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春に現れるナンパ師たちの奇行3選

岡田麻沙 岡田麻沙


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3. ばらまきたい衝動を抑えられない肉食獣

一部の生物学者はこう言う。「男というのは生物学的に、できるだけたくさんの種をばらまきたいと考える生き物なのだ」と。普段は、鼻くそを眉毛になすりつけながらこういった言説を聞き流すようつとめているが、「男ってばらまきたい生き物なのかも」と思わされてしまったナンパがひとつ、ある。

彼はおそらく30歳前後で、華奢な身体をビジュアル系のビラビラした飾りをたくさんぶら下げた洋服で包んでいた。すだれのような前髪と相まって、スタイリッシュな短冊といった風情があった。心斎橋エリアのアーケード街で、短冊男は4、5メートル手前からこちらに目をつけたらしく、肉食獣のような表情でじわじわと距離を縮めてきた。しかし何かがおかしい。ぴったりとしたパンツのポケットに入れた手をごにょごにょと動かしている。

彼は、パンツのポケットに手を入れたり出したりしながら近づいて来た。進路を変えてスルーする予定だったはずが、短冊男の奇行に目を奪われ、間合いを詰められてしまった。彼は「ちょっといいですか」と割と凡庸なブレイクスルーを口にしながら斜め隣を陣取った。しかし気になるのはその右手である。何をしているのか。

よく見ると彼は、ポケットの中に溜まった糸くずを、そこかしこにばらまいているのだった。短冊男が右手を持ち上げるたび、一束、二束と黒いごにょごにょが地面に舞い落ちてゆく。百歩譲って、ナンパの最中に糸くずを気にしてしまう小ささはまあいいとしよう。だがそのポケットはどうなっているのか。わたしと目が合ってからもう10回は出し入れをしているはずなのに、なぜ糸くずは尽きることがないのか。もしかしてそれは糸くずに見せかけているけれど、「グリーンマイル」でジョンが吐き出したアレと同じような、邪悪な何かなのか?

しばらくすると短冊男は無視を続けるわたしから離脱し、新たな獲物を探す鋭い目つきで周囲をねめつけ始めた。その間、右手はポケットの中で完全に静止していた。そしてターゲットの女性を見つけ歩き出したその瞬間。

ぶわっ。

再び彼の右手はせわしなく、黒いごにょごにょをばらまき始めたのである。何なんだいったい、その無尽蔵の糸くずは。数々の謎を残したまま去っていく短冊男の後ろ姿を眺めながら、「やだ、男って本当にばらまきたい生き物なのかもしれないわ・・・」と感じてしまった。しかし世間一般の男性が着用する洋服のポケットには、無限の糸くずを排出する機能など備わっていないはずなので、きっとわたしの実感は間違っていたのだろう。いずれにせよ、ナンパに有利な言説を一瞬でも信じさせてしまう、彼の高度な身体能力には脱帽である。本当のプロは体で語るのだと感じさせられた体験であった。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/03/N784_kabenimotarerudansei_TP_V-730x450.jpg

以上が、出会いの季節に遭遇したナンパ師たちの奇行3選である。出会いを求めている方々は、ご紹介してきたエピソードを新生活の一助としていただければ幸甚である。

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