5. 「幸せの黄色いハンカチ」で飲み干された記念すべき出所後初のビール
食事はただ何かを食べたり飲んだりするだけではありません。シチュエーションも重要です。我慢に我慢を重ねて、やっとありつけた空腹時の食事が美味しいように、同じものでも状況によって味と満足度は大きく違ってくるものです。
その「これ絶対美味いだろうな」というシチュエーションのなかで、もっとも強度があるもののひとつと言えば、「刑務所からの出所後、はじめて自分から選ぶ食事」でしょう。
この映画でも、網走刑務所から出所した島勇作(高倉健)が食堂に寄ってビールを頼み、しょうゆラーメンとかつ丼を注文した後、両手でコップを持ってビールを一気に飲み干すシーンがありますが、実際2日間の絶食で臨んだ高倉健の演技には、すさまじい説得力があります。
出典:「幸せの黄色いハンカチ」
これ、一度は体験してみたいのですが、まず刑務所に入って刑期を終え、出所後にビールを飲む。というハードルの高さゆえ、未だ実現できずにいます。出所後の一杯のために刑務所に入るのは正常な精神状態ではなかなか難しいものですが、酒飲みならば一度は体験してみたい「美味さ」なのではないでしょうか。
6. 「グッドフェローズ」の刑務所内で開かれる、マフィアの3分クッキング
やたらと食事シーンが多いことで有名・・・かどうかは知りませんが、実在したマフィアの話を元に描かれた映画、マーティン・スコセッシ監督の「グッドフェローズ」も食物映画界では外せない一本です。
その劇中の食事シーンのなかでも、刑務所の中でマフィアの大物たちが金に物を言わせて調達した食材で料理する「刑務所ディナー」のシーンは、まるでマフィアの優雅な3分クッキング的な流れで、視聴者の胃袋を刺激します。
ニンニクをカミソリで薄く切り、自家製のトマトソース、分厚い肉をステーキにして赤ワインに白ワイン、バゲットにスコッチ、サラミまで至れり尽せりでして、これまた「食うこと以外に楽しみがないんだろうなあ」と先ほどのビールとは逆の意味で「美味さ」が伝わってくる名シーンです。
出典:「グッドフェローズ」
「肉食いすぎたからサンドイッチでダイエットしようぜ」的なオチも秀逸ですね。この他にも、警察のヘリに監視されながらも、料理の準備にだけは、特にトマトソースの仕込みには万全を期すなど、料理的な見どころ満載です。しかし、ただ単純に食事や料理を登場させている。というわけではもちろんございません。この「料理」というものが、劇中でとても大事な役割を果たしているのです。
トマトソースにこだわり続けた男が迎えた結末は、シド・ヴィシャスの歌う『マイ・ウェイ』とともに、ぜひともご自分の目でご確認ください。