雨の日の朝は決まって母親が玄関先に長靴を用意してくれていた。小さな子どもたちの分と、黒くてでっかい父親の分。父親はなぜか普段出社する時でもサンダル履きだったため、たいした雨が降っていなくても魚屋みたいな長靴を履くほかなかった。
サンダルか長靴の二択。子どもながらもその振れ幅の大きさに、もうちょっとなんとかならないものかと言葉にならない不満をもっていた。その不満の正体は「ダサい」だった。なぜうちの父親は傘がいるかいらないかの微妙な天気の日に、魚屋みたいな格好で歩いているのか。
サンダルで出かけた帰りに雨が降ったときは、さらに最悪だった。サンダルの上からスーパーのビニール袋を履いて丸々とした足元はまるでドラえもん状態。カサカサ音を立てながら帰宅する父の姿に、笑いと殺意が入り混じる。雨の日にはそんな鬼ダサい記憶が染み付いているのだ。
そのダサい記憶を覆すかのように、長靴に追い風が吹いた。いつの日からか長靴はレインシューズという洒落た名前で呼ばれるようになり、今ではすっかり市民権を得ている。たしかにあれを履いていれば、助走をつけて水たまりを飛び越えなくてもいいわけだし、水が染み込んでぐっちゃぐっちゃと音を立てる靴に新聞紙を詰めて乾かさなくてもいい。レインシューズがオシャレなヤングの間でもフィーバーするのは至極当然だったのだ。
レインシューズ王の称号にふさわしい「AIGLE」と「HUNTER」
AIGLE
出典:AIGLE
HUNTER
出典:HUNTER
まず女性の間で火がついたのは、AIGLE(エーグル)とHUNTER(ハンター)のレインシューズだろう。
もはや見たことがない人はいないくらい王道。そもそもは野外フェス流行で需要が高まったものだが、よく見ればブーツとたいして変わりはないし、街中で履いたってオシャレでしょ? ってファッション誌でもどんどん取り上げられて、一気にレインシューズがオシャレアイテムのスターダムにのし上がっていったのだ。それまで庭仕事でしか相手にされなかったHUNTERさんもさぞかし驚いたことだろう。
ファッション的視点でいうと、普段着に足元だけアウトドアというミクスチャーはデイリーカジュアルとしては高得点。そして本当に悪天候の日はバリバリ活躍する一品なので、備えておいて損はない。小学生ばりに水たまりの中へズブズブ入って楽しんでほしい。