• MV_1120x330
  • MV_1120x330

酔っ払いにおすすめのB級グルメ「富士そばのカレーカツ丼」編

加藤広大 加藤広大


LoadingMY CLIP

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

huji_soba

富士そばのカレーカツ丼、それは甘美でグロテスクなキメラ

富士そばは通常の立ち食いそば屋と違い、椅子やテーブルが設置され、ギリギリ攻めた和風の内装が施されていることが多い。入店するやいなや漂う蕎麦屋特有の香りを鼻から吸い込むと「ああ、俺は今富士そばにいる」と改めて実感し、ついでに専門学校が恵比寿だったので、個人的には郷愁の類すら感じる。

店内BGMはもちろん絶妙な音量で漂う演歌である。飲み屋の喧騒を離れて食券を買い注文し、水を汲んで着席し、ひとり今日の反省をする。この時間がまたいい。

間もなく、注文した品がカウンターに置かれる。いよいよカレーカツ丼との対面である。以下の写真は2012年2月16日の朝方に、富士そば恵比寿店で提供されたカレーカツ丼(とわかめ蕎麦)である。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/01/kare_katsudon001.pngカレーカツ丼

通常のカレーの間に正体不明の黄色い物体が無造作に置かれているが、それは「カツ丼のカツの部分」である。そう、富士そばのカレーカツ丼は、カレーの上に鶏卵で閉じた豚カツが載せられているのだ。つまりカツカレーとカツ丼のキメラなのである。

口中に放り込んだ瞬間、割り下の甘みと肉の旨味が脳内にまで広がり、一瞬「カツ丼・・・?」と感じるも、即座にやってくるカレーの芳醇な味わい。これが泥酔している状態だと余りに美味く、素面ではとても直視できないようなハイカロリーの暴力を前に脳が完全に「美味い」「けど胃がヤバい」を繰り返し、完全にトリップしてしまう。

カツ丼の具として誕生したカツは、本来の目的に用いられず、カレーの上に乗せられて再生する、という誕生、死、再生のサイクルは、富士そばが生み出した知の結晶、幸せなブリコラージュである。

が、あまりに異型、というよりは「食ったら確実に胃もたれするけど食いたい」という正気と狂気のスパイスが交互に振りかけられるなかで口に運ぶ米、カレー、煮られたカツは、判断力を失った状態の人間にとって、控えめに言ってもグロテスクなほどに美味すぎるのだ。

ところで、この写真だと卵焼きに見えてしまわないこともないのでもう1点、今度は持ち帰りのカレーカツ丼の写真を以下に掲載する。2016年12月25日のクリスマスに代官山店から持ち帰り、自宅にて撮影されたカレーカツ丼である。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/01/kare_katsudon_002.pngカレーカツ丼(持ち帰り)

こちらはカツ丼とカレーが無残にも引き裂かれてしまっているので、「カツ丼にカレーが付いているだけ」的なパンチの弱さがあるのが残念だが、結局混ぜて食うので一緒である。どちらにせよ美味いし、わくわくしながら持ち帰って家で食べるぶん、また違った味わいを楽しめる。

しかし、これだけ脳内に激しく訴えかける(酩酊状態に限るのだが)味がありながら、ミシュランガイドに見過ごされているのはどうにも納得がいかない。調査員(または推薦者)は「チェーン店」だからと言って見過ごしているか、あえて「自分が行きたいので混むと困る」がために見逃しているか、さらには、おそらくこれがいちばん予想されることなのだが、店側が掲載を拒否しているかのいずれかであろう。繰り返すが、酩酊状態に限り、受星まではいかなくとも、ビブグルマンに不足なき味、それがカレーカツ丼なのだ。

街角のクリエイティブ ロゴ


  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP