線を向けられるに決まっています。
この記事を最後まで読んでくださったあなたも、「今さらレビューコラムとかww」と思っていることでしょう。
なのに、最後まで読んで下さってありがとうございました!
おっしまーい!
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[イラスト]ダニエル