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なぜ人はポテトサラダに「大人の」を付けてしまうのか?

加藤広大 加藤広大


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そもそも、まず「大人のポテトサラダ」を食す以前の問題として、私はいつも注文するのに戸惑ってしまう。ちょっと恥ずかしいのだ。

私はポテトサラダがどうしても食べたいとする。そして、店には「大人のポテトサラダ」しかバリエーションが無かったとする。

そのとき、「大人のポテトサラダをください」と言ったら、ウェイターに「うわーこいつ全部言ったよ(笑)ポテトサラダだけでいいのに」と心の中で笑われてしまうかもしれない。

「ポテトサラダください」と言えば、「うわーこいつ『大人の』が恥ずかしくて言えないでやんの」と半笑いでオーダーを取られるかもしれない。

「ポテサラください」と言えば、「何でも略せばカッコイイと思ってんのかよキムタクかよwww」とロン毛扱いされるかもしれない。

メニューを指で指して「これください」と言えば「読めよwww識字率wwww」と学力を査定されてしまうかもしれない。もしかしたら「どうせコイツは文字読めねえんだから」と、ポテトサラダではなくてマッシュポテトを提供されるなんて嫌がらせにあうかもしれない。

まず、この心の葛藤を何とかせねばならない。ひとしきり考えた後、もしかしたら、「大人のポテトサラダ」と命名したシェフ、またはオーナーは「どうしたらこのポテトサラダをより売り出せるのか」、「できるだけ多くの人に食べて欲しいんだ、ぴったりな名前はないか」と一生懸命試行錯誤し、あまりに考えすぎたものだから何が正解なのか判断できなくなり、行き着いた会心のネーミングが「大人のポテトサラダ」だったならば、これはフルネームでオーダーしなければ命名者の気持ちは報われない。ウェイターくんに笑われてもいいじゃないか。その血の滲むような試行錯誤をリスペクトし、料理をいただく。その心意気こそ大人ってものじゃないか、と、元気よく頼もうと意を決して

おとなのポテトサラダください

と前半を濁して言ってしまう。

見て見ぬふりをされ続けてきた「大人のポテトサラダ」

しかしこれだけ気になる「大人のポテトサラダ」について、私は人生のなかで一度も真面目に考えたことがない。多くの人もそうなのではないだろうか。つまり、我々人類は未だ「大人のポテトサラダ」とは一体何であるのかを知らないように思える。

言い方を変えれば、我々はポテトサラダになぜ「大人の」が付くのかを知ろうとしないことに関しては、不断の努力を続けていると言えよう。ここまで巷間こうかん溢れる「大人のポテトサラダ問題」になぜ目を背け続けて来たのか。見て見ぬふりをせねばならなかったのか、この辺りで一度考えてみるべきだ。

そう思い立ち、まずは「大人のポテトサラダ」がどれだけポピュラーであるのかを、簡単に調べてみた。

お店選びで失敗したくない人のためのグルメサイト「食べログ」によると、東京都内でポテトサラダをキーワードに含む飲食店は17,000店強ほど存在するらしい。というわけで、全部見た。

面倒なので詳細な件数はカウントしていないが、「アンチョビポテトサラダ」と「自家製ポテトサラダ」の人気ぶりが目立つ。「特製」、「燻製」なども多い。肝心の「大人のポテトサラダ」は、3番手か4番手に位置している印象だ。つまり「大人のポテトサラダ」は充分にポピュラーであると言える。

アンチョビについては「ポテトサラダだけじゃちょっとアタックが弱いから、アンチョビって付けたらいいんじゃないかな、うち、チューブだけどな」などと、何となく理由が想像できるし、自家製ポテトサラダについては、「うちは出来合いじゃない、他所とは違うんだ」という気概を感じる。

また、自家製ポテトサラダには「自家製たまごのポテトサラダ」、「自家製マカロニポテトサラダ」など、いくつかのバリエーションが見られる。前者はたまごに自家製がかかってしまっているので、自家製のたまごとは一体何なのか? もしかしたら鶏が喋っているのか? と想像力を駆り立ててくれるのもポイントが高い。

さらに派生系では、「とにかくうちは手作りなんだ、どこかで買ってきた物じゃないんだ」というバイブスを強く感じる「自家製手作りポテトサラダ〜懐かしい家庭の味を求めて〜」や、何度も「これは業務用ではないか?」と訊かれた恨みからか「手作り!!ポテトサラダ」と「何度も言ってるけどさあ、うちのは手作りなの!!」と、心の叫びが聞こえそうなものまで様々だ。

他にも、温度に特化した「熱々ポテトサラダ」、やたらと抽象的な「ひと味違うポテトサラダ」、シェフの気まぐれライクな「料理長特製のポテトサラダ」、当たり前ポエムのような「丁寧に愛情込めて仕込んだポテトサラダ」、無骨さを感じる「親父のポテトサラダ」、当たり前じゃねえか「野菜たっぷりポテトサラダ」、やけっぱち気味な「THEポテトサラダ」など、ポテトサラダの小宇宙は広がり続ける。

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