ユウジの告白【連載】さえりの”きっと彼らはこんな事情”

さえり さえり

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春が来る。外はあたたかくなってきたし、足元でホトケノザがちいさな花を咲かせているのも見たので間違いない。しかも先日、恋のはじまり(と勝手に思っているもの)も目撃してしまった。

寒暖差にやられ、なんとなく憂鬱な気分で打ち合わせへ行き、一人で早めのラーメンをすすったあとだ。電車で座ってぼんやりとしていると、男女二人組がわたしの目の前に立った。彼らは大学生くらいで、垢抜けてはいないもののどこか軽やかで春めいた雰囲気をまとっていた。

普段なら気に留めなかったかもしれない。でもこの日は違った。だって、この二人の間にはなんとも言えない空気が漂っていたのだから。

ぽつ、ぽつ、と交わされる会話。よくわからないところで控えめに起こる笑い声。じっと見つめる二人の視線。そして、やたらと気にする口元。

・・・わたしは持論として、やたらと口元を気にする女の子は目の前にいる相手に対して好意がある・・・と確信しているのだけれど、この女の子の口元への意識は半端なかった。唇を少し噛んでみたり、手で隠してみたり。あまりに口元に意識がいっているので、もしかしたら二人は、一度キスをしたことがある仲なのかもしれない(けれど付き合うには至らなかったのかもしれない)とさえ思った。

好意があるのは女の子だけじゃない。男の子のほうも、話をするたびに彼女を見ていて、その目には確実に好意が浮かんでいた。

(へえ、いいなあ、恋ですか)。

 

わたしは遠慮なく二人をジロジロ見つめてみるが、彼らは気づかない。まったく、驚くほどにお互いしか見えていないのだ。「お腹空いてる?」と男の子がいい、「うん、食べようと思ったら食べられるよ!」と女の子が言う。食べようと思ったら食べられる、なんて、本当はお腹ぺっこぺこな時に使う言葉だ。同じ女として、さらに確信する。

呼び方が苗字であることや会話のぎこちなさから推測するに二人は恋人同士ではなさそうだが、もしかしたら彼らが付き合う日は、今日かもしれない・・・と思った。

彼が告白するとしたらどんなシチュエーションだろう・・・。考えを巡らせてみると、見えてきた。きっと、こうだ。

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