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「タレンタイム〜優しい歌」小細工なしの、とんでもない音楽映画

加藤広大 加藤広大


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音楽映画あるあるなオーディション

「タレンタイム」の序盤は楽しい音楽の時間です。なかでもオーディションシーンは爆笑のひと言。下手くそな奴や奇抜なことをして失笑を買う奴が出てくるのは、まさに音楽映画あるあるです。

「次! はい次!」と落選させていく審査員のアディバ先生(アディバ・ヌール)がいい味出してます。マレーシアの国民的シンガーなのですが、その強烈なキャラクターゆえ、マツコ・デラックスにしか見えないんですよ。

https://scontent-nrt1-1.xx.fbcdn.net/v/t1.0-9/16298929_434174590251506_3297890454249820330_n.jpg?oh=2de6ffaae8121de0b41005b907724f12&oe=59D2933C出典:公式Facebook

とはいえ、途中の緊張や陰鬱な感情を緩和させるのに、とても重要な役割を果たしてくれます。ヤスミン・アフマドは本当に役者さんの使い方が巧い。

オーディションではムルー、ハフィズ、カーホウの3人が受かり、決勝に出場することとなります。

カーホウは中国系らしく二胡のソロなのですが、ムルーはピアノの弾き語り、ハフィズに至っては、てっきりマレーシア調の音楽を弾くと思いきや、ギターを片手に飛び出してきたのは初期ジャクソン・ブラウンの『ドクター・マイ・アイズ』をアコースティックバージョンにしたような軽快なロック。しかも英語詞です。

Reference:YouTube

アディバ先生も曲の感想を言うときにジョニー・キャッシュやニーナ・シモンを引き合いに出します。

これがなぜ英語かと言うと、もともとマレーシアのラジオが流すのは香港やアメリカなどからの輸入音楽が9割以上で、マレーシアの音楽があまり流れなかったからなんですね。

ハフィズの演奏シーンでは途中からMV的演出になるんですけど、この作り方がなかなかベタでいいんですよ。このベタ感は、ヤスミン・アフマドは元々CM作成を生業にしていたからで、短いシーンに要素を詰め込むのが良い意味で小慣れているからでしょう。

このちょっとMV的な要素は、映画のスパイスに、そしてラストの演出に、大きく貢献します。

ピート・テオとドビュッシーの音楽について

音楽が本当にいい映画です。音楽映画だから当たり前だろと言われればそれまでなのですが、音楽がダメな音楽映画、たくさんありますからね。

本作、ほぼすべての音楽を担当したのはピート・テオ。

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/M/MV5BZDEyMWQ2MTYtOGMyZC00ZDAzLWIxMWItMzJhZTU1ZWY0N2I5L2ltYWdlXkEyXkFqcGdeQXVyNjkwMDM5MTQ@._V1_SY1000_CR0,0,1556,1000_AL_.jpgピート・テオ(左)出典:IMDb

あまり知られていないというか私も知らなかったんですけど、いい曲を作る作る。アベレージが本当に高いと思います。新しい、ネクストレベルな作品を制作するというよりは、ミュージシャンズ・ミュージシャン的な職人気質を感じますね。

この人、本当に気になっていろいろ調べちゃったんで、近いうちに街クリで1本コラム書きます。インターネットがこれだけ発達した世の中で、日本での知名度が低いのは大きな損失ですよ、本当に。

さきほど「ほぼすべての音楽」と書きましたが、彼が提供した曲以外で特に印象的に使われているのがドビュッシーの『月の光』。

Reference:YouTube

劇中で何度もかかります。そのうち、一回は実際に演奏しているシーンです。

ガムランに影響を受けるなど、当時の西洋音楽の概念からかけ離れ、タブーを超えた楽曲を制作していたドビュッシーの姿は、異なる宗教、文化、何より言語を超えて近づいていくマハシュとムルーに重なります。

そして、『月の光』を作曲するきっかけとなったヴェルレーヌの「月の光」で描かれた楽しいことや悲しいこと、という相反するものが同居する世界は、そのまま「タレンタイム」を貫く重要なテーマです。何より『月の光』を劇中で実際に弾くのは、ムルーでも誰でもなく、中国系でムスリムのメイリンです。

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