本作で注目すべきところは、クヴァンゲル夫婦を含む登場人物たち、彼らを捉えようとするゲシュタポでさえも戦争に巻き込まれたものとして映し出されていることだ。
彼ら夫婦が住んでいたアパートは、ナチス・ドイツを縮化したようだった。
息子を亡くしたクヴァンゲル夫婦。隠れユダヤのローゼンタイル婦人。老婦人に日常品を届ける女性郵便配達員。それを知り婦人宅に夜襲をかける郵便配達員の夫。密告を生業とするナチ党員親子、そしてナチ党員から老婦人を匿うフロム判事。
アパートは悲しみと生傷を内包していた。
ナチスに従うか、抗うか。
人を助けるか、退けるか。
一人一人の行動は、戦争という大きな濁流の影響を受けていた。戦前からエリート(公務員)のゲシュタポも、戦時中に成り上がったナチス親衛隊に権力を振りかざされ、圧されてしまう。