直木三十五賞
ここで、直木賞のことを話しておきましょう。
応募して、取るような賞ではありません。もともとは無名作家や新人作家の登竜門だったのですが、今では中堅作家の箔(ブランド)になっています。
純文学の新人賞である芥川龍之介賞と双璧ですが、こちら直木賞は大衆向けです。
両方とも文藝春秋社が決めています。創設は1935年ですからかなり古いです。文藝春秋社を創業した菊池寛によるものです。
菊池寛の名前は聞いたことがあると思います。この頃の文人は、自分で言いたいことは、自分で発刊するという時代でした(金持ちに限る)。
芥川龍之介は誰でも知っているので割愛しますね。では、直木三十五は?
どうして文人は、直木三十五を語らないのか。
→陸(ろく)でもない人だったから。
どうしてそんな人の名前を賞につけたのか?
→菊池寛の友人だったから。
もちろん、直木三十五自身と、直木三十五賞は、まったく関係ありません。
ちなみに、芥川賞をどうしても欲しがった人に、太宰治がいます。
「芥川賞クレクレ」と、ずっ~と言っていました(コレ本当です)。
あらすじ2(小説より引用)
椅子に座るなり白い上掛けを着せかけられた
髪に温水がスプレーされ
頭に蒸しタオルが載せられる
タオルを頭皮に押しつけてくる
背筋を、ようやく椅子に預ける
ヘッドレストとフットレストのついた椅子は、おだやかな抱擁のように僕を包む
目の前には大きな鏡がある
後頭部の髪が櫛でぐいっと引き上げられる
逆撫でされた髪が、しゃきんという音とともに切られ、櫛から開放される
鋏を換え、櫛も違うものを手にして、また後頭部へ戻った
さくさくさく
鋏の音が小気味いい
僕の頭に指をあてて、顔をあおむかせる
鏡の中の水平線がほんの少し落ちこみ
傾いた陽が藍色の海に金の粒をまき散らしはじめた
違う鋏を手に取った
ほんの少しだけ鋏を入れられる
髪はずいぶん短くなった
うなじがうすら寒い
いつもと違う人相をしていた
鋏を剃刀に持ちかえて、毛先を削るような動作を繰り返していた
上掛けに落ちた毛をブラシで落としはじめる