「スリー・ビルボード」
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「下半期で面白かった映画は何か」と訊かれたら、最初に思いつくのが「スリー・ビルボード」である。
「脚本賞なんてこれで決まりでしょ」と思っていたら、「ゲット・アウト」がかっさらって行ったが、あれも面白かったので文句は言うまい。
本作で、監督のマーティン・マクドナーは「セブン・サイコパス」で見せた世界を、自身のホームグラウンドでもある劇作に引き寄せて見事にアップデートし、鋼鉄のユーモアをもって新しい物語の形を提示した。
ちなみに、ウディ・ハレルソンもついでにアップデートしていたのには笑った。さらには放火の手際ですらアップデート。未見の方がいたら、ぜひ「セブン・サイコパス」も観てください。
フランシス・マクドーマンドのイカれ女ランボーa.k.a.ジョン・ウェインっぷりも、サム・ロックウェルのマザコンから同性愛まで横断しそうな複雑さぶりも、要素要素を取り出せば滑稽かつやり過ぎ感があるのだが、ミズーリ州エビングの霧に包まれるがごとく、不思議と物語のトンマナを損なわない。
脚本、演技、劇伴、映像など、すべてがハイクオリティなフォーカードで、はっきりとした重さがある作品だった。
「デトロイト」
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40分にも及ぶ尋問シーンが話題となったものの、なぜかアカデミー賞からは完全に無視されてしまった悲しき佳作「デトロイト」。監督はキャスリン・ビグロー。
本作の最も凄まじいシーンは、尋問ではなく冒頭である。酒場へのガサ入れを皮切りに、徐々に住民たちが暴動に向かっていくシークエンスは、日常が崩壊し、住民たちのフラストレーションが最高潮に達し、ついに暴動に至るまでの過程を恐ろしいほどリアルに描き出す。
時代考証も素晴らしく、ファッション、音楽映画として観ても何ら遜色がない。暴動抜きのデトロイト日常モノとして、もう一本作って欲しいくらいのクオリティだった。
また「地獄の悪眉毛」と私のなかで株価急上昇中のウィル・ポールターと、もはや出ているだけで映画が安定するジョン・ボイエガの演技もハイスキルで、終始人間の嫌な部分を見せられているというのに、なぜか安心して映画に没入できるというよくわからない感覚を味あわせてくれる。