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2017年上半期おすすめ小説 全8選

岡田麻沙 岡田麻沙


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気が付けば7月が終わろうとしている。2017年の半分が過ぎ、さらに時間は空気を読まず、8月をおっぱじめようかというところであるが、「いったい自分は上半期に何をしていたんだ・・・!?」と絶望中の皆さん。大丈夫。2017年上半期、小説の世界は豊作だった。

今回は、2017年の1月1日~同年6月30日に世に出た新刊小説のうち、選りすぐりの8冊をご紹介したい。

※著者五十音順

 

1.『カストロの尻』金井美恵子(2017)新潮社

デビュー当時、「若き才媛の登場!」と騒がれまくった孤高の作家・金井美恵子の、デビュー50周年記念作。これほどまでに危うい魅力を放つ作家が、50年間筆をとり続けてきたという事実、新作に触れ続けられる僥倖ギョウコウに、読者としてまずは感謝の意を込め、書の前で手を合わせたい。

『カストロの尻』は、2つの批評的エッセイに縁取られ、6つのフォト・コラージュに彩られた小説群だ。

金井美恵子の文章は、砂を混ぜた砂糖菓子のように甘く、口の中にいつまでもジャリジャリと残る。あまりに不穏で、奇妙な密度を抱えこんだこの小説は、どのような観点からみても読みやすいシロモノではない。沢山の句点と()をはらんだ文章は、自身の長さと読み難さを、むしろ楽しむかのように、紙の上で自在にポーズを変えてゆく。例えば、こんなリズムで。

どんよりとした灰色と青が混ったような色(海と空と砂浜と海水浴で遊ぶ、黒や紺色の海水パンツと赤や青や黄色の水着姿の子供たちを描いた、夏休みの宿題の水彩画の、絵具のついた筆を洗う水を入れた容器の中でいろいろな絵具が混りあって、最終的にはあおぐろい灰色になったような)の丁度映画のスクリーン(スタンダードの比率の、上に真っすぐ立てた親指と横にのばした人差指の左手と下にのばした親指と横にのばした人差指の右手を合わせ作った縦横の比率と同じの)のような窓枠に区切られた暗い曇空(しかし、ここは・・・
引用:『カストロの尻』金井美恵子(2017)新潮社p.137

すごい。話が全然進まない。このあともずっとこの調子で、()内に潜む言葉たちは読み手の足を止めさせ、奇妙なステップを踏ませ続ける。その足譜面が圧巻だ。読むという行為に翻弄される喜びを深く味わえる傑作。手を合わせ、筆者のリズムに踊らされよう。

 

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