「search/サーチ」ピザとは、生地を食うものだと改めて気付かされる意欲作

加藤広大 加藤広大


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出典:Youtube

「100%PC画面の映像で繰り広げられるサスペンス・スリラー映画」と聞いたとき、あなたは「おもしろそう」と感じるだろうか、または「どうせアイデア勝負で違和感ありありなんでしょ」と思うだろうか。

飛び道具的な設定をもつ作品は、得てして「意欲的な失敗作」になりがちだが、本作「search/サーチ」はなんのなんの、まったく(嘘。若干はある)違和感を感じさせず、102分間、ウェブサイトやインカメラを駆使し、OSやデバイスを横断しながら縦横無尽に駆け抜ける。

さらに「PC(スマホ)上だけで映像を完結させる」という設定を抜きにしたとしても、じゅうぶんに耐えられるほどに練られた脚本が物語をしっかりと補強しているので、決してアイデア勝負だけの作品ではない。もう、冒頭からラストまで、すべてが繋がっており丁寧過ぎるほどに伏線が回収されていくので、1mmたりともネタバレができない。

また全体のトーンはシリアスだけれど、笑いの要素も入り「これ、韓国映画じゃないっすよね」というくらい「泣かせ」もしっかり入っているエンタメっぷりなので、「ちょっと変わった映画なのかな」と鑑賞を逡巡シュンジュンしている方は騙されたと思ってぜひ、映画館に足を運んで欲しいことは先ず伝えておきたい。

驚くべき違和感のなさと、テンポのよさ

もし、あなたが「100%PC画面の映像で繰り広げられる映画を撮る」としたら、四角いモニターのなかに何を配置し、どう動かすだろうか? インカメラで役者の顔を映す、Googleを開いて検索させる、Twitterで呟いて反応を編集して見せるなど、いろいろやり方はあると思うが、果たしてそれが「マジで面白いか」といえば多くの場合はそうでもないだろう。だが本作は、今あなたが想像した映像の10倍は面白い。私が想像したよりは100倍面白かった。数々のアイデアに驚かされることになるだろう。

本作は、WindowsXPのデフォルト画面からはじまる。この時点ですでに懐かしすぎて感慨深くなってしまうが、そこからのテンポが素晴らしい。

仲のよさそうな親子がインカメラを通して画面上に映っている。家族の写真は丁寧にフォルダわけされ、娘の成長や家族のイベントが次々とカレンダーに書き込まれていく。しかし幸せな光景は長く続かない。突如、検索バーに打ち込まれる「悪性リンパ腫 治療法」といった文字列。ほのぼのとしたトーンは一変するが、このシークエンスを観ただけで、本作に対する「どうなのこの設定」といった疑問は一発で吹き飛ぶ。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/11/ed18c1730f2b791573ff91b9ee89c320-e1541070582173.jpg出典:IMDb

とにかく、テキストボックスをアップにしたり、要所でヨリを入れたり、視線が動くかのように画面を移動させたりと、さまざまな小技がしっかりと利いているので、画面上でマンネリを感じることも一切ない。

とくに打ち込んだテキストを一度消去し、また打ち直すシーンは秀逸で、役者の声も顔も出ていないのに、心情がこれでもかと伝わってくる。思わず「この手があったか」と唸ってしまうが、多くの人にも経験があるのではないだろうか。ほんとうに伝えたかったテキストを、送信の一歩手前で消してしまったことが。

違和感を感じない理由はまだまだある。現在、私たちはPCの画面上で動画を観ることにすっかり慣れている。ちょうど下のスクリーンショットのように、いくつかのウインドウを開いて観ている方も少なくないだろう。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/11/53247b08647e53ff0b54c8498949a27c-e1541070647524.png

「search/サーチ」の本筋は、ある日行方不明になったマーゴット(ミシェル・ラー)を、父親であるデビッド・キム(ジョン・チョー)が彼女のノートパソコンを手がかりに、ネットを駆使して捜索していくのだが、キムが操るモニター内もまた、数々のウインドウで埋め尽くされている。

つまり、現実でよく見ているPC画面が映し出されているので違和感を感じない。もし本作がNetflixやHuluなどが流行する以前に公開されていたとしたらもう少し違和感があったはずだが、まさにタイミングピッタリで公開された作品だといえるだろう。

「見慣れている」と書いたが、劇中に登場するウェブサイトなどはほぼすべて実在しており、見慣れているなんてもんじゃない。Google、Instagram、Facebook、Twitter、Tumblr、redditなどなど、私たちが毎日のように目にしているサービスが目まぐるしく登場する。これもまた違和感の払拭に役立っているのは言うまでもないが、使い方もニクい。

父親であるデビッドは娘の行方を探すために、彼女のMacBookを立ち上げ、Facebookにログインしようと試みる。だがパスワードがわからない。ではどうするか?「パスワードを忘れた場合」をクリックし、Gmailにログインを試みる。しかしGmailのパスも不明である。再び「パスワードを忘れた場合」を選択し、懐かしのYahooMailからログインに成功し、新規パスワードを設定しログインに成功する。

これだけでもFacebook、Gmail、YahooMailと3つのサービスが登場し、テンポよく画面上に表示される。設定は奇をてらっているが、娘の情報取得/捜索に関しては現実でできること/やりそうなことしか行わせないのがリアルであり、うまい具合に抑制が効いている。

少々憶測が入るが、YahooMailは娘のためにデビッドがアカウントをとった可能性がある。理由は一瞬の間を置いたあと、迷いなくパスワードを打ち込んでいるからで、もしそうならば、Facebook、Gmail、YahooMailといった新旧サービスを横断し、そこに思い出すらも入れ込んでいることになる。これは凄い。とはいえ、パスは名前を誕生日(たぶん)だったので、当てずっぽうで打ち込んでみたのかもしれないが。

またFacebookやInstagramで出てきた娘の友人たちをリストアップし、Googleスプレッドシートを用いて整理していくシーンもリアルで、途中から項目名に色をつけて見やすくしたり、Numbersで共有したりと、これもまた現実的。リアルといえば、娘のSNSフォロワー数がTwitterは数人、Instagramは数十人、Facebookは200人超だった記憶があるが、これまた妙にリアルで思わず笑ってしまった。

このように、本作は突飛な設定ながらも限りなく現実に即することで(というかむしろ今や画面上のほうが現実ではといった感じがしないでもないが)違和感を一切感じさせない。

家族のこと、ほんとうに知ってますか? という普遍的な問いかけ

本作をエンタメ成分たっぷりと論じるにおいて、外せないのが「あなたの家族のこと、ほんとうに知っていますか?」という、ともすればベタすぎる問いかけである。

デビッドはマーゴットのSNSにログインすることにより、彼女の交友関係や悩みなどを知り「娘のことを誰よりもわかっているつもりだったのに、実は何も知らなかった」ことを理解することとなるが、このベタさもまたリアルである。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/11/c14ae1c8567705c29951f8ee17dbb2b5-e1541070767725.jpg出典:IMDb

そもそも私たちは、家族のことをどれだけ知っているだろうか? 親兄弟、娘や息子の交友関係を完璧に把握している人なんて、そうはいないだろう。表面上でSNSの投稿を見ていたとしても、メッセージのやりとりや、ラインでの会話まで知っている人はほとんどいないだろう。多くの人がデビッドのように「知っているつもり」になっているだけのはずだ。

そして「何も知らなかった」ことを知ってしまったときの衝撃は半端ではない。もちろん映画の話だけでなく、家族の秘密を知って驚くことは現実世界でも少なくない。個人的な例で恐縮だが、私は母親が煙草を吸っていることを、彼女が死ぬまで気付かなかった。息子以外は一族郎党知っていた。そんなことすらわからないのが現実である。

この「知ってるようで知らないこと、ありますよね」という普遍的な問いかけは、ベタではあるが本作で駆使されるメッセンジャーに代表されるコミュニケーションツール、そしてSNSがもつ現代性にジャストフィットする。ベタを恥ずかしげもなく余裕でこなせるというのは型をもったベテランの特権ではあるが、監督のアニーシュ・チャガンティは若干27歳、今回が長編デビュー作である。そして、本作がまぐれ当たりではないことは観ればわかる。

おそらく、全編PCの画面上で物語を完結させるというネタは「既に誰かが思いついていたものの、やらなかったネタである」と思われる。このようなネタは、得てして危険度がかなり高い。だが、若きインド系の監督は、丁寧な仕事と画面越しでも伝わる知性とをもって軽々と乗りこなしてしまった。しかも、ユーモアを交える余裕すらみせている。確かに「別にここは普通に撮ってもいいんじゃないの」というポイントはあるが、それとてチャームポイントに見えてしまう。

「search/サーチ」は、練られた脚本とベタなテーマ性を生地として、具としてアイデアをトッピングしているピザのようなもので、生地がしっかりしているから、アイデアが突飛でもまったく問題にならない。登場するモノやキャラクターの行動を徹底的にリアルに描くことで、さらに生地の美味さは倍増する。

宅配ピザに慣れてしまうと、ついトッピングに気をとられがちだが、そもそもピザは生地を食うものである。まさか「設定ありき」的な本作で、分母としての脚本とテーマ性の大切さに気付かされるとは思ってもみなかった。そして、ベタなメッセージでも、真摯に仕事をして、工夫をすれば新しいものが作れることもまた、チャガンティは示してみせた。いや、自分、映画のこと、知ったつもりになってましたすいません。

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