伝統は必ずしも守るべきものではない
本作の最も大きなテーマのひとつは「伝統」である。上映前に流れる短編「アナと雪の女王/家族の思い出」も、同様に伝統について語られる。アナとエルサには伝統がないことを知ったオラフは、伝統をプレゼントしようと冒険に出かける。
映画を観終えてから考えると、この短編は結構良い導入になっていて、「アナと雪の女王」を観たことがある方には嬉しいサプライズであり、観たことが無い方にも、「面白そうだから観てみようかな」となるくらいの面白さを余裕で持っている。ちょっとしたディズニーのアトラクションのようでもあり、本編に入る前の準備運動としてはちょうど良い。
話を本編に戻すと、リヴェラ家には「音楽禁止」という伝統があり、ミゲル以外の家族はそれをおかしいとも思わずに律儀に守り続けている。伝統を盲信し続ける一族には一切の悪気がない。
出典:IMDb
「うちは音楽が禁止なんだ。なぜって? 先祖からの伝統で、音楽家にはろくな奴がいないからだ」と思考停止している。何かを信じて疑わないというのはかなり危うい。しかも、「伝統を守る」という大義名分があるので、より一層タチが悪い。ここもまた、様々な問題に代入できるだろう。
しかし、ミゲルのひたむきな音楽への、家族への愛情をきっかけとして、音楽を禁止した張本人である高祖母イメルダも、発端となった出来事の真相が明らかになることも手伝って、やがて「許し」はじめる。
生者の国でも同じく、頑なに伝統を守り続けた祖母のエレナもまた、ミゲルを、音楽を許す。この「許す」過程は本当に良く出来ていて、物語が進むに連れて、少しずつ心情が変わる様がわかりやすく提示される。身振り手振りや目つきなども、細かく変化するので、まるで登場人物たちが本当に生きているかのようだ。今回、はじめてピクサー作品を観たが、この登場人物の生々しさには本当に驚いた。とにかく動きが凄い。特に服の皺の寄り方や素材感の表現がとてつもないレベルである。
物語の後半、本作のメインテーマでもあり、邦題にもなっている「リメンバー・ミー」は、映画の前半で描かれていた意味を大きく変え、鮮やかに反転してみせる。それまで一族に嫌われていた音楽は救済をもたらし、家族の絆を強固にする。そして、新たなる伝統が生まれる。
「リメンバー・ミー」は、家族との絆、先祖を敬う心、離れていても決して忘れないことの大切さを、わかりやすく、言ってしまえば愚直に説く。「家族を大事に」などという当たり前のことを、恥ずかしげもなく高らかに歌い上げる。しかし、決してありきたりな物語に終始しない。ステレオタイプな話を余裕