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「犬ヶ島」圧倒的情報量に完敗。グラフィックデザイナーが観た「デザイン」の凄み

加藤広大 加藤広大


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グラフィックデザイナーが「犬ヶ島」を観るとどうなるのか?

映画のコラムとしては珍味な話になるが、本作のショットを「一枚絵」として、グラフィックデザイナーの目線で観るとどうかというと、正直、こんな仕事やりたくない。の一言である。以下、いろんな意味で「やりたくない」ポイントをまとめていく。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/06/6085b7fa7c5d47ccbc39d766c0aec7ea-e1528063171311.jpg出典:IMDb

・「ゴミ島法令」が書かれた紙。朱で枠を取ってあるが、フリーハンド調になっている。判子のデザインも細かい。タイトル部は乗算で重ねれば一発だが、囲った()が手書きっぽい。用紙のヴィンテージ感は海外有料素材にありがちな感じではあるが、よく表現できている。字が薄墨なのが気になるが、筆文字は素晴らしい。

・小林市長の入浴シーン、銭湯絵が冒頭で説明される(架空の)日本の歴史を基に描かれている。タイルの大きさは海外っぽいが、換気扇や蛇口などの位置取りが工夫されており、ちょうどよい「胡散臭さ」を醸し出す。手前に置かれた赤い電話は黒電話をしっかりアップデート。キッチリとデザインされ、中央にある猫のマークがニクい。

・ラーメンの屋台、若干の勘違い日本SF臭がするが、奥にあるタバコの看板が完璧。「竜来軒」のロゴもいい。劇中メインで使用されるフォントとも繋がる。ラーメン屋なのになぜか「せいろ」があるのはご愛嬌。メモ書きされた「替え玉 10円」の張り紙なんて誰が見るんだよ。

・昭和家具テイストなテレビの上にある、サントリー「角」を模したウイスキーの瓶は、ガラスの切り方まで再現。よく見りゃ横にあるアイスペールもそれに準じたデザイン。なにこれかっこいい欲しい。

・ラボのシーンは完全に『2001年宇宙の旅』。描かれている機械や配線すべてに意味があるように見える。どう考えても日本の光景ではないが、どこか日本的なのは銀鼠を使用しているからだろうか。というかほかのシーンもそうだが、日本の伝統色/色彩を使いまくっているくせに(とくに金の使い方とか、外国とは思えない)、ウェス・アンダーソンの色彩感覚が保たれているのは異常。

・トレイシー(グレタ・ガーウィグ)がスパイ物映画のように、壁にピンを打って糸で繋いだ写真や地図などを並べて思案するシーン。おそらく通知表が張ってあるのだが、完成度が半端じゃない。念のため私の通知表を確認してみたが、マスの大きさや枠の取り方が完璧だった。賞状、折り鶴、新幹線の切符、新聞記事、保険証など、すべてが物語に必要なアイテムで、すべての再現度が頭おかしい。

・『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』も犬ヶ島流にアップデート。これまた一瞬しか出てこないのに、あまりにも緻密チミツ過ぎる。冒頭で映し出される犬と人の歴史絵も、バンバン切り替わっていくのにクオリティが半端じゃない。

・そもそも、メインで使われるフォントがいい。可読性はやや低いが、ともすればダサくなりそうなあの面で「ウェス・アンダーソン」と出るともう最高。たぶん「ウェス・アンダーソン」の字面で決めてんじゃないのかと思う。

・とにかく直線と曲線のバランス感覚がヤバい。語彙がヤバくなるくらいヤバい。

・ホワイトスペースの取り方が恐ろしい。隙間があるのに無い。意味がわからない。

以下、100個でも200個でも、1秒1秒シーンを切り取るだけで延々と考えられるし、何ならずっと見ていたいが、正直やり過ぎである。

そして、これらすべてにウェス・アンダーソンの刻印が押され、ひとつの作品として仕上がっている。とんでもない。

街角のクリエイティブ ロゴ


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