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カット・アップ千夜一夜。ウィリアム・バロウズが切り取った無意識

加藤広大 加藤広大


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(出典:animalnewyork.com

世界中の麻薬を体験し、大人になっても仕送りばかりの放蕩暮らし、ウィリアム・テルごっこをしている最中に奥さんをピストルで撃ち殺し、男にフラレて小指を詰める。稀代の変態作家「ウィリアム・シュワード・バロウズ二世(以下バロウズ)」は、文学の世界に「カット・アップ」「フォールドイン」という技法を広めた第一人者でもあります。

「カット・アップ」とは、新聞や雑誌、または自分で打ち込んだ文章を一度バラバラに切り取り、それを組み合わせることで、新しい文章にする技法です。

例えば

・街角のクリエイティブはパリ、ニューヨーク、ハワイ、ロンドン、ベルリン、東京、世界一周中の旅人ライターによって運営されています。

・太陽系とは、太陽および太陽の周囲を公転する天体惑星系と微粒子、さらに太陽活動が環境を決定する主要因となる空間から構成される領域をいう。

という2つのまったく関係のない文章をカット・アップしてみると、以下のようになります。

「街角のクリエイティブはパリ、東京、ロンドン、ニューヨーク、天体惑星系と微粒子、ベルリン、さらに太陽活動が環境を公転する主要因となる空間から構成される領域によって運営されています」

ものすごい壮大になりました。地球外からもシェアされそうです。このように、複数の文章を組み合わせることで、まったく意味の違う文章や、新しいフレーズを見出すことを目的とした技法がカット・アップです。

かたや「フォールドイン」とは、カット・アップで文章をバラバラに切り刻むのではなく、ページを折り曲げるなどして、他の文章につなげたものや、2枚の紙を裁断してそれぞれをくっつけるという技法です。

そのカット・アップとフォールドインを駆使して、文学史の記憶に残る奇書を創作したのが、バロウズその人です。

1914年2月5日に生まれたバロウズは、特に不自由なく、曰く「退屈な」少年時代を過ごし、ハーバード大学にて英文学を学びます。36年に同大学を“まずい成績”で卒業し、卒業旅行としてパリとウィーンで半年過ごします。その間、ウィーンで医学を志していましたが、当時はちょうど第2次世界大戦の足音が迫っており、現地ではナチズムが台頭し始めていました。それを嫌ったバロウズは、医学の道を中断しています。時を同じくして、ユダヤ系女性のイルゼ・クラッパーの亡命を助けるために偽装結婚もしています。と、なんだかロマンチックな話になって来ましたが、以下の文をご覧ください。

また、バロウズの元には、卒業と同時に両親から毎月の(信託財産の)仕送りが始まります。その額はおおよそ毎月200ドル、今にすると一ヶ月30万円くらいの感覚だったそうです。年額にして360万円、自分の収入をふと思い出し、書いてて悲しくなってきましたが続けます。



仕送りが羨ましいウィリアム・バロウズ(出典:Wikipedia

その後、1938年には友人のツテを頼ってハーバード大学院に入り、考古学を専攻し、ナバホ語とマヤ考古学を学びます。1940年には海軍将校に応募するも、肉体的な問題で不合格。ついでにCSS(CIAの前身)に応募するも、人格的な問題で不合格。そして第2次世界大戦開戦後には、てっきり徴兵されて戦争にいくのかと思いきや母親のコネで兵役を免れます。その後、徴兵によって働き手の減ったシカゴに向かい、さまざまな職を転々とします。工場勤めを3日、私立探偵を2週間、バーテンダーを2週間……果たしてこれは働いているといえるのでしょうか。

そして流れ着いたのが、A・J・コーエン害虫駆除社です。こちらはなんと8ヶ月も続いています。しかし、彼の1日の平均勤務時間は2時間でした。やっぱり働いていません。

そんな自由気ままな生活を送りつつも、1943年にはビート・ジェネレーションの旗手、アレン・ギンズバーグ、ジャック・ケルアックと運命の出会いを果たします。当時のバロウズの周辺には、奇妙な知的不良集団のようなものがあり、ギンズバーグもケルアックもそこに加わり、いかがわしくも知的なおっさん、バロウズと親交を深めていきます。


右からバロウズ、ケルアック、ギンズバーグ(出典:LIVEJOURNAL

その頃、バロウズは故買屋としての仕事も始めています。街のチンピラを相手に、ヤバめなブツから比較的ヤバくないブツまで、いろいろと売り捌いて小銭を稼いでいました。そして、故買屋をしている最中に手元に渡ってきたモルヒネを使ってみた結果、バロウズは中毒に陥ります。それからはもう、麻薬中毒者のお決まりコースに一直線。いくら月々の仕送りがあったとしても、麻薬を買う金に使ってしまい、生活に困ったバロウズは、故買屋からランクアップ、麻薬の売人として生計を立て始めます。

この辺りのお話は、彼の名著にして、おそらく一番読みやすいであろう『ジャンキー』に詳しく書かれていますので、興味がある方はぜひともご覧ください。


『JUNKIE』Ace Books版(出典:Wikipedia

余談ですが、『ジャンキー』を訳した鮎川信夫は、大学時代にT・S・エリオットについての卒論を書いています。奇しくもバロウズも、大学在籍時に同じ題材を研究していました。そして、伝説の詩人、ナナオサカキをして「英語の先生」と言わしめたのも鮎川信夫その人なのです。ですから、バロウズが執筆した小説は、翻訳について賛否両論ありますが、訳者のバックボーンを鑑みるに、この『ジャンキー』は間違いありません。後述する『裸のランチ』についても同様ですが、こちらは完全版にて、山形浩生氏の補訳が入っていますので、こちらをおすすめします。

話を戻しまして、ニューヨーク、テキサスと住む場所を転々としながら堕落した生活を送るバロウズは、1952年にメキシコシティで、バロウズ伝説のひとつ(もっとも、事実ですが)、“ウィリアム・テルごっこ事件”を引き起こします。ある日、仕送りをすべて麻薬代に注ぎ込んでいたバロウズは、金に困って愛用の銃を売ろうとし、買い手を待っていました。しかし、買い手がなかなか現れなかったため、暇つぶしに妻ジョーンがグラスを頭に乗せてウィリアム・テルごっこを始めたところ、ぐでんぐでんに酔っ払っていたバロウズはグラスではなく奥さんを撃ち殺してしまったのです。


事件当時の新聞(出典:The ARTIFICE

一旦は逮捕されるも、まさかの2週間足らずでスピード釈放され、その後は公判を待ちながらメキシコで暮らしはじめます。自由すぎます。

さて、前述した『ジャンキー』は、事件の翌年1953年に販売されることとなります。しかし、反響は全くと言っていいほどありませんでした。失意の中、バロウズはその翌年にモロッコのタンジェに移住します。そこで出会うのが今回のタイトルにもなっている「カット・アップ」技法をバロウズに伝授したブライオン・ガイシンです。


ブライオン・ガイシン(出典:Wikipedia

画家であり、作家、作曲家でもあるブライオン・ガイシンは、当時モロッコに住み、コラージュやテープレコーダー実験などの創作活動と同時に、山岳民族である「ジャジューカ」の音楽を聴かせる「千夜一夜」というレストランを経営していました。しかし、彼の経営するレストランは「ジャジュカ族に呪いをかけられて」倒産してしまいます。無一文になったガイシンは1959年にパリでバロウズに再会し、同じホテルに滞在することとなります。そこでガイシンはバロウズにカット・アップ技法を伝授しています。

バロウズのみならず、ガイシンに影響された人物は数知れず、「ローリング・ストーンズ」ブライアン・ジョーンズにジャジューカを紹介したのも彼ですし、そのカット・アップの技法はデヴィッド・ボウイ、ミック・ジャガー、ローリー・アンダーソンなど、さまざまなアーティストに受け継がれています。

ところで、類は友を呼ぶといいますが、何もこんな変態ばっかり集まって来なくても良いのではないでしょうか。今回のコラム、まともな人間が一人も出てきません。

こうして、ブライオン・ガイシンに影響されて出来た小説が『ジャンキー』の次に発刊された『裸のランチ』です。そして、このモロッコでの体験と、身につけたカット・アップ技法は、後の『ソフトマシーン』、『ノヴァ急報』、『爆発した切符』という「カット・アップ3部作」でいかんなく発揮されます。


『NOVA EXPRESS』(出典:Wikipedia

バロウズはカット・アップにより、何を見出そうとしていたのでしょうか? 彼には「現実は、あらかじめ録音された出来事や思考過程を再生しているように見える」という持論がありました。また「言語もまた不自由を強制する」という認識も持っていました。バロウズはその、あらかじめ録音された再生と、言語からの不自由に抵抗するために、意識的にカット・アップ技法を利用しています。

しかしながらあまりにカット・アップし過ぎた文章は、一般性を欠き、逆に読者に不自由を与える結果となってしまいます。これは読み手の問題だけではなく、バロウズ自身も心酔していたカット・アップから立ち戻り、カット・アップをあくまでひとつの「技法」として扱い、上手く付き合いながら後の作品を制作したことからも明らかです。

こうして、以降の作品からはカット・アップは影を潜めるものの、その無意識的・実験的な創作をしたバロウズの遺伝子は、未だ多くの何かを創る人の中に、手を変え品を変え、組み込まれています。

このカット・アップですが、細かいことを抜きにすれば、誰でも扱える技法です。せっかくなので、カット・アップを使って、言葉で遊んでみることにしましょう。大丈夫、新聞や雑誌は必要ありません。今や時代はとても便利になりました。ドクター・バロウズというサービスを用いて、インターネット上の膨大なテキストを利用し、自動的にカット・アップが可能です。

カット・アップするテキストは、誰でも知っているであろう童話「ももたろう」と「こぶとりじいさん」を選んでみました。早速カット・アップしてみましょう。

こぶとりたろう/カット・アップVer.

むかしむかし
鬼たちが近くの村からぬすんだ宝物やごちそうをならべて
酒盛りの真っ最中です

そして桃太郎も
刀をふり回して大あばれです
みんな
そんな事はちっとも気にしない

おじいさんは山へしばかりに
そんな事はちっとも気にしない

おばあさんが川でせんたくをしていると
右のほっぺたに大きなこぶのあるおじいさんが住んでいました
それはとても邪魔なこぶで
酒盛りの真っ最中です

そしてある日
ドンブラコ
ドンドン
ピーヒャラ
大きな桃が流れてきました

おじいさんとおばあさんは
酒盛りの真っ最中です

おや
プルルンとふるえます

最初は怖がっていたおじいさんも
そんな事はちっとも気にしない

旅の途中で
右のほっぺたに大きなこぶのあるおじいさんが住んでいました
とてものんきなおじいさんでした

目を覚ましたおじいさんは
ドンドン
どの鬼たちも
ドンドン
ええい
刀をふり回して大あばれです

イヌは鬼のおしりにかみつき
酒盛りの真っ最中です

うひゃーーー

そしてある日
どの鬼たちも
ドンブラコ
ドンブラコと
おじいさんに言いました

うひゃーーー

おや
賑やかなおはやしの音が聞こえて来るではありませんか

真夜中になりました

うひゃーーー

おじいさんとおばあさんは
もう一人のおじいさんの右のほっぺたにくっつけてしまいました

ドンブラコ
大きな桃が流れてきました

二度と来るな

その音のする方へ行ってびっくり

ペターン

サルは鬼のせなかをひっかき
宝物のおかげでしあわせにくらしましたとさ

……最低な文章になってしまいました。前述したカット・アップの重要点が全く活かされていません。これは悪い例です。

経験上、日本語でカット・アップをおこなう場合は、専門書や何かの取扱説明書などの文章を、時事ニュースなどに混ぜてカット・アップすると、簡単に雰囲気が出ます。このままだと阿呆な文章を作成してこの記事が終わってしまうので、もう一回やってみましょう。

適当に思いついた単語をWikipediaで引いて文章を引用、味付けとして、ティモシー・リアリーの『smi2leメッセージ』、最近話題な難民関連のニュース、青空文庫から辻潤の『錯覚した小宇宙』をそれぞれ3行ほど引用し、カット・アップしています。

やりなおしカット・アップ

ヌクレオモルフは細胞内共生説を避けられるとした銀河の領域である

偉大なる科学者のすべての大発見や発明も単なる理性の働きによっている

幼生的アイデンティティーは超越しなくてはならない

ジアゼパムなどのベンゾジアゼピンは1905年にはフランスのモロッコ支配を開き

そのすべてが故郷へ帰還しなくてはならない

生き残るためには中枢神経のGABA受容体に作用する難民や移民に対し国境を誓うのだ

問答も常識的に考えると人を強く支持する量で殆どの人に鎮静効果がある

君たちの惑星にばらまかれたのだ

忠誠を馬鹿にした洒落の交換とも思われるが

緊急の会議を阻止しようとする動きが出るなど混乱が深まっている

種族や文化

完全な自由

中枢神経のGABA受容体に作用

ジアゼパムなどのベンゾジアゼピンは中東などから流入するための青写真

幼生的アイデンティティーは超越しなくてはならない

生命の種は故郷への帰還を得た言葉だ

国籍によった心的現象が現われて「悟得」する難民や移民に対し国境を得た言葉だ

ヌクレオチドの鋳型として段階的に進化する量で殆どの人に鎮静効果がある

君たちの惑星の生命体はすべてひとつであり一種のテレパシイが行なわれるのだと自分は信じている

君たちの惑星の生命体はすべてひとつであり一種のトランス状態に没入した意味だと自分は考えている

種族や文化

完全な自由

中枢神経のGABA受容体に作用

しかし中心から十分遠くでもある

なんだか意味ありげな文章になりました。出来の悪いSF小説の冒頭みたいですが、まあ、百歩譲ってこれならば少しはカット・アップだと言えるでしょう。しかしまだまだ、バロウズのカット・アップの影も踏めませんね。

意識的にしろ、無意識的にしろ、カット・アップは言葉(文章)を選ぶ能力が試されます。その能力をカット・アップにより鍛えてみたり、書くことやアイデアに詰まったりしたら、積極的にカット・アップ、フォールドインを取り入れてみると、頭の体操になったり、何かしら新しい発見があるのではないでしょうか。

それはそうと、街角のクリエイティブに寄稿させていただいて、かれこれもう10本ほど書いているのですが、初めてクリエイティブっぽいことが紹介できたような気がします。この記事が、どこかの誰かのお役に立てば幸いです。

【参考】(著)山形浩生(2013年)/たかがバロウズ本 Version 1.0.4β2

街角のクリエイティブ ロゴ


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