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2017年上半期、小説以外のおすすめ本3選

岡田麻沙 岡田麻沙


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『彫刻の問題』白川昌、金井直、小田原のどか著、加藤久美子英訳(2017)トポフィル

川べりや公園を歩いていて、何の脈絡もなく、「裸婦像」に遭遇してぎょっとしたことはないだろうか。あるいは私たちはもう、様々な人が出入りする場所にさしたる理由もなくハダカの女性の彫刻があることに、疑問を持たぬほど飼いならされているのだろうか。「きっとこれがアートなのよ」などと、自らに言い聞かせて。

本書を読んで、「いや、やっぱりおかしいよね!?」と我にかえった。なぜ突然、ハダカの女が川べりに登場するのか。日常を侵食する彼女たちに、「お前はなんだ、なんでここにいる。とにかく服を着ろ」と詰め寄ることなく、なぜ私たちは、平然と暮らしているのか。

群馬県立近代美術館で、作家の事情とは関係なく、作品の展示が直前で取りやめになった事件は、記憶に新しい。本書の執筆者の1人である白川昌生は、当該作品の作者である。白川昌生は日本の彫刻事情についてヨーロッパと比較しながら、以下のように記述している。

七○年代前後には、日本のどこの駅前広場にも、なぜか全裸の婦人像がたちならび―—「希望」、「平和」とか「やさしさ」などというタイトルのプレートが台座につけられていることが多い―—、今からおもえば陳腐ともいえる風景が日本のどこでもみられた。どこへ行っても裸の婦人が手を上げて立っている。ヨーロッパの町かどや広場にも全裸の女性像があるが、これらはギリシャ神話に出てくる美の女神や、愛の女神だったりするので、建立の必要性や歴史的事件との関連性と文化的文脈が重なり合っている。
引用:白川昌生「近代・モニュメント・戦争」『彫刻の問題』(2017)トポフィル、p.14

彫刻という存在が世界でどのように変化していったか、戦争の前後で日本の彫刻がいかに奇妙な変容を遂げたかについて記された本書を読んでいると、自分が普段「目にうつるものの形」と「形あるものが持つ意味」について切り離して生活をしていることに気が付く。

言葉には質量がない。だから言葉は、意味を定めることを得意とする。一方で質量のあるものは、意味を解き放つことができる。存在の内側に空洞をたたえ、そこに常に同時代の風を通すことによって解釈の可能性を開いていくことができる。いま一度、ものの形って何だろう? という疑問に立ち返り、彫刻の可能性を開いていくための議論を、作家でも専門家でもない私たちもまた、していくべきではないか。そんなことを考えさせてくれる一冊だ。

 

以上、2017年上半期に刊行された小説以外のおすすめ本を3冊紹介した。「上半期」シリーズはこれで終了だ。お付き合いいただき読んで下さった方々に感謝。読書の秋を楽しむのに、参考にしていただけたら幸いだ。

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