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2017年上半期おすすめ小説 全8選

岡田麻沙 岡田麻沙


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7.『カブールの園』宮内悠介(2017)文藝春秋

SF界の鬼才・宮内悠介による第30回三島由紀夫賞受賞作。第156回芥川賞候補作でもある。ちなみに、この筆者による最新作『あとは野となれ大和撫子』は第157回直木賞候補に挙がっている。

カリフォルニアで暮らす日系3世の女性である主人公・玲は、学生時代の友人とIT系のベンチャー企業をおこす。日々の業務と幼少期の体験により、精神的なバランスを崩した玲を見て、上司は、リフレッシュのために旅行することを命じる。ここから、主人公の、自らのルーツを巡る旅が始まりる・・・。

「バーチャル・リアリティ治療」など、宮内悠介の持ち味であるSF的な見せ場も多くあるが、本作品は抑制の効いた文体で、むしろ「日系3世」という主人公の個人的な問題にコミットし、葛藤と矜持を丁寧に描いている。直木賞・芥川賞いずれもの候補に挙げられる、守備範囲の広い宮内悠介の魅力がたっぷり詰まった小説。

 

8.『騎士団長殺し(上・下)』村上春樹(2017)新潮社

村上春樹による7年ぶりの長編小説。妻にふられたばかりの主人公(絵描き)が「顔のない男」を描こうとする場面から物語が始まる。登場人物に「イデア」や「メタファー」が出てきたり、異世界に行ったり、もちろん、例によって人妻との情事もちゃんとあったりで、村上ワールドが存分に楽しめる内容となっている。

本作の読みどころは「絵画」にまつわる一連の考察や、主人公の葛藤だ。作品にふさわしい色を探し出すまでの心の動きや、絵の具を塗り重ねる時の指や目の使い方に関する細かな描写も生き生きとして楽しめるが、とりわけ、ある段階で作品を「完成させない」という選択をするまでの描写が白眉である。あいまいな状態に耐えることの重要性を示してくれる。

重層的に意味がちりばめられた作品なので、何度も読める本を探している人にはうってつけだ。

 

以上、2017年上半期の新刊小説から8冊をご紹介した。無為に過ごした半年を、あるいは忙しさに心を亡くした半年を、もしも嘆いているのならば、新しい小説を手に取ってみてはいかがだろうか。何かをなしえた気分に、浸れるはずだ。

7月もそろそろ終わる。ククク。

 

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