音楽に関する3つの要素について
本作に登場する音楽は、大きくわけて3種類ある。ひとつは、ストレートにパンクであり、既存楽曲が使われるとともに、劇中では「ディスコーズ」という架空のバンドが登場する。このバンドがまた「どこどこの誰が何をやっている」という説明すらいらないほどによく作り込まれている。
ライブシーンのカメラワークはジョン・キャメロン・ミッチェル節が全開で、「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」を彷彿とさせ、何よりも曲が3分以内で終わるというパンクマナーに忠実なのが素晴らしい。
もうひとつは、他カルチャーからの無理のない選曲で、レゲエやダブが要所要所で使われており、パンクとレゲエの橋渡しをしたドン・レッツへの目配せとリスペクトが光り、パンクの緊張とダブの弛緩は、映画のなかで見事な緩急を生み出している。また、ここぞとばかりに挿入されるヴェルヴェット・アンダーグランドの『I Found A Reason』のセレクトは流石の一言で、文句の付けようがない。
出典:IMDb
そして三つ目は、エイリアンが奏でる音楽である。現代音楽の作曲家、エコ・ミューリーやエレクトロデュオのマトモスが手がけており、一種異様なエイリアンの調べを、見事に音楽として昇華させている。また、これらの影に隠れてしまっている感はいなめないのだが、時折聞こえるアンダースコアのレベルは非常に高い。
この音楽の多様性に面食らってしまった方も多いと思う。パンクばっかりだと思っていたら実はそうでもないし、少年少女の恋愛ものかなと思っていたらいきなりゴリッゴリのパンクチューンが演奏され、あまつさえ嘔吐シーンなども登場する。これまたジョン・キャメロン・ミッチェルが仕掛けた「騙し」であると言える。
このように、記号も色々、音楽も色々で、自分の好きなものに振り回されがちな本作であるが、それらに振り回されずに観るならば、あくまでひとつの見方ではあるが、私は「言葉」とその「齟齬」について注目することをお薦めしたい。