映画「タレンタイム」の音楽
ピート・テオは「タレンタイム」の他にも多数の映画音楽を手がけており、ヤスミン・アフマド監督に限っていえば、「グブラ(05年)」から楽曲を提供しています。
彼とアフマド監督の出会いは2004年に遡ります。彼を偶然見つけて曲の虜になったアフマド監督が、ブログ宛にコンタクトをとったことに端を発しているそうです。そこからは映画のみならず、MVやキャンペーンでも共同作業をしています。
出典:Wikipedia
「タレンタイム」も基本的には共同作業で、ピート・テオが制作した以外のドビュッシーの『月の光』、バッハの『ゴールドベルク変奏曲』、ラーハット・ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの『O Re Piya』、いずれも劇中で重要な役割を果たす曲たちですが、この選曲に関してもアフマド監督との話し合いで決められたそうです。
このような偶然の出会いから、以後仕事をすることになる関係というのはよくあることで、パッと思いついた例ですと『ワン・フロム・ザ・ハート』のトム・ウェイツとフランシス・フォード・コッポラの一件があります。
出典:IMDb
音楽をトムが手がけることになったのも、アフマド監督がピート・テオをネット上で見つけたように、息子のジャン・カーロがトムの「異国の出来事」をコッポラに聴かせたのが発端でした。ゾエトロープがその後どうなったのかは置いといて、何がきっかけになるかわからない。出会いとは本当に不思議なものです。
さて、「タレンタイム」では『アイ・ゴー』のほかに、『エンジェル』『ジャスト・ワン・ボーイ』の3曲が演奏シーンで使用されていますが、後ろ2曲は撮影前に脚本を読んだ段階で製作されています。
Reference:YouTube
この3曲、学生たちが歌うシーンなのでピート・テオではなく、アイザットとアティリアという方が歌っています。本人は「おじさんが歌ってたら変でしょ」とさらっと流していますが、この引っ込むところは引っ込む距離の取り方がニクいですね。
しかし、イントロが流れた瞬間に「何だこれは、この音楽は、誰が作ったんだろう」と一発で気になってしまうメロディは、良い日本酒を飲んだときに似ていて、心にすっと入ってくるけれど、少しだけ味がある。それは懐かしいと言い換えてもいいかもしれません。つまり大衆に認知されていないのに「もうポピュラー」という、すさまじさを持っています。
しかし、決して我が我がと主張しない普遍的な美しい音の奥には、はっきりと個性の輪郭が見えるところがまたすごい。これ、一流ソングライターと二流ソングライターの大きな違いだと思います。