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多くの競馬ファンが自分を重ねた逃亡者「ツインターボ」

加藤広大 加藤広大


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人生未勝利の32歳馬、加藤です。競馬を愛した作家の一人、寺山修司の言葉に「競馬ファンは馬券を買わない。財布の底をはたいて自分を買っているのである」というものがあります。

競馬は賭ける楽しみ、予想の楽しみはもちろんですが、自分の人生を馬に重ねてみるという楽しみ方もあります。馬も人間と同じように、性格や能力、体格、毛色もそれぞれ違います。短距離が得意な馬、長距離が得意な馬、普段は大人しいけれどもレースでは気性が荒くなる馬、レースの前なのに雌馬の尻ばかり追っかけている馬、ドヤ顏をしながらパドックで糞尿を垂れ流す馬、いろいろです。競馬ファンは意識しているにしろ、していないにしろ、まるで自分の人生を占うかのように自身に似た馬に賭け、数分間だけの「もうひとつの人生」に一喜一憂するのです。

そういえば、渋谷の並木橋にある場外馬券場は9時を少し過ぎた頃に開くのですが、開店した瞬間に和式トイレに駆け込んだのにも関わらず、すでにう〇こが的を外れて落ちていることがあります。その落とし主は、きっと土日がくるたびに、パドックで漏らす馬に自分を重ねているのでしょう。

さて、1988年の4月13日に北海道は静内町の福岡牧場で誕生した、ツインターボという馬がいます。


ツインターボ(出典:ニコニコ大百科

父はライラリッジ、母はレーシングジイーン、食が細く非常に小柄な馬体ながらも、しっかりとしたバネを持った彼は、すくすくと育ち、1991年の3月2日にデビュー戦を迎え、競走馬としての活動を開始します。

デビューから引退まで、一貫して取られていたツインターボの戦法は、名前の通りの大逃げ(おおにげ)。これはゲートが開くと真っ先に先頭に立ち、2番手以下の馬を大きく引き離し、ゴールまで逃げ切るという非常に豪快な、漢らしい作戦です。

逃げ切った時の勝ち方も豪快なら負け方もまた爽快なのがツインターボ最大の魅力でした。先頭で走っていたら突如失速、エンジンは逆噴射し、あっさり後続の馬に捕まってしまうのです。強気の大逃げから一点、ぐんぐんと馬群に沈んでいく玉砕スタイルは一種のお約束であり、観客も「ツインターボはいつ止まるのか」と期待し、失速した瞬間、彼の馬券を持っている人すらも「やっぱり今日もかw」と思わず笑ってしまうのでした。

競馬ライターの山河拓也氏は、ツインターボを「悲壮感なき玉砕。こんな馬、他に誰がいるか。いない。ツインターボだけだ」と評しています。この「悲壮感なき玉砕」という言葉はツインターボの魅力を的確に言い表した素晴らしい表現です。この逃げ切って勝つか、失速して負けるかの、漢気溢れるやけっぱちのレース運びは、多くの人に強烈な印象を残し、今でも語り草となっています。

ツインターボの大逃げがたっぷりと楽しめる名レースと言えば、6歳の時、それまでの不調を乗り越え、見事カムバックを飾った七夕賞の後に出走した「オールカマー(当時G3)」です。鞍上は前走と同様に逃げ巧者、中舘英二が手綱を握りました。

Reference:YouTube

偉大なる刺客ライスシャワー、桜花賞馬シスタートウショウなど、一線級のメンバーが揃う中、ツインターボはスタートからぐんぐんと飛ばし、いつもの通り大逃げを打ちます。あっという間に先頭に立ち、5馬身、6馬身と後続との差をつけていきます。向こう正面に差し掛かる頃には後続集団まで20馬身以上の大差をつけて逃げ続けます。どよめきともとれる歓声の中、ツインターボがたった一頭、他馬を寄せ付けないまま最終コーナーを回り直線に入ります。2番手にいたホワイトストーン、追い上げてきたライスシャワー、2着に入線したハシルショウグンに影すら踏ませず、単騎でゴール板を駆け抜け見事に逃げ切ります。終始完全なる一人旅、これこそが逃げ馬と言わんばかりの大逃走劇でした。

一方、ツインターボのもうひとつの魅力である、逃げが決まらず逆噴射してしまったレースから、オールカマーの翌年に行われた「有馬記念(G1)」をご覧ください。
大逃げを打ちながらも圧倒的な玉砕っぷりを見せつけてくれるツインターボと、シャドーロールの怪物ナリタブライアンの圧倒的な強さが味わえる二度美味しいレースとなっています。

Reference:YouTube

ブライアンの他にもヒシアマゾンなど、伝説級の馬がひしめく中、やっぱりツインターボはスタートと同時に、マラソン大会で最初だけ頑張るお調子者の如く先頭に躍り出ます。冬の冷たい空気を切り裂きながら単騎で駆けるツインターボと後続馬との差は開く一方で、思わず笑ってしまうほど物凄いリードを拡げます。観客に「もしかしたらこのまま……勝つんじゃないのこれどうすんの……」と思わせたのも束の間、あっという間に差を詰められ、どんどん後続馬に抜かれていきます。馬群に埋もれながらも必死に前を向いて走るツインターボですが、やっとゴールに辿り着いた時には最下位の13着、大差での敗北でした。しかし、この見事なまでの負けっぷりこそが、ツインターボの魅力であり、ある意味真骨頂なのです。


http://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2015/10/race_view.png
凄い逃げるツインターボ(出典:YouTube

勝つ時も負ける時も、ツインターボは常にスタートからエンジンを全開にします。その姿はまるで逃げなければいけないという宿命を、生まれた時から背負っていたかのようです。もちろん観客もツインターボの大逃げを期待します。しかし、多くの場合は逆噴射し玉砕してしまいます。次のレースでも、また懲りずに先頭をひた走り、やっぱり玉砕するのですが、お金を賭けた人ですら「やっぱりやりやがった! しょうがねえなあ」と笑っているのです。単純に博打をしているだけではこんな笑いは生まれません。ツインターボに魅了された人は、入場料代わりに馬券を買って、ツインターボ劇場というエンターテイメントを観ているのです。

観客はそのツインターボの姿を、自分の人生に重ねます。敗戦を繰り返してもツインターボは逃げ続けます。そして、時折痛快な大逃走劇を繰り広げ、逃げ切って勝つその姿に「自分も失敗ばっかりだけど、明日こそは勝てるかもしれないな」と自身を重ねるのです。

いや、もしかしたら「今日こそは逃げ切れるかもしれない」と思わせておいてやっぱり逃げきれないという、負け続けるその姿に自分を重ねているのかもしれません。

ツインターボはその後、1995年に上山競馬へと転厩し、初戦を勝利で終えたものの、その後は格落ちの馬相手に連敗し続け、9歳で引退することとなります。その後、宮城県で種牡馬としての余生を過ごすも1998年、最後まで逃げ続けるかのように、心不全で死亡してしまいました。

生涯戦績は35戦6勝(中央・地方競馬合算)、記録には残りませんでしたが、気持ち良さそうに、たったひとりで風を切りながら、誰よりも先にターフを駆けていくその姿は、多くの人の記憶に残っています。

今回、久しぶりにツインターボの映像を観て、私も自分と彼を重ねてしまいました。さっさと競馬で一発当てて、人生を逃げ切りたいと思います。それではいつか、競馬場で逢いましょう。

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