制作会社でコピーライターをしていた29歳のある日。ふと「辞めよう」と思いつき、サラッと無職になった。清々しいくらいにサラッと辞めた。今から10数年前の話である。
その時代は今以上に誰もが「30歳」になるのを恐れていた。まったく異なるステージへ移行するという感覚が強く、酷い焦燥感とともに「大人にならなきゃ」と慌てふためく時。20歳の成人式なんて何の意味も為さない。ここへ来てやっと大人になることに観念するのである。
そんな崖っぷちの時期に無職になって、はじめに思い浮かんだのは「そうだ、海外へ行こう」だった。「そうだ、早く転職しよう」ではなかった。洋楽を聴くわりにはまったく国に興味がなく、これっぽっちもリアルに感じなかった海外だが、どういうわけか「行かなきゃいかん」と思うくらいの使命感にかられていた。
そのワケは、たまたまイギリス人と話す機会があり、そのイギリス人が街頭でポケットティッシュを配っていることに目を輝かせて感動していたその仕草を見て、それまでの考えがガラリと変わったからだ。どうも、イギリスではポケットティッシュは高価なものらしかった。
「これは本国へ行って確かめてこなければ。そして彼らの頭の中をもっと知りたい」
そう思ってからすぐに外国人の英語教師を探してカフェで英語レッスンを受け、宿もエアチケットも速攻手配。もう気分は視察団である。ヒマだらけの無職のパワーをなめてはいけない。
そして時は初秋の頃。「あんたがお骨になって帰ってきてもそれはそれで・・・」とこっちのビビる内心なんかお構いなしにジャブを入れてくる母親の言葉を振り払い、ひとり成田を飛び立った。初の一人旅、約一ヶ月。イギリスとオランダ、ベルギーをメインに廻ることにビビらない奴なんているのだろうか。そんな海外で出会ったへんなもの、へんなひとたちを紹介したいと思う。
ロンドン着直前に機内から撮影。ビビっていた気持ちもこの景色を見て吹き飛ぶ!