さて、『深海』は今でこそちゃっちゃとPC上で作成してしまいそうなビジュアルであるが、前述したとおり、すべてが手作業なのである。実はここにも、少しピンク・フロイドに通ずるところがある。
ピンク・フロイドのジャケットを多く手がけていたストーム・ソーガソン(ヒプノシス)は、アルバム『鬱』の撮影時、700以上のベッドをイギリスのデボン州ソーントン・サンドの海岸に並べて撮影し、アルバム・ジャケットにした。
鬱/Momentary Lapse of Reason(出典:Amazon)
PCの画像で見るとわかり辛いが、実際にジャケットを手にとってみると、その手作業の凄みが伝わってくる。『深海』は、歌詞カードのザラついた紙もいい。
今思えば、ある意味病的な手作業やこだわりが許されていた幸福な時代であったのかもしれない。
そして、レコードやCDは、音とジャケット/ライナーノーツのデザインを含めた総合芸術である。1990年代は、レコードの時代から、CDジャケット・デザインへの時代へと変わり、デザイン手法や使用素材などが目まぐるしく変化し、さまざまな実験がおこなわれていた時代でもあったのだ。
さて、『深海』を引っさげたツアー『Mr.Children TOUR REGRESS OR PROGRESS ’96〜’97』のファイナル、3月28日の東京ドーム公演をもって、1997年、ミスチルは約1年間の活動休止期間に入ることとなる。
深海とは、一般的には水深200m以上の海域を指す。そこでは太陽の光はほぼ届かない。しかし、彼らの『深海』は、光合成すらできないほどの海底にあっても、真っ直ぐと伸びた道標のような一筋の光で照らされていた。その光に導かれたかどうかは定かではないが、活動休止という海の底から浮上したメンバーたちは、傑作を作り続け、不動のメンバーで走り続けている。
そして、2017年の今年、ミスチルは25周年を迎えた。そういえば、私も34周年である。随分とおっさんになったものだ。作文集の最後のページには、未来への自分にあてたメッセージがあった。
「20才の私へ。ミスチルのアルバムを売るな」
と、紫色のペンで書かれている。
何を言っているんだ。14歳の自分よ。捨てるわけないじゃないか。さあ、久しぶりに聴きなおそうと、CD棚を漁った。
20才の頃、金に困って売ってしまったのを思い出した。ごめんな、14歳の自分よ。これを機に買いなおすよ。