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ユウジの告白【連載】さえりの”きっと彼らはこんな事情”

さえり さえり


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時刻は23時43分。

5分後には、押上の家へ帰る彼女の終電がやってくる。

昼間とはうって変わって冷たい風が吹き、まだ夜道は冬の雰囲気を漂わせている。賑やかな中目黒の駅が徐々に近づき、人影がぽつぽつと見えるようになった。

「間に合いそうでよかった〜」
ホッとした顔で微笑む彼女を見て、(終電を逃してもいいのに)と心の隅っこでわずかに思い、直後その邪な心を恥じた。

瀬戸ユウジ、21歳。趣味はB級映画鑑賞。高校の時に押しの強い女の子と付き合ったことがあるが、たった半年で振られてしまい、それっきり恋人はいない。周りに彼女ができるたび「俺も」と意気込むのだが、いざ好きな人ができると「いちゃつく自分」を想像してしまい、そのこと自体が恥ずかしくなり、徐々に嫌悪感へと変わり、ひとりで恋を終わらせてしまう。(自分は、恋をするには自我が強すぎる)。それが、ユウジ自身が“恋ができない理由”として思い当たったことだった。

それが。今度ばかりはスムーズに恋に落ちてしまったのだ。驚くほど簡単に。

グループワークの多い授業で一緒になったチヅルは、学部が違うが同い年。控えめだけれど、必要なときにはしっかりと意見を言える。「うーん、わたしは違うとおもうんだけどさ」。ユウジが言おうか迷っていることをスパッと言ってくれる。その様子を見ているうちに、彼女のことが忘れられなくなっていた。

そうしてグループで居残りして課題を片付けたり、そのあと打ち上げでご飯に行ったりするうちに、完全に好きになってしまったのだ。家に帰っても、ずっとチヅルのことを考えている。ユウジは自分でも驚いていた。(自我がどうとか・・・関係なかったんだな)。不思議だ。あんなに悩んでいたあれこれが、一瞬で消えてしまったのだから。

最後のグループワークを終え、これで終わりかと思うと我慢ならずチヅルを食事に誘った。お茶をしたり、夜ご飯を食べたり。もうすでに5回は会っている。一度だけ、酔っ払ってしまったことを理由に帰り際に手をつないでみたが、その手は振り払われることはなかった。もちろん、そのことについては二人とも触れていない。チヅルは、俺に好意があるかもしれない。その気持ちは徐々に確信へと変わっていった。

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