これさえ観ておけば大丈夫、話のタネになるパンク映像
バンド名でハッタリはカマせても、やはり一度くらい曲は聴いておいた方が良いでしょう。
「パンクって歪んでて、うるさくて、大体同じ感じじゃないの?」と言う方が良くいますが、仰る通りです。もちろん、色んなバンドを聴き比べれば違いはだんだんと分かりますが、なるべく聴き分けられるように、上述した世界三大パンクバンドから、違った毛色の曲でオススメをピックアップしてみました。
「Sex Pistols / NO FEELINGS」
Reference:YouTube
セックス・ピストルズの曲と言えば「Anarchy in the UK」や「God Save The Queen」が有名ですが、この「NO FEELINGS」も最高です。これぞピストルズ! という正しいパンク顔をしたヴォーカルのジョニー・ロットンがたまりません。当時のライブの様子が映っているのも観ていて楽しいですね。客のファッションの6割方に狂気を感じるのも非常にポイントが高いです。
このNO FEELINGSが収録されているアルバム「Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols」は、ジェイミー・リードが手がけたアートワークも必見です。どこかで見たことがあるという方も多いのではないでしょうか?
出典:amazon
ちなみにライブ中に客がピョコピョコと飛び跳ねているのは、別にマサイ族の真似ではなく、「ポゴ・ダンス」という歴とした伝統パンク芸能です。
「The Clash / London Calling」
Reference:YouTube
ペニー・スミスが撮影したベースをステージに打ち付けるジャケットが印象的なアルバム「London Calling」からのタイトル曲MVです。実はクラッシュ、他に突っ込みどころのある映像も沢山あるのですが、この映像が好きすぎて載せてしまいました。格好良すぎて面白いことがひとつも言えません。
本曲が収録されているアルバムは、LPだと2枚組使用になっています。これはバンド側が「ファンにできるだけたくさんの曲を届けたい」との思いから、
「今回のアルバムは12インチシングルをオマケに付けたいんだよね! いいっすか?」
とレコード会社に嘘の打診をし、OKが出たのでその12インチシングルをフルレングス(要はもう一枚アルバムを付けた)で録音したため、イギリスではLP1枚の価格で売られたという非常にパンク的なアルバムとなっています。
私が好きなエピソードに、ある日のライブ後、ヴォーカルのジョー・ストラマーにファンが「僕はクラッシュのファンなんだけど、ライブのチケットが高くて入れないんだ」と言い、それを聞いたジョーは涙を流して悔しがったという話があります。当時のクラッシュは、ライブのチケット代などをなるべく下げていたにも関わらず、入場料すら払えない若者がいるという当時のロンドンの社会状況を現すエピソードであり、いかに彼等がファンのことを考えていたのかという優しさが垣間見れます。
「The Damned / New Rose」
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デイヴ・ヴァニアンの溢れるマッドネスと、時折飛び込んでくるベース、キャプテン・センシブルのキレッキレなファッションセンス、ブライアン・ジェイムスのギターは雷鳴のように轟き、そしてラット・スケイビーズの統制のとれた工事現場のような超絶的な爆音ドラミング。これこそがパンクです。
ヴォーカルのデイヴ・ヴァニアンは元墓掘り職人という非常にパンクと親和性の高い職歴の持ち主という逸話があり、本人は「墓掘り職人はデマ。マルコム・マクラーレンからメンバーを紹介してもらったんだよ」と言っていますが、ご尊顔を見る限り、どう考えても掘ってます。
絶対掘ってるよね……(出典:Youtube)
仮に本職ではなかったとしても、2、3回は趣味で掘ったことがあるはずです。
「マルコム・マクラーレン」という業界用語が出てきたので、一応補足します。マルコム・マクラーレンとは、幼少の頃より祖母に
「良いことをするのは退屈、悪いことをするのは良いことよ」
と教えを受け、以降その教えをしっかりと守り、すくすくと成長した結果、セックス・ピストルズを売り出し、ロンドンパンクムーブメントを一代で創り上げ、稀代の悪徳プロデューサーとして名を馳せた後、ヒップホップミュージシャンに転向した異能の人物です。ちなみに、先日戦車でデーヴィッド・キャメロン首相邸に乗り付け、シェールガス採掘に対する抗議活動を行ったヴィヴィアン・ウエストウッドとの間に一児をもうけています。余談ですが、マルコム・マクラーレンの命日はヴィヴィアン・ウエストウッドの誕生日でした。
少々話が飛びました、ダムドに戻りましょう。そう、何を隠そうこのNew Roseこそ、ダムドのファーストシングルにして、イギリス初期パンク、最初の1枚なのであります。このシングル、「Stiff Records」というレーベルから出ているのですが、実は私スティッフ・レコードのコレクターでもありまして、いつかスティッフ・レコードのめくるめくどうしようもない世界を怒られなければご紹介したいと思っています。
「The Stranglers / No More Heroes 」
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最後は、ザ・ストラングラーズ1977年の映像です。観ていただければ分かりますが、演奏がやや上手いです。それもそのはず、他のバンドに比べて音楽的なキャリアがあり、割と年長者が集まっていたからなんですね。なぜかスタンディングドラムで完全に二日酔いのドラマー、ジェット・ブラックが、後ろを向いて虚空を切るエアドラムを繰り出すところが一番の見所です。ちなみに、本当はめちゃくちゃドラムが上手いです。
一見、今まで観たバンドに比べ、映像全体からやる気のなさが漂い、パンク特有の狂気や勢いは感じられませんが、ローリング・ストーンズの楽屋を襲撃したり、ザ・クラッシュと乱闘騒ぎを起こすなど、ステージ外でもしっかりとその存在感を表しています。
このストラングラーズの音楽性は、後のニューウェイブなどにしっかりと継承されていきます。
こうして観ると、パンクの音楽面やファッション面には、もり蕎麦とざる蕎麦ほどとも言える多様性があるということがお解りいただけるかと思います。