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2017年に映画化された小説3選

岡田麻沙 岡田麻沙


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テッド・チャン『あなたの人生の物語』(2003)ハヤカワ書房

ドゥニ・ヴィルヌーヴが監督を務めたSF映画「メッセージ」の原作となった短篇小説。映画の詳しい紹介については、加藤広大さんの記事があるのでそちらをどうぞ。

映画「メッセージ」。宙に浮く巨大なばかうけ内での異文化コミュニケーション

本作は、映画も小説も、「宇宙人もの」かつ「時間もの」である。突然現れた宇宙人とコミュニケーションを図るため、言語学者のルイーズが試行錯誤の中でヘプタポッド文字を解読していく。するとルイーズの脳内には、「時間」にまつわる新たな認識が訪れる。

小説『あなたの人生の物語』で味わうべくは、時制の処理だ。過去・現在・未来という直線的な時間の流れから解放されるとき、それを描写する我々の言語もまた不可逆性を失う。

あなたがハイスクールの二年生のときに、ふたりですることになる会話が心に浮かぶ。あれは日曜日の朝で、わたしはスクランブルエッグをつくってて、あなたはブランチのためにテーブルのしたくをしているでしょう。
引用:テッド・チャン『あなたの人生の物語』(2003)ハヤカワ書房、Kindle版39%

「あれは日曜日の朝で」という、過去を思い出す際に用いられる書き出しの結びは、「しているでしょう」。未来への予測だ。ここで原文を辿ろう。

I remember a conversation we’ll have when you’re in your junior year of high school. It’ll be Sunday morning, and I’ll be scrambling some eggs while you set table for brunch.
引用:Ted Chiang,” Story of Your Life and Others”, 2014, Picador. Kindle版、38%

‘remember to’(覚えておく、忘れない)ではなく、’remember’(思い出す)と記されているので、明確に過去を意味する用法で文章が始まっている。だがこの’remember’が指す内容は、未来を予測する’will’(するでしょう)で表されている。一つの文章の中で、時間が捻じれているのだ。日本語版では ’remember’ を「心に浮かぶ」と訳すことで、’will’ のニュアンスも汲んだ表現に翻訳されている。いやーこれ、すげえわ

自明の理が壊れた時、言語はどんなふうに壊れていくのか? 本小説は、この問いへの一つの答えである。テッド・チャンは「宇宙人との交流」という装置を導入することで言葉の限界と可能性を鮮やかに示した。

 

まとめ

以上、昨年映画化された原作の中から、おすすめの3冊をご紹介した。
他にも、映画「ブレードランナー2049」をきっかけにもう一度、フィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を手に取るのも悪くない。電気羊の扱いがひどすぎて笑える。

感想を言おうとすると頭に血がのぼることが特徴の映画「ザ・サークル」の原作小説であるデイヴ・エガーズ著『ザ・サークル』は、無駄に長いということがさらに血圧上昇を後押しする作品である。(その必要はないが)何度も読むことで、人物造形の薄さが一周回ってリアルに感じられる可能性もあり、メンタルを鍛えたい人にはおススメできる珍味だ。

2018年も、せっせと原作を読み、せっせと映画館へ行き、せっせとシクラメンを愛でよう。

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