男「ずっと一緒にいたいね」女「将来同じ施設に入りたいね」
過去に付き合った幾人かの彼氏たちは、「ずっと一緒にいたいね」「結婚したいな」というような曖昧で甘い言葉をくれた。大事な思い出である。
彼女たちと交わした言葉は、もっとシビアだった。とりわけビターだったのが、21歳の頃に付き合っていた彼女だった。付き合い始めて1週間で、「貯金してる?」という質問をされるようになった。しているわけがなかった。「してない」と答えると、矢継ぎ早の質問が押し寄せてきた。
「どんな施設に入りたい?」「孤独死についてはどう思う?」「とにかく怖いのは認知症だから」「それから、筋力もつけておかなきゃ」「そのために、あなたは今、何をしてるの?」
鼻水を垂らしたアホの学生だったわたしはまだ、施設のことも筋トレのことも考えたくはなかった。「こんど話そう」と言って逃げようとするわたしを掴まえて、彼女は「今、考えるのよ」と詰め寄った。会う度に真顔で問われた。「将来のためにあなたは今、何をしているの?」と。彼女だけが当時のわたしに、思い出ではなく現実を差し出してきた。
曖昧で甘い言葉も愛だけど、逃げようのないビターな現実は、もっと愛だった。わたしは時々、預金通帳の残高確認をしながら、彼女のことを思い出している。