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『暇と退屈の倫理学』を読んで、転職の言い訳を考えてみる

岡田麻沙 岡田麻沙


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人間関係でも仕事でも、少し前までは夢中になっていたものが突然、どうしようもなく退屈に感じられ、冷めてしまうことがある。そうなるともう元には戻れないからやっかいだ。「ずっと好きだって言ってたくせに!」と泣きながら詰められたり、「お前一生この会社で頑張りますって言ったじゃねえか! お前の一生は2ヶ月かよ! ああ!?」と優しい上司からマジで怒られたりする。まことに申し訳ないと思う。だが、わたしの心はもうそこにはない。「すんません、なんか冷めちゃったんです」と、できるだけ誠意を込めて真実を伝えてみても、先方の怒りは収まらない。

國分功一郎の著作『暇と退屈の倫理学』を捲ってみれば、この「なんか冷めちゃった。ゴメン」という言い訳を最大限に理論武装するためのアイテムに満ちている。ミッチミチである。本書は全369ページ、注を含めると412ページにわたって、「暇と退屈」についてつまびらかにした超大作だ。というか、注だけで36ページあるって、おかしくないかこの本。

著者が哲学者であること、ページ数が多いこと、「倫理学」というなんだかお説教されそうな響き、「結論⇒あとがき⇒注(36ページ分)」まで読んで、終わったと思ったら「付録(23ページ分)」が始まるという粘っこさ、などを理由としてか、わたしが本書を勧めてみた友人たちからは軒並み「あらすじだけ教えて」「読めたら読む」というつれない返事が返って来た。

でも実はこの本、思想系の書籍としては、抜群に読みやすい。やさしい文体、時系列で整理された構成、細かく区切られた簡潔な見出し。そして、國分功一郎の文章は平易なだけではなく、イカすのである。たとえば國分功一郎は序章において、暇と退屈をどのように過ごすかというスタンスを下記のように表現している。

人はパンがなければ生きていけない。しかし、パンだけで生きるべきでもない。私たちはパンだけでなく、バラももとめよう。生きることはバラで飾られねばならない。
引用:『暇と退屈の倫理学 増補新版』國分功一郎(2015年)太田出版、P28

イケている。大変イケている。「生きることはバラで飾られねばならないので・・・」と呟いて辞表を差し出せば、上司だって「お、おう」と頷いて受け取ってくれる可能性すらある。

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